小麦色④モンローウォーク [color sensation]
♪つま先立てて海へ モンローウォークしていく
いかした娘は誰? ジャマイカあたりのステップで
眼で追う男たちを 無視して腰をひねり
ブロンズ色の肌 光になまめき弾む
昼下がりの ざわめく浜辺
噂のうず 巻き込む潮風
胸もとの汗キラリ 眼のやり場にも困る
口説き落としたい君 そしらぬ素振りもセクシー
(「モンローウォーク」詞:来生えつこ、曲・歌:南佳孝、昭和55年)
焼けた肌の色は? と訊ねればまず10人中8、9人は「小麦色」とこたえるのではないでしょうか。それほど定着しているというか、独占状態の表現になっているといえます。
しかし、なにからなにまで「小麦色」というのは、表現者としては「陳腐」と思うでしょうね。
そこでいろいろ頭をひねくり回して、他の言葉を考えてみる。
でも、そういう「新語」というのはえてして浮いてしまい、失敗に帰するケースが多いもの。「そりゃねえだろう」だの「ちょっとムリあるな」なんていわれて。
だいたい流行歌というのはホンモノの流行の後追いでうたわれるものだからしかたのないことではありますが。
上に詞をのせた「モンローウォーク」では「小麦色」を「ブロンズ色」といっています。
これは、なかなかいい表現だと思うのですが。
たとえば、やはり焼けた肌の色のことをむかしから「赤銅色」(しゃくどういろ)といいますから、まったく突飛な発想ではありませんし。
ただ、そのまま♪赤銅色の肌…… なんて歌詞にするとこの歌のトロピカルでシャープな雰囲気がローカルでチープなものになってしまいますから。
だいたい「赤銅色」っていうのは、漁師など男の肌の色のことをさす場合がほとんど。
「金銀銅」でいっても「金色」「銀色」とはいうけれど「銅色」はあまりきかない。
英語では「ゴールド」「シルバー」「ブロンズ」とそのまま。
「ゴールド色」「シルバー色」なんていわない。
それをわざわざ「ブロンズ色」というのは、ゴロあわせや旋律にのせるためというのもあるのでしょうが、違和感はない。
残念なことにその後、「ブロンズ色」がつかわれ、一般化することはありませんでしたが。
なんでですかね。いいと思うのですが、すこし気取りすぎてるんでしょうか。
とにかく「小麦色」を「ブロンズ色」と言い替えた作詞家は来生えつこ。
ごぞんじ来生たかおのお姉さんで、シャープな詞を書き、作曲の弟と組んだヒット曲も多い。姉弟での作詞作曲っていうのはめずらしいですね。
兄弟ならビリー・バンバンがいますけど。
ほかに「ブロンズ色」の歌がみつかりませんので、今日は「輝け!来生えつこショー」ということで。
●浅い夢 来生たかお
来生たかおのデビュー曲。作曲も弟さん。「疑問符」をうたっている河合奈保子がカヴァーしてます。
●モンローウォーク 南佳孝
うたいはじめの部分、スロー(ブギじゃないよ)なサンバにすると「リカード・ボサノヴァ」(ザ・ギフト)に聞こえちゃう。でも名曲です。作曲も南佳孝。
●GOODBY DAY 来生たかお
初期の名曲ですね。
●セーラー服と機関銃(夢の途中) 薬師丸ひろ子
“カイカン映画”の主題歌。歌もヒットしました。姉弟の最大のヒット曲。
●シルエット・ロマンス 大橋純子
某ペーバー・バックのイメージソングじゃなかったでしょうか。
●スローモーション 中森明菜
デビュー曲だけに翌年の大ヒット曲「セカンド・ラブ」より印象が強い。
●ふたたびの 小林幸子
めずらしい……くもないか、ニューミュージック系の歌を演歌歌手がうたうのって。
●挟み撃ち 来生たかお
平成になってから出た小説のタイトルをモチーフにしたアルバム「アナザー・ストーリー」の1曲。小説「挟み撃ち」は後藤明生の作品。
ほかに美空ひばりに提供した「笑ってよムーンライト」なんてのもありました。
いずれも昭和50年代のはなしです。
で、話を「モンローウォーク」に戻して。
考えてみてもみなくても昭和55年、つまり1980年、すなわち30年前の歌。
郷ひろみがカヴァー(ほとんど同時期)しなければ“忘れられた歌”になっていたかも。
ましてや「モンローウォーク」の意味など、いまの若い人にわかるのかな。
そもそも「モンロー」がもはや時代に埋没してしまっているんじゃなかろか。
「マリリン・モンロー・ノーリターン」だもんね。
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