三つの歌●ボクシング [day by day]
村田諒太がやってくれました。
準々決勝あたりから接戦続きで、運もありましたが、それを味方にするのもチャンピオンになる条件。
報道で繰り返されていますように、東京オリンピックの桜井孝雄以来、48年ぶりの金メダルで、銅メダルの清水聡ともども久びさにアマチュアボクシング界が盛り上がり、注目を集めています。
村田のなにが超快挙かというと、まずミドル級での優勝。
ミドル級はその名のとおり、世界では中量級なのですが、日本では重量級。
中量級は最もスピードと迫力が反映されるクラスで、体格的にも世界で最も層が厚い、つまり強豪がひしめいているといわれています。
日本人で、プロの世界であまたいる世界チャンピオンでも、ミドル級クラスになると数えるほどしかいないことでも日本人が中量級で頂点に立つことのむずかしさを証明しています。
もうひとつは桜井孝雄のように地の利をいかした地元開催ではなく、異郷の地での優勝ということ。
はじめに接戦といいましたが、試合を見ていて(みびいきは多少あるけど)ジャッジが村田というか東洋人に厳しすぎる傾向があるような気がしました。そのなかでの金メダルですからさらに価値がある。
かつての桜井孝雄はもちろん、ローマの田辺清、メキシコの森岡栄治を見てきた人間としては、まさか一度に二人もメダリストが誕生するとは考えも及びませんでした。
とにかく村田、清水の快挙はそれだけを“肴”にして一杯呑めるほどの“旨さ”でした。
それにしてもロンドン大会は過去最多のメダル獲得数だそうで、まぁ、大健闘といえるのではないでしょうか。ただし金が少なかった。
事前の識者の予想でもほとんどが10数個というもので、わたしも柔道であと3~4個を期待していました。
しかし、金メダル7個のうち6個までが格闘技というのもスゴイ、というか偏りすぎ。
日韓サッカーの3位決定戦で韓国選手の試合後の政治的デモンストレーションが問題になっていますが、ほぼオリンピックは何事も無く終了しました。
次のリオが待ち遠しい、って気が早すぎるか。
とにかく村田の快挙はひさびさにこの数日間心たのしくさせてくれる出来事でした。
その金メダルを祝して、今回はボクシングに関する歌を三つ。
日本でいえばまぁ、一番人気が「あしたのジョー」のテーマでしょうが、二番、三番が出てきません。
たとえばマニー・パッキャオのように歌うチャンピオンというのも日本ではあまり聞きません。
具志堅用高あたりCDを出しているような気もしますが、知りません。
唯一知っているのは伝説のボクサー・ピストン堀口が戦前にレコーディングした「リングの王者」という歌。何度か聴いたことがありますが、およそボクサーとは思えない(どんなイメージだ)やさしい声でした。作曲は売れっ子古賀政男。
そんなわけで邦楽はあまりでてきそうもないので、いくらか知ってる洋楽を。
洋楽でもっとも知られたボクシングミュージックといえば、なんといっても映画「ロッキー」のテーマ。いまだにスポーツ番組やバラエティで使われているぐらいポピュラー。ただしこれはインストなのでパス。
つぎに有名(だと思う)なのはサイモンとガーファンクルSimon & Garfunkelの
●「ボクサー」 The Boxer
都会に出てきた貧しい青年の苦闘の日々と哀感を、打たれつづけながらもいまだ戦いをやめないボクサーにたとえて歌っている。
Lie la lie ……
というリフレインが印象的かつ象徴的。
1969年に発表された曲ですが、若者が都会に出てきて戦いつづける(負けることの方が多いのだが)という構図はいまも変わらないような気がします。
カヴァーするシンガーも多く、カントリーではエミルー・ハリスやアリソン・クラウスなど女性がお気に入り。
次はボブ・ディランBob Dylan 。
ボブ・ディランのボクサーといえば、殺人容疑で投獄された元ミドル級ボクサー、ハリケーン・カーターの無実を訴えた「ハリケーン」Hurricane でしょう。
映画化もされ、この歌の力だけではないですが、その後ルビン・カーターは無罪釈放されています。
しかし、この歌は以前とりあげたので、今回はもうひとつのディランのボクシングミュージックを。
●誰がデビー・ムーアを殺したか Who Killed Davey Moore
これまた「殺人」の歌ですが、「ハリケーン」のような犯罪ではなく、リングの中での「殺人」つまり「リング禍」をうたったもの。
1963年に行われた世界フェザー級タイトルマッチで起きた事故。
チャンピオンはアメリカのデビー・ムーア。チャレンジャーはメキシコのシュガー・ラモス。
どちらも日本でタイトルマッチを戦ったことのある名ボクサーです。
試合はラモスのTKO勝ち。
負けたチャンピオンはその後死亡。原因は最後の10ラウンドに挑戦者のパンチを受けてダウンし、そのとき後頭部をロープにぶつけたことといわれています。
ダウンを喫したムーアは立ち上がったもののグロッギー。にもかかわらず、レフリーは試合を続行。そのことも後日問題になりました。
とにかくこの世界戦での「リング禍」は社会問題となり、ディランも無視できず歌をつくったというわけでしょう。
その後、リングのロープが三本から四本になったり、硬いスチール製から緩衝性のある素材に変えたりと、ボクサーの生命を守る対策が講じられるようになりました。しかし、それでも「リング禍」が完全になくなったわけではありません。
三曲目も、やはり「ボクサーの死」にまつわる歌。
といってもこちらはリング禍ではなく、飛行機事故で死んだチャンピオンの歌。
チャンピオンはマルセル・セルダン。こちらも村田諒太やハリケーン・カーターと同じミドル級の世界チャンピオン。
うたったのは彼の恋人だったエディット・ピアフEdith Piaf 。
といえば御察しのとおり歌は
●愛の賛歌 Hymne a l amour
♪あなたの燃える手で わたしを抱きしめて
という越路吹雪の名唱、岩谷時子の名詞でしられています。
原詞は「天が落ちようと、地球が割れようと あなたさえ愛してくれれば かまわない」
「あなたのためなら 盗みだってするし 国を捨てたっていい」 というさらに激しいもの。
ピアフは、激愛していた恋人の死後、失意のなかでつくったといわれています。
マルセルの乗った飛行機はニューヨークで公演中のピアフに逢いにいくための便。ピアフが「迎えに来て」といったという話も。
ピアフの嘆きが大きかったわけは、そのことへの後悔があったからかもしれません。
でももし、マルセルが事故に遭わなかったら「愛の賛歌」は誕生しなかったかもしれない。
皮肉なことです。
最後にもういちど村田諒太選手の話題を。
どうしても気になるのが「プロ転向」。
かつてのメダリスト3人は、金メダルの桜井孝雄をはじめすべてプロの道を選んでいます。
3人ともプロで金メダルは獲れませんでしたが、好成績をのこしています。
で、村田選手にもそうした勧誘はこれからもあるはずで、契約金も億単位になるかもしれません。「プロ入り」すれば必ず世界チャンピオンになれると太鼓判を押す現役世界チャンピオンもいるほど。
ただ、村田選手にはいまのところ(これが重要)プロへ行く気はないようで、自分に続くアマ選手を育てたい、というのが希望だとか。
個人的には彼がいうとおりアマチュアの世界にとどまってほしい。
今はそういうことはないでしょうが、桜井がプロ入りしたときはトラブル(アマだけですが)になりました。
やはり、アマチュアの世界でいつまでも褪せない「輝ける星」、伝説のボクサーになってほしいというのが願望です。
最近亡くなったオリンピックを三度制したキューバのステベンソンはアメリカからのプロへの勧誘を最後まで断り続けアマに徹しました。プロへ転向し、モハメド・アリとの試合が見たいというファン(わたしもそう)も多かったのですが、自分の意思をつらぬきました。それはそれでカッコよかった。
村田選手は現在、自身在籍した東洋大学の職員であり、同ボクシング部のコーチをしているそうなので、それを続けてほしい。そして有能な指導者になって次なるゴールドメダリストを育ててほしい。
聡明そうな奥さんには、キッチンの冷蔵庫に貼るポスターに「プロで世界チャンピオンになりました」などと書かずに、「金メダリストを育てました」という未来予想をしていただきたい。
S&Gそっくりですが、アリスに・・・。(-_-;)
by Mashi☆Toshi (2012-08-14 14:05)
Mashi☆Toshiさん、いつも恐縮です。
そうでしたね、アリスの「チャンピオン」がありましたね。
実在の元チャンプがモデルだったとか。
沢木耕太郎の「一瞬の夏」と同じモデルでした。
今は横浜の石川町でジムを経営してます。
息子は元高校チャンプでプロになったとか(まだかな)。
ライラ ライはやはり影響されたのかな。
バイバイバイや昴の件もありましたね。
by MOMO (2012-08-21 00:38)