●風の歌を聴け/アメリカンポップス [books]
小説のなかに音楽の話が出てくると、その小説の良し悪しとは別に親しみが湧くものです。それが、知っている音楽、さらにいえば好きな歌や曲だったらなおさら。
ただ、小説、とりわけ純文学的な作品では、ポップスや流行歌の歌手名はもちろん、曲名すらほとんど具体的には書きませんね。
わたしの知る範囲(たいしたことない)では、ポップスやジャズなど洋楽はいくらかありますが、歌謡曲はまずない。Jポップはどうなんでしょう。なにしろ、最近の小説はまるで読んでいませんので。
ではそんな数少ない小説から。
村上春樹の「風の歌を聴け」です。いかにもタイトルがそんな感じで。
村上春樹は年齢でいいますと、わたしより少し兄貴になりますが、ほぼ同世代。
毎年話題になる作家ですが、彼の音楽好きはつとに有名。
主にクラシック、ジャズ、ポップス&ロックですが。
とりわけジャズはジャズ喫茶で働き、大学を出てからは自らジャズ喫茶のオーナーになったほどのめり込んでいたようです。
「風の歌を聴け」は彼のデビュー作ですが、ほぼリアルタイムでわたしも読みました。
いちばんはじめに読んだのが2作目の「1973年のピンボール」。これはタイトルに惹かれて読んだのでした。
とにかく「翻訳臭」のする小説というのが第一印象でしたが、登場人物のドライな人間関係が新鮮でしたし、幻のピンボールマシーンを探すというミステリアスなエピソードが面白かった。
そして、ジャズ、クラシック、ポップスがまるでストーリー全編のBGMのように〝流れていた〟ことが読み応えのひとつでした。
そんな「1973年のピンボール」の読後感がよかったので、ひとつ戻って「風の歌を聴け」を読んだというわけです。
その「風の歌を聴け」は、1970年の一瞬の夏を描いたラブストーリーで、相変わらずの「翻訳臭」はあるものの、ドライな日常、ドライなセックスがまさに風のようでさらに心地よく、登場人物がやたら「うんざり」するのにはウンザリしましたが、ラブストーリーとしては「1973年のピンボール」よりも読後感がよかった。
そしてもちろん音楽も。
ラジオから、ジュークボックスから、家のレコードプレイヤーから村上春樹お気に入りのミュージックが絶え間なく流れ続けます。
もちろん、それはジャズであり、ポップスでありクラシックなのですが。
では、あまた聴こえてきた風の歌のなかから、共振したオールデイズをいくつか。
小説の中の好きなエピドードのひとつが、ラジオDJとのやりとり。
まるで映画「アメリカン・グラフィティ」のワンシーンのような。
映画では主人公がDJのウルフマン・ジャックに、一目ぼれした白のサンダーバードのブロンドへの伝言を頼むというストーリーですが、「風の歌を聴け」では、DJから主人公に電話がきて、「君にリクエスト曲をプレゼントした女の子が……」と伝えるという話。
それは高校時代の同級生で、彼は彼女からLPレコードを貸りたまま紛失してしまったということを思い出します。
彼女からのリクエスト曲というのはそのLP(「サマー・デイズ」)のなかの一曲、
「カリフォルニア・ガールズ」ビーチ・ボーイズ
そのあと主人公は同じレコードを買って彼女に返すべく、探すのだけれど、なかなか所在がわからない。当時の高校やクラスメートに問い合わせたり、やっと見つけた彼女の下宿先にも電話するのだけれど結局わからないまま。
で、結局彼はひとり部屋でそのビーチボーイズのLPを聴くっていうのがいいですね。
ちなみに「カリフォルニア・ガールズ」は小説のラスト間際、9年後の〝後日談〟にも出てきます。
主人公はいまでも夏になるとビールを飲みながら「カリフォルニア・ガールズ」の入ったLPに針を落とし、カリフォルニアのことを考えるのだと。
せっかくのビーチ・ボーイズなのでオマケをひとつ。
ここはロケンロールを。
「ファン・ファン・ファン」も捨てがたいですが、チャック爺さんの名曲「サーフィンUSA」を。
2曲目も、ラジオのDJが紹介するリクエストナンバー。
「フール・ストップ・ザ・レイン」クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル
「誰が雨を止めるのか」。一部ファンのあいだでは、雨がナパーム弾のことであり、ベトナム戦争に対する反戦歌だという話もありましたが、たしかCCR自身がそのことを否定したということだったような。
また「風の歌を聴け」が初めて雑誌に掲載された時は「フール・ストップ・ザ・レイン」ではなく、ストーンズの「ブラウン・シュガー」だったとか。
どうして変えたのだろう。まさか薬物のイメージがマズイということでもないだろうが。
しかし勝手なイメージですが、村上春樹とストーンズはシックリこないので正解だったかも。
とにかくヒット曲「雨を見たかい」もいいけど、こちらの「雨の唄」も耳に残るCCRの名曲です。
日本でもシングル盤として発売されました。
ついでですから、CCRもオマケの1曲をやはりロケンロールで。「フール・ストップ・ザ・レイン」のA面だった「トラヴェリン・バンド」を。
最後はエルヴィス・プレスリーを。
エルヴィスの曲は「風の歌を聴け」の中に2曲出てきます。どちらも好きな曲で、以前もリアルタイムで聴いたエルヴィスの曲ということで紹介しましたが、だいぶ前のことなので、2曲とも聴いてみようと思います。
まずは主人公の「僕」がはじめてのデートのことを回想するシーンで。
それはエルヴィスの映画を観にいった思い出で、その主題歌の訳詞が一部紹介されている。
例によって曲名や映画の題名はあえて記されていない(これが村上龍じゃなくて村上流)。
でも、その訳詞から曲は「心の届かぬラブレター」で映画は「ガール!ガール!ガール!」であることは、エルヴィスのファンならすぐにわかります。
もう1曲はやはりラジオのヒットパレードでリクエストされたという曲で、これも日本ではそこそこヒットした「グッド・ラック・チャーム」。
どんな霊験あらたかな(われながら古い)お守りよりも君こそが幸福の女神だ、というラブソング。日本でもザ・ピーナッツをはじめカヴァーされていました。
このブログを書くためにこの「風の歌を聴け」を再読して、当時は気づかなかったことやかつては受けなかった印象がいくつかありました。まあ、時を経た歳をとったということなのでしょう。
ただ、あらたなる親近感や違和感を含めて、昔よりは村上春樹という作家を自分なりに理解できたような気がして、読み直してよかったと思っています。慣れなんでしょうが「翻訳臭」もさほど気にならなくなりましたしね。
実は、村上春樹はあと1冊というか、1作品を読んだことがあるので、次回はその本と、そのストーリーの隙間に流れていた音楽を聴いてみたいと思います。なるべく早い機会にね。
Ma-toshiさん、ごぶさたです。
読んでいただいてありがとうございます。
そろそろ息切れしておりますが、なんとか生き延びております。
by MOMO (2015-06-26 01:35)
makimakiさん、いつもありがとうございます。
更新の多さ、敬服しております。
by MOMO (2015-06-26 01:38)