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BLACK/黒百合 [color sensation]

真知子巻き.jpg

♪黒百合は恋の花 愛する人に捧げれば
 二人はいつかは結びつく
 あゝ あははあはは あゝ あははあははは
 この花ニシパにあげようか
 わたしはニシパが 大好きさ
(「黒百合の歌」詞:菊田一夫、曲:古関裕而、歌:織井茂子、昭和28年)

「黒い花」といってまっさきに思い浮かぶのは「黒百合」ではないでしょうか。
学名がフリテラリア・カムチャックスという長たらしい名前で石川県の県花にもなっています。その花言葉のひとつが「呪い」というから恐ろしい。

またアイヌには「好きな人が知らないうちに黒百合を渡すことができれば、その人と結ばれる」という伝説があるのだと。

その伝説をヒントに作られたのが織井茂子がうたってヒットした「黒百合の歌」
まだテレビが存在しなかった昭和20年代、一世を風靡した映画の主題歌。それが「君の名は」

「ハルキとマチコ」といっても演歌デュオのことではござんせん。
後宮春樹と氏家真知子。当時は“超有名人”だったが、今の若い人はおそらく知らない。これも時の流れのなせるわざ。で、それは「君の名は」の主人公二人の名前。

「君の名は」がはじめにブレイクしたのはNHKのラジオドラマによって。
パソコン、ケータイはもちろん、テレビすら存在しなかった昭和27年の4月に、そのメロドラマは始まったのです。

舞台は昭和20年、戦時中の東京。米軍による空襲に逃げ惑う市民。その中に運命的な出会いをする春樹と真知子がいました。2人は助け合い戦火を逃れる。そして互いに離れがたいものを感じ、来年この数寄屋橋の上で再会することを誓いながら別れることに。そのとき春樹が訪ねる。「君の名は」と。しかし真知子は自分の名を告げずに群衆の中に消えてしまう。ドラマですねぇ。

というプロローグがあって話はハラハラドキドキのすれ違いを繰り返していくことに。そんなラヴストーリーに、結婚を余儀なくされた真知子への姑の嫁いじめや薄情な夫がからんで、典型的な涙と怒りのメロドラマとして展開していくのです。

さらにドラマの舞台が数寄屋橋から佐渡島、北海道、志摩と日本各地に移っていくのだから聞いているものを飽きさせない。これも一カ所限定でリスナーを飽きさせてはいけないという長編ドラマのイロハ。

「忘却とは忘れ去ることなり。忘れえずして忘却を誓う心の悲しさよ」
というNHK放送劇団所属の鎌田弥恵のナレーションは「君の名は」のキャッチフレーズのように後々まで語られましたっけ。今じゃ「何それ?」でしょうが。

ラジオドラマ「君の名は」は結局約2年間、98話が放送されたそうです。
脚本は菊田一夫、声優は春樹に北沢彪、真知子が阿里道子。音楽を担当した古関裕而の哀切をたたえたハモンドオルガンがドラマを盛り上げていました。講釈師のようなことを言っております。

放送開始からしばらくしてドラマは大ブレイク。
その年の末には早くも映画が作られることに。いまだドラマ放送中で、今なら考えられないことが。いずれにせよ、この映画公開によってさらに「君の名は」は日本の津々浦々まで知られることになるわけです。

キャストは春樹が佐田啓二、真知子が岸恵子。この若手俳優たちも「君の名は」によって全国区のスターとなりにけりでした。

「君の名は」が社会現象になったということで、よくいわれるのがドラマの放送時間中、「銭湯がガラ空きになった」という話。
これは多分に制作側が流したデマだったということになっているが、聴取率が50%あまりあったということから「ガラガラ」というのは誇張にしても、あながちデタラメでもないのかも。その代わり、放送時間の前後はいつもより混んでいたのでしょうが。

結局、映画「君の名は」3作つくられ、当時の多くの映画がそうであったようにそれぞれに主題歌や挿入歌がつくられることに。それが以下のとおりで、すべて作詞・菊田一夫、作曲・古関裕而。

第1部 「君の名は」織井茂子、「君いとしき人よ」伊藤久男
第2部 「黒百合の歌」織井茂子、「花のいのちは」岸恵子、岡本敦郎
第3部 「数寄屋橋エレジー」伊藤久男、「綾の歌」淡島千景、「忘れ得ぬ人」伊藤久男、「君は遥かな」佐田啓二、織井茂子

ちなみにラジオでは主題歌の「君の名は」だけで、うたったのは織井茂子ではなく声楽家の高柳二葉
映画でつかわれた歌はすべてレコード化され、岸恵子、淡島千景、佐田啓二らの俳優の貴重な歌声を聴けることに。

そんな中でいまでもナツメロとしてしばしば耳にするのは「君の名は」と「黒百合の歌」でしょう。残念ながら織井茂子は平成8年に亡くなってしまいましたが。

いつもながらとってつけたようなそのほかの「黒百合」の歌を。
♪黒百合の花にも似て この心ぞさびしけれ 「黒百合の花」佐藤千夜子
昭和4年のトーチソング。作詞作曲は時雨音羽佐々紅華「君恋し」コンビ。

♪黒いユリが 月の照る夜に咲くという 遠い故郷…… 「黒いユリ」山口淑子
昭和28年、山口淑子が主演した東宝映画「抱擁」の主題歌。
格調高い曲は芥川也寸志、作詞は岩谷時子

こんなのも。
♪誰も知らない空の彼方に 黒ゆりの花咲く美しい村……「黒ゆりの詩」スパイダース
サイケ調の曲はかまやつひろし、詞は橋本淳のメルヘンタッチというミスマッチ。GSにメルヘンはつきものだけど、和風というか抒情的なタイトルはこれまたミスマッチ。

また、聴いたことはありませんが以下のような歌もありました。
「あの娘黒百合」マヒナスターズ
「愛しい黒百合」河野真佐子

「君の名は」は空襲下の出会いから恋が芽生え、すれ違いのドラマが展開されるというアメリカ映画「哀愁」からヒントを得ているとか、「すれ違い」、「全国展開」が戦前の「愛染かつら」と同じという指摘もありますが、日本人が好む典型的なメロドラマであることは、その後何度もテレビ、ラジオでドラマ化されていることでもわかります。

ところで「君の名は」が社会現象を引き起こした例として、“銭湯空っぽ事件”と同じように言われ書かれているのが「真知子巻き」の流行。

ヒロイン真知子のストールの巻き方で、頬かむり(もっと違う表現ないのかね)のようにして首に巻くというスタイル。

服飾史の本をみると「真知子巻きが大流行」と書かれているし、風俗史の本にいたっては「全国津々浦々でにわか真知子が氾濫した」などとセンセーショナルに書かれています。

でも本当かな。ホントに当時大流行、氾濫したのかな。

たしかにいつの世もスター、アイドルを真似るミーハーはいるもので、真知子巻きをしながら数寄屋橋を行き来したお嬢さん方がいたことは想像できますし、BG(古いね)らしき真知子巻き嬢が東京の街を闊歩している当時の写真を見たことも。

しかし、全国的大流行というからには、何人もの真知子巻きが写っているワンショットとか(上の写真だって3人目は真知子巻きじゃないよね)、地方都市での真知子さんたちの写真があってもいいんじゃないの。「あの年の銀座を歩く若い女性はほとんど真知子巻きでネェ」なんて当時のモボの証言でもいいよね。

そういうものを見たり読んだりしたことがなく、ただ「大流行した」なんて言われてもなぁ……。あんな情報の拡散しにくい時代にホントかね、と猜疑心も。なにしろマスコミ表現の「針小棒大主義」というかセンセーショナリズムは今も昔もだもの。


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