VOICE④ハスキー/男編 [noisy life]
♪チイタカタッタ チタカタッタ 笛の音が
ビルの窓から 飛び出して
暗い夜の空へ 流れていく
僕の姉さんの住んでる 遠い国
ヤイヤイヤ ヤイヤイヤ ヤイヤイヤイヤイヤ
僕も行きたいな 夜空をかけて
(「夜空の笛」作詞・作曲:浜口庫之助、歌:守屋浩、昭和34年)
ハスキーヴォイスとは、声帯から音(声)がもれてしまうことで発せられるノイジーな声のことで、擦(かす)れ声あるいは嗄(しゃが)れ声ともいわれています。ただ濁(だみ)声とは違うのだそうです。
個人的認識では擦れ声の度を越したものが濁声だと思っていたのですが、声帯的あるいはノドの構造に違いがあるのでしょうか。
よくわかりませんが、ここは研究所ではなく音楽の広場(ウソつけ)、先を急ぎましょう。
今回はハスキーヴォイスを。それもまずはメンズから。
ハスキーヴォイスにしろ、ダミ声にしろ、いわゆるノイジーな声というのはクラシックはもちろん流行歌の世界でもかつては悪声といって“御法度”でした。
テノールにしろバリトンにしろ声の高低はともかく、とにかく滑らかな声こそが、聴く人の耳触りがよく、歌唱にふさわしい声といわれていました。
それがいつのころからノイジーな声もひとつの個性だと認知されるようになったのでしょうか。
多分、美声に飽きた聴き手が「よく聴けばなかなか味があるじゃん」なんていって、そうした“異声”を歓迎するようになったのではないでしょうか(そんなことないか)。
では、日本初のハスキーヴォイス・シンガーは?
「ウィキペディア」をのぞいたら、「森進一」という説がのっていました。
わたしの印象でもたしかに。
森進一がデビューしたとき、そのノイジーな声に耳を奪われたことを覚えていますから。
デビュー曲「女のため息」は昭和41年のことでした。
当時、ほぼ同時期で次回ふれるかもしれない青江三奈もデビューし、洋楽ではアダモが人気で、「ハスキーヴォイスのトレンドがきたか」(こんな言い方はしないけど)なんて思った記憶があります。
しかし、ほんとうに森進一以前にハスキーシンガーはいなかったのでしょうか。
まずは「欲しがりません勝までは」の戦前をみてみると。
たしかに美声第一主義。右を向いても左を見ても美声というか滑らかな声の持ち主ばかり。
しかしいました、唯一の例外が。
日本の喜劇王といわれたエノケンこと榎本健一が。
……ダミ声じゃないかって? たしかに。まぁ、「これがハスキーかよ」ってツッコまれたら「パピプペ パピプペ パピプペポ」になっちゃいますけど。
では戦後はどうでしょう。
「もはや戦後ではな」くなっちゃった30年代。
たとえばレコード大賞第一号の水原弘。そしてアイドル的人気を得た守屋浩。どちらもロカビリー出身というのが当時の流行歌としては新しかった。
どうでしょうか。
水原弘はどちらかというとダミ声にちかいかも。しかし守屋浩はそこはかとなくハスキーの調べが。
当時、素人の歌真似番組で守屋浩のマネをする人が少なからずいました。それは、ハスキーヴォイスをマネたというよりは、息を吸い込むような独特の歌唱法をマネしていたという印象でした。
ちょっと森進一に比べるとそのハスキー度がソフトフォーカスのような気もしますが、決して滑らかな声ではなくノイジーであることは間違いないでしょう。
もうひとり30年代で忘れられない声といえば、一節太郎がいました。
これは…………。
もはや浪花節のつぶれた声ですね(浪曲師がすべてこういう声ではないですよ)。これをハスキーというにはちょっと……。
ちなみに一節太郎は遠藤実門下で、浪曲師の経験は皆無。なんとか売れたくてわざわざ声をつぶし特徴を出したのだとか。
その思惑がみごとに当たって「浪曲子守唄」は大ヒット。ただその後のヒットが出ず名前どおり一節で終わってしまいましたけど。
その一節太郎はともかく、水原弘をハスキーとするならば、第一号候補は水原か守屋かということに。
デビューはともに昭和34年。ただしレコードのリリースが、守屋は9月、水原は7月ということで、その“栄冠”は水原弘に。(大げさ)
といいたいところですが、実は昭和30年代にもうひとりハスキーヴォイスの大物が。
それが昭和31年「太陽の季節」で銀幕デビューし、同年「狂った果実」(主演)で同名のレコードデビューも果たし、以後映画とレコードで頂点を極めた石原裕次郎。
裕次郎のレコードはエコーを効かしているので、ややわかりにくいところもありますが、セリフ入りのものを聞くと地声からしてハスキーなのがよくわかります。
で、結論。日本のハスキーヴォイス第一号は石原裕次郎ということに。
強引な結論を出したところで、とり急ぎわが愛するメンズ・ハスキーヴォイサー(そんな言葉はない)を。
三島敏夫 裕次郎で思い出すのがこの人。ハワイアン出身で「面影」がヒット。裕次郎の「俺はお前に弱いんだ」はこの人がオリジナル。
矢吹健 デビュー当時は森進一のエピゴーネンのような感じでしたが。もし、森進一がデビューしていなかったら矢吹健のヒットもなかったかも。それだけハスキーシンガー・森進一の存在は大きかった。ムード歌謡系ではニック・ニューサも。
西城秀樹 歌謡曲のアイドル系ではめずらしいハスキーヴォイス。のちに日本のロッカーが彼の歌をカヴァーしているのを何度か聞いたが、納得。
もんたよしのり 個人的にハスキーヴォイスと聞いてすごぐ思いつくのがこの人。ポップスの“一節太郎”。一発屋ってか? じゃなくてつぶした、いやつぶれた声が。
桑田佳祐 ハスキーヴォイスっていうのはいっけん物真似しやすく思える。その代表格が桑田佳祐。ハスキーの部分を強調してごまかせるから。でもよく聴くと似てなかったりして。同じ湘南系では前田亘輝も。
大木トオル 日本のブルース系ロック系シンガーは概してハスキー。ほかでも有名どころでは上田正樹、木村充揮、桑名正博、世良公則、そして柳ジョージ。
でも、彼らはハスキーというよりダミ声にちかいのかも。
甲斐よしひろ 声質でいうといちばん好きなハスキー。これぞ正統派ハスキーといってもいいのではないでしょうか。
萩原健一 甲斐よしひろが出れば当然この人も。とりわけテンプターズ時代の若いハスキーヴォイスがなんとも色っぽい。
なんでもいまは、ヒップホップ系のハスキーヴォイスが人気のようで、ああしたノイジーな声に憧れる若者もいるとか。
でも、ハスキーヴォイスっていうのはマイノリティだから聴いていても飽きないんだよね。誰もかれもが萩原健一みたいなハスキーヴォイスだったら、食傷しちゃうよきっと。
とはいえ、一度全員萩原健一みたいな声っていう男性コーラスで「野ばら」か何か聴いてみたいね。ウィーン・ショーケン合唱団みたいな?
さてと、これからTVでサッカー見なきゃ。でも明日朝早い用事があるんだよな。できたら早めに終ってくれないかなってムリだよなぁ、ボクシングじゃないんだから。
ロバート・アルドリッチの1973年の監督作品で『北国の帝王』、主演 リー・マービン、対決する車掌にアーネスト・ボーグナィンと云う強烈な個性をもつ二人が共演するホーボー(貨物列車の無賃乗車)を扱った映画の挿入歌をリー・マービンが唄う声、これが凄い。超低音、しかもメロディーの音域が異常に狭い。熊の唸り声に音階をつけたような唄です。
このような声はなんというのでしょうか?悪声ではありません。おなかに響く魅力的な声です。1983年62歳で亡くなっています。
いつもながらの歌謡曲、etcの百科事典、更新されるたびに楽しみに読ませてもらっています。
by ve'quesun (2011-02-24 20:03)
ve'quesun さん、こんにちは。お久しぶりです。
いつも読んでいただいてありがとうございます。
懐かしいですね、リー・マービン、「北国の帝王」。
てっきり和解するものだと思っていたらあの結末。その意味で印象的な映画でした。
歌は気づきませんでしたので、YOU-TUBEの「キャット・バルー」で聴いてみたら超低音ですね。
二枚目じゃないけれど、すごく存在感のある役者でした。それと真面目に喜劇を演じるスゴさ。笑顔が思い浮かばないのはバスター・キートンと同じです。もちろん喜劇役者じゃありませんけれど。
時間がありましたら、また映画の話やカントリーの話で聞かせてください。それでは。
by MOMO (2011-02-28 01:15)