三つの歌●春風はブルーグラスにのって [day by day]
まだまだ春は続いております。
ここんところ上着を脱ぎたくなるような暑さ。
あの、うだるようなジトジト盛夏を予感させるような季節です。
思い返せば、去年のいまごろは何をしても虚しいような気がして、心穏やかならぬ日々が続いておりました。
1年前よりは安楽な時間を過ごせているとはいえ、やはり不安は解消されることはありません。
放射能はいまだ出続けているでしょうし、のど元過ぎればなんとやらで、一時ひろがった脱原発の風潮もいささか退潮ぎみで、再稼働やむなしという世論は静かに確実にふえつづけています。いいのかな。
わたしには、広島、長崎、第五福竜丸、そして福島と、チェルノブイリを除けば例がないほど放射能にいためつけられてきた日本が、持ち前の順応性によってまたも放射能のリスクを受け入れようとしている姿は、まるで“集団自殺”のように見えるのですが。
そうそう、こんなことを書くつもりではありませんでした。
ついつい愚痴が……。
どんな厭なことがあっても音楽はそれをひととき忘れさせてくれます。
現実逃避だろうが、アヘンだろうがかまわない。
やがて時がくればいやでも現実に向き合わなくてはならないのですから、暫しリッスン・トゥ・ザ・ミュージックで。
もういちど言います。まだ春が続いております。
春風にのって聴こえてくるのはブルーグラス。
なんでブルーグラスが春なのか。
まぁ、能書きをいえば、あの軽快な音楽はこれから盛りに向かうシーズン、春にふさわしい。そもそも「ブルーグラス」、青草という言葉が春ではないですか。
それに以前「春風はブルーグラスにのって」という本を読んだこともありまして。やっぱりブルーグラスは夏でも秋でも冬でもなく、春なのです。
というわけで、ブルーグラスのフェヴァリットソングの2012年限定版で3曲ばかりお耳汚しをしてみたいと思います。
まずオープニングはいかにもという曲。
ブルーグラスのなかに「ブレイクダウン」というのがあります。
早弾きってことです。バンジョーだろうがフィドルだろうが、マンドリンだろうがとにかく演奏がめまぐるしいのです。
その代表的な曲が「フォギー・マウンテン・ブレイクダウン」Foggy Mountain Breakdown。
これはブルーグラスに興味がなくても知っている人が多い。
1960年代のアメリカン・ニューシネマ「俺たちに明日はない」につかわれていました。
ただこれは以前とりあげましたので今日はパス。
もうひとつブルーグラスのコンサートで頻繁に演奏されるブレイクダウンナンバーがあります。それが「オレンジ・ブロッサム・スペシャル」。Orange Blossom Special
♪みかんの花が咲いていた
というのはノスタルジックな日本の童謡ですが、こちらの「オレンジの花」号は列車のこと。
「フォギー・マウンテン・ブレイクダウン」はバンジョーが中心ですが、こちらはフィドルが主役。
ということはブレイクダウンではなくて、ボウダウンになるのかな。
ほとんどインストで聴かせる曲ですが、歌詞もあり、その「オレンジの花」号には“オイラのいい人”が乗っている。だからもっとスピードをあげてやって来い、というわけ。
トラディショナルソングで多くのプレイヤーが演ってますが、やはりビル・モンローと彼のブルーグラス・ボーイズBill Monroe and His Bluegrass Boysの印象が強い。
きょうはヴェッサー・クレメンツVassar Clements をはじめトップクラスのフィドラーが終結したYOU-TUBEで。
続いて2曲目はこれも古い歌で、
「ディム・ライツ・シック・スモーク」Dim Lights, Thick Smoke and Loud Loud Music
フラット&スクラッグスFlatt & Scruggs が知られていますが、はじめて聴いたのは、バック・ライアンとスミッティ・アーヴィンBuck Ryan & Smitty Irvin盤。
バックはフィドラーで、スミッティはバンジョー奏者。
歌の内容は、紫煙たちこめ、カントリーミュージックが響き渡るホンキートンクに入り浸る男の話。
仕事が終わると、きまって酒場に足が向かってしまう。そして毎日ドンチャン騒ぎ、これじゃ嫁さんも来ないし、家庭なんて持てるはずはない。でもやめられねぇんだな、こんな生活が。この気持ち、アンタに分かるかな? わかんねぇだろうなぁ。
なんて話。
フラット&スクラッグス盤はペーソスあふれたバラード。しかしバック&スミッティのほうはもう少しテンポが軽快で、YOU-TUBEにはなかったけれど、こんな感じ。
そういえば、カントリーロックのグラム・パーソンズGram Parsonsでも聴いたことがありました。
とにかくブルーグラスのなかでも哀愁たっぷりの好きな曲。
最後は、これまたブルーグラスでは有名な曲。
「転がり込むんだあの娘の腕に」Rollin' My Sweet Babys Arms
ブルーグラスのナンバーというよりカントリーの定番といったほうがふさわしい曲で、それこそレオン・ラッセルやバック・オウエンスなども演っている。
「恋人の腕に抱かれて」なんて邦題もあるようで。
はじめて聴いたのはニュー・ロスト・シティ・ランブラーズThe New Lost City Ramblers 。
スタンレー・ブラザーズThe Stanley Brothers のラルフRalph Stanley の作(トラディショナルという説も)。
こちらも汽車が出てくる歌で、フィドルが見せ場をつくります。
恋人がやってきたら、きっとうれしくって抱きついちゃうよ、と汽車を待ちわびている男の歌。
しかし、彼女の両親からひどく嫌われているというありがちな設定で、結局自分はヘマを打って牢屋入り、その格子越しに他の男と歩いている彼女を見るという最悪の結末。
もはや何度もでてきましたが、最後にもう一度アール・スクラッグスEarl Scruggsを偲んで、ドク・ワトソンDoc Watsonとリッキー・スキャッグスRicky Skaggsを加えたスーパートリオで。
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