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●飴 [props]

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最近出かけるとき、バッグの中に飴を入れてある。

まだ慣れていないので忘れてしまうこともあるけれど、たいがいは家に戻るまでに1個か2個を口の中に放り込んでいる。
梅干しの種ほどの小さな飴で、味も梅。

実は飴なんて、ほとんど何十年も嘗めたことがなかった。
それがしばしば味わうようになったのは、つい先日こんなことがあったから。

そこそこ混んでいる電車中でわたしは吊革につかまっていた。
駅で停車し、前に座っていた人が降りたので、遠慮なく座ることに。

ドアが閉まる瞬間に駆け込んできたのが、老婦人の2人連れ。
ひとりはわたしと同年配で、もうひとかたは80歳は過ぎているだろうと思われる女性。
会話の様子から母娘らしい。

もちろんわたしは先輩女性に敬意を表して席を立った。
座席に腰を下ろした母親の前にその娘が、そしてその隣にわたしが吊革につかまって立っている。

すると次の駅で、母親の隣の席が2つ空いた。
ごく自然にその隣に娘が座り、そのまた隣にわたしが腰を下ろすことになった。

電車が走りだし、しばらくすると隣の娘がわたしの耳元に顔を寄せ、ささやいた。
「飴をいかが」

そして娘はバッグから袋に包まれた小さな飴を2つ取り出し差し出した。
その動作があまりにもスピーディだったので、わたしは遠慮する間もなく、反射的に手で受け取ってしまった。

次の駅が行先だったので、わたしは飴を手の中に握ったまま、2人の女性に挨拶をして下車した。

用事先に行く道すがら、せっかくなので飴を嘗めてみた。
ほのかに甘い桃の味と香りがした。破った紙を広げてみると「ピーチ」と書いてあった。

とにかく、そんなことがあってから、「飴もわるくないじゃん」という気になって携帯するようになったというわけ。

飴といって思い出すというか、よく嘗めたという記憶はやはり小学生のころ。

森永キャラメルに、明治のサイコロキャラメル。駄菓子屋でよく買ったくじで大小がきまるヒモのついた三角のいちご飴。それに、ハッカがでるとがっかりした缶入りのサクマドロップ。
そういえば、野球のくじがついた紅梅キャラメルなんてのもあった。そうそう肝油ドロップなんてのもあって、一度友達にもらって嘗めたことがあったけど、あれはどうもなじめなかった。

そんなこんなで、小学時代はよく嘗めていた飴だが、中学あたりからしゃぶらなくなった。
両親が飴を嘗めているのを見たことがなかったし、それが大人になることのひとつだったのかもしれない。(ガムはもう少し先まで噛んでいたけど)

まぁ、還暦も過ぎて一周したわけだし、再び飴を嘗める齢になったということで。糖尿の方々(最近わたしの周りに多い)には申し訳ないけど。

ずいぶん前置きが長くなりましたが、本題の飴に関する歌を3つばかり。
まずは、これ。

●下町の太陽 倍賞千恵子
ここでは何かにつけて出てくる(出している)昭和37年の歌。
松竹映画「下町の太陽」の主題歌。初期の山田洋二作品ですね。たしか倍賞さんの初主演で、倍賞さんには出来のわるい兄がいて、子供のころ生き別れになっていたのが、ある日突然舞い戻ってきて……、なんて話ではなかったな。

歌は2番に
♪縁日に二人で分けた丸いあめ
とあります。
つぎは、こんなのも。

●青い瞳のステラ、1962年夏…… 柳ジョージ
これも「下町の太陽に」負けないほどここでとりあげた歌。この歌もとてもノスタルジックな風景が広がるメロディーであり、詞であります。

♪赤いキャンディ 包んでくれたのは 古いニュースペーパー
っていきなり出てきます。
どんなかたちの飴だったのだろう。ステラがくれたのだから、PXかなんかで売っていた舶来品なんだろうな。丸い飴で一個一個透明な紙に包装されていてね。
1962年といえばやっぱり、昭和37年。ギブミーチョコレートの時代ではなかったけれど、いまに比べればはるかにお菓子の種類も少なかった。
さいごは、やっぱりこれかな。

●君に捧げるほろ苦いバラード 荒木一郎
♪ゆきずりの夜に買う綿あめは 君と愛した味がする

粒状の飴ではないけれど、これもよく縁日や夜店でよく買った記憶があります。
お祭りではなくても、縁日や夜店はありました。夏の夜の東京下町の風物詩でした。
文京区の千駄木にはその名残の「よみせ通り」がいまでもあります。

この歌も暗い歌だけど、バンジョーとクラリネットのデキシー風なアレンジがいかしてます。
亡くなった「君」へのレクイエムだけど、実はその「君」が荒木さんの飼っていた愛猫だったということは前回この歌をとりあげたときに書いたような。

ちなみに「綿あめ」が出てくる歌はけっこうあります。
ジッタリン・ジンの「夏祭り」、井上陽水の「夏まつり」、さだまさしの「案山子」、同じくグレープの「ほおずき」なんかが。

ところで、冒頭の電車中で飴をもらった話。
なんで、あの女性は飴をくれたのだろうってことが、なにか腑に落ちない。
母親に席を譲ったお礼に、というのはわかるけど、いい大人に飴などをあげるものだろうか。

それよりも思ったのは、もしかしたら、あの飴をくれた同年配と思しき女性、わたしのことをうんと年下だとおもったのではないだろうかと。
実はそのときのわたしは、ダウンにデイパック、ジーンズにスニーカーという年齢不詳の服装。おまけに正ちゃん帽(っていわないか)を耳が隠れるほど目深にかぶり、さらに大きなマスクをしていた。

だから、かの娘さん、わたしのことを若者と間違えて…………。
なことないか。ないよな。あるわけない。考えが甘い。飴だけに。


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