●歌謡曲が聴こえる③霧笛が俺を呼んでいる [books]
今日は雨も降っているし、気分がのらないので休日にしました。
そこでようやくブログを書くことにしました。では。
片岡義男は「歌謡曲が聴こえる」の中でトニーこと赤木圭一郎にふれている。
片岡義男とトニーはともに昭和14年(1936)生まれ。学年は早生まれの片岡が1級上だが、まさに同世代。
前々回でもふれましたが、片岡義男が歌謡曲に興味をもったのは大学4年生の昭和37年(1962)。
その2年前に赤木圭一郎の代表作ともいうべき日活映画「霧笛が俺を呼んでいる」が劇場公開されている。
つまり、片岡義男が映画主題歌も含めた歌謡曲には無関心だった頃に封切られた映画で、その当時の映画のポスターを見た彼は一緒にいた友達に軽口をとばした、というエピソードがその著書に書かれている。
それほど、歌謡曲さらには日本映画には関心がなかったということなのだろう。
ちなみに、片岡義男が歌謡曲を掘り下げていった年、赤木圭一郎は撮影所の事故で亡くなっている。21歳だった。
片岡義男が映画「霧笛が俺を呼んでいる」を観たのは40年後の2004年のことだという。ただ、同名の主題歌は蒐集していた歌本から知っていたようで、7インチのレコードを探したがみつからなかった、ということもその著書に書いてある。
ちなみに片岡義男がその著書でしばしば書いている「7インチ」のレコードとは、当時の言葉でいえばシングル盤のことで、LP盤に対して便宜的にEP盤と呼んでいた。
ただ実際のEP盤とはLP盤よりコンパクトで、シングル盤より多くの楽曲が録音されたレコードのことで、たしかにシングル盤と同じ直径7インチ(17センチ)で、4曲あまり録音されたレコードがあった。
余談はさておき、著書のなかで片岡義男は「霧笛が俺を呼んでいる」について、不条理なストーリーの映画はともかく主題歌は「いい歌だ」と書いている。
トニーのファンとしては片岡義男が同世代の役者・赤木圭一郎についてどういう印象を抱いているのか知りたいところだが、残念ながらそのことについてはふれていない。
赤木圭一郎について書かれた部分はわずか4頁足らずだが、そのなかで最も興味を惹いたのが、片岡義男がのちに中古レコード店で入手したという、赤木圭一郎のソノシートの話。
なんとそのレコードに録音されていた1曲がハンク・ウィリアムズの「ウェディング・ベルズ」というカントリーなのだと。
もちろんトニーのカントリーなど聴いたこともないし、そんなレコードがあることすら初耳。ただ片岡義男によれば、それはハンクの原曲をバックに自宅でトニーが簡易録音したものだという。それでもその失恋ソングを聴いてみたい。
おそらくまだ10代のトニーが、当時一部若者に人気だったカントリー&ウエスタンを聴いている姿を想像すると、本名の赤塚親弘という「若者」の姿がもう少し、はっきりと見えてくる。
では、赤木圭一郎の歌謡曲を3曲。
まずはじめは、片岡義男がとりあげた「霧笛が俺を呼んでいる」。
映画もそうですが、歌も赤木圭一郎のもっともポピュラーな作品。日活デビュー間もない吉永小百合が親友の妹役で出ている。
「霧笛」とはもともと文字どおり霧で視界不良になった海で、主に灯台から航海中の船に向けてその位置を知らせるために発する信号音のことなのだが、この映画の場合、出航の合図に発する音としてつかわれている。厳密にいえば「汽笛」なのでしょうが、映画や音楽は厳密を求めていないので、それはそれでいいのでしょう。余談ですが。
2曲目は、「流転」。
これは片岡義男がのちに聴いた赤木圭一郎のベスト盤CDの中に入っていなかった1曲で、前述したソノシートに入っていたということで著書に書かれている。
ちなみにこれは当時起きたリバイバルソングブームにのってレコーディングされた1曲だが、さほどヒットはしなかった。オリジナルは戦前の昭和12年に公開された股旅映画「流転」の主題歌。、当時の人気シンガー・上原敏が歌っている。
もちろん映画がトニー主演でリメイクされたということはなく(観てみたいが)、なぜこの歌を吹き込んだのかは不明。片岡義男は、トニーがこの歌の良さを理解できる最後の世代ではないかと書いている。いずれにせよ、トニーが好きだった歌という想像はできる。
原曲と比較してみるとわかるとおり、トニー盤はスローなブギウギにアレンジされ、彼の数少ないレコーディング曲のなかでも、異色であり出色な歌謡曲となっている。わたしはトニーや片岡義男よりひと回り下の世代だが、この歌の良さは理解できます。
最後の曲は、「歌謡曲が聴こえる」には書かれていませんが、わたしのフェヴァリットソング「トニーとジョー」を。
劇画的日活アクションのエッセンスを凝縮したというべき1曲。
拳銃無頼帖シリーズの4作目「明日なき男」の挿入歌。
歌は、トニーの「早撃ちの竜」と宍戸錠の「コルトの錠」の掛け合いになっている。
ちなみにトニーの役名はシリーズ2作目以外は「竜」だが、ジョーは1作目から「銀」、「五郎」、「謙」と変遷をとげ、ようやく最後に「錠」に落ち着いている。
当時は男のデュオもほとんどなかったし、まして主役と仇役の掛け合いというのもめずらしかった。
「霧笛が俺を呼んでいる」には吉永小百合も出ていましたが、いわゆる「相手役」は小百合さんではなく、芦川いづみ。
芦川いづみについて、片岡義男は「歌謡曲が聴こえる」の中で「ついで」として、彼女がナイトクラブで歌う場面と歌唱がレコード化されていないのでレアだというようなことを書いている。
残念ながらそのシーンは覚えていませんが(YOU-TUBEでみつけました。でもほんとうに彼女の歌唱なのだろうか、以前CDでなにかの歌を聴いたことがあったけど、「あまり……」という印象でした。これほど上手ならもっとたくさんレコーディングしてもよかったのに)、わざわざ最後に芦川いづみにふれるということは、片岡義男もあの映画で彼女の魅力にぞっこんだったのではないかと想像してしまいます。
であるならば、原節子、吉永小百合に続いてぜひ芦川いづみを丸ごと一冊書いていただきたい。女優三部作として。
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