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BLACK/黒い花 [color sensation]

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♪黒い花びら 静かに散った
 あの人は帰らぬ 遠い夢
 俺は知ってる 恋の悲しさ 恋の苦しさ
 だから だから 
もう恋なんて したくない したくないのさ
(「黒い花びら」詞:永六輔、曲:中村八大、歌:水原弘、昭和34年)

「黒い花」といえば思いつくのが「黒百合」と「黒薔薇」。あとは海外の小説で、映画にもなっている「黒水仙」や「黒いチューリップ」。黒百合以外は実際にそういう名の花があるのかどうだか。

とにかく「黒い花」などほとんど見ませんし、聞きません。と思っていたらそうでもなさそう。調べてみると、わたしが知らないだけで結構あります。

黒ビンカ、黒花フウロ、黒椿、あるいはゲラニウムブラックビューティー、セントーレアブラックボウル、ユーフォルビアブッラックパールなど、というように。またそのほかでも、スカビオサエースオブスペードとか、ヒューケラオブシディアンなど、見たことも聞いたこともない「黒い花」があるらしい。

といっても、そのすべてはカラスや黒髪のような純然たるブラックではなく、濃い紫だったり濃い青だったりというのが真相。
そもそも花の色というのは色素によってつくられるもので、大きく分けてカロチノイド系とフラボノイド系の2つがあるそうです。この2つの配分によって赤、橙、桃、紫、青、黄などの花色になるのだとか。

そのほか、茎や葉の緑はクロロフィルという色素によるもので、黒を発色するにはメラニンが必要なのだと。ところがメラニンを含む花はなく、したがって真っ黒の花というのは現実にはないということになるのです。

それでもいわゆる「黒いチューリップ」のブラックヒーローやクインオブナイトを見ると(写真ですが)、たしかに漆黒ではないにしても、それはそれで魅きつけられる美しさがあります。

「黒い花」という言葉も字面もイメージを広げてくれる。こういうありそうでないもののインパクトこそ強い。

そういう意味でも、矢尾板貞雄パスカル・ペレスにKOされた昭和34年に発売され、第1回レコード大賞を受賞した「黒い花びら」はそのタイトルもセンセーショナルでした。

新人の水原弘はロカビリー出身で当時流行りの慎太郎刈り。眉が濃くスゴミのある顔は「黒い花びら」のイメージにぴったり。

作曲は高校生でプロデビューしたというジャズピアニストの中村八大。作詞はラジオの投稿からプロになった放送作家の永六輔。どちらも流行歌のプロフェッショナルではないという異色のコンビ。

きっかけは中村八大が、東宝映画「青春に賭けろ」で使用する流行歌を依頼されたことから。有楽町でバッタリ逢った顔見知りの永六輔を自分のアパートへ誘い、ふたりでひと晩に10曲以上つくってしまったというからスサマジイ。

「黒い花びら」はその中の1曲。なぜ黒い花びらなのかというと、永六輔は作詞するにあたりいくつかに「白い~」「赤い~」と色をつけてみようと思ったそうで、そのなかのひとつが「黒い花びら」になったというわけ。
なぜかはわからないが、花びらを赤や白ではなく黒にしたことに彼の作詞家としての非凡さがうかがえる。

また、モダンジャズのピアニストがなぜ歌謡曲をという疑問も。
当時の(今でもそうかも)ジャズメンにしてみれば流行歌は嘲笑すべき音楽(そのくせクラシックには劣等感があったのだが)。それをなぜ。

本人にいわせると、当時中毒に陥っていた麻薬(ヒロポン)から抜け出そうと闘っていたときで、からだの中からヒロポンを洗い流せたと思ったら、流行歌への侮蔑意識も消えていた。ということに。ほんとかな。

それでもジャズピアニストがつくる流行歌だけに、当時主流の古賀メロディーや新進の吉田メロディーとは違う。
どこかブルースやロカビリーの匂いがした。それでよくいわれるのがポール・アンカ「君は我が運命」YOU ARE MY DESTINYとの相似(よく聴けば雰囲気だけだけど)。

映画の中では主演の夏木陽介がうたうことになっていたらしい(観てません)。しかし、あまり歌が上手ではないので吹き替えを使うことに。そこで抜擢されたのが曲調ともあっているロカビリアンの水原弘、というわけ。彼もまたその映画にチョイ役(死語ですか?)で出ているとのこと。

歌詞はいわゆる“失恋ソング”で、初恋に破れた男が「もう二度と恋などしない」とできもしない自己約束を吐露する歌。また歌詞からは男がたんにフラれたのではなく、彼女が死んでしまったことが読み取れます。
いずれにしてもストーリーは従来の流行歌の本流ではあるのです。

それにしても不思議なのが「黒い花びら」。
1番の「静かに散った」はまだしも、2番の「涙に浮かべ」は少しヘン。川や湖に浮かべるならわかるが、涙とは。
いや、これをヘンと思うようでは流行歌は聴けない。とにかく悲しいんだ、辛いんだというイメージが伝わればいい、ということなのです。

このように映画の封切りとほぼ同時にリリースされた「黒い花びら」は、その強烈なタイトルと流行歌としては新鮮な旋律で大ヒット。
翌年、新たに「黒い花びら」という映画が作られたことでも、世間へのその浸透ぶりがわかろうというもの。

以後、水原弘は同じ作詞作曲家で「黒い落葉」「黒い貝殻」と“黒の三部作”、あるいは「黄昏のビギン」、「恋のカクテル」などをリリースしますが、「黒い花びら」に匹敵するヒット曲は生まれませんでした。

昭和30年代後半は不遇の時代だったが、40年代に入り猪俣公章、川内康範による「君こそわが命」でカムバック。これが演歌ブームにものってヒット。
しかしその後が続かず、昭和53年巡業先のホテルで倒れ、肝硬変のため43歳という若さで亡くなってしまいます。酒が好きで破滅型の歌手でした。

中村八大と永六輔もまた、「黒い花びら」のヒットによりその後流行歌のクリエイターとして以下のような名曲を作っていくことに。
「上を向いて歩こう」坂本九
「一人ぼっちの二人」 坂本九
「遠くへ行きたい」ジェリー藤尾
「こんにちは赤ちゃん」梓みちよ
「涙にしてみれば」松尾和子
「ウェディング・ドレス」九重佑三子
「いつもの小道で」田辺靖雄、梓みちよ
「娘よ」益田喜頓
「サヨナラ東京」坂本九
「おさななじみ」デューク・エイセス
「帰ろかな」北島三郎
「芽生えてそして」菅原洋一

その中村八大も平成4年、61歳で亡くなっています。

ところでみたび「黒い花びら」。
松本清張が短編集「黒い画集」を出したのが昭和35年。「黒い花びら」が登場した翌年。

「黒」とは犯罪や死を連想させるネガティブなイメージ。清張は昭和33年から34年にかけて、そのさきがけともいえる「黒い樹海」や「黒い福音」を書いています。
はたして機を見て敏な永六輔が清張の小説を参考にしたのか、はたまたまったくの偶然で、流行歌のヒットがベストセラー小説の後押しをしたのかそれは不明ですが、以後ちょっとした「黒」のブームが起きることになるのです。

 


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コメント 4

tsukikumo

黒い花びらなど歌のタイトルの「黒」は、政治汚職などのダーティなイメージの「黒」とはちょっと違いますよね。挫折、苦悩、不安、焦燥、悲哀・・・などを表しているように感じます。
しかし黒ってやはり昭和30年代のイメージですね。
40年代前半は赤や青などド派手な原色。後半は白、または水色などの中間色が歌のタイトルにも多いんじゃありません?
50年代以降はどうなんだろ?すべての色がモザイクになって時代を表す色が見つからない?
by tsukikumo (2009-06-20 02:40) 

MOMO

tsukikumoさん、こんにちは。

時代を感じる色というのはあるかもしれませんね。
感じ方は人それぞれなのでしょうけど、共通認識っていうのもありますね。

わたしにとって昭和30年代はパステルカラーをうんとくすませたような色彩。40年代になるとたしかにカラフルになってきますね。

現在はどうなんでしょうか。
バブル崩壊以降、やっぱりくすんだような色でしょうか。


by MOMO (2009-06-20 21:58) 

猫好きママ

水原氏のアースのテレビCMが昭和45年放映されたようですが、私は幼少期だったので知りません。知っている方、どんな感じだったか教えてください。動画も観たいです。
by 猫好きママ (2009-08-05 21:30) 

MOMO

猫好きママさん、はじめましてこんにちは。

いつものいいわけですが返信遅れてスミマセン。

テレビCMの記憶はいまひとつですが、水原弘のアースと、松山容子のボンカレーはホーロー看板の印象が強く残っています。10年ほど前なら地方のどこかにまだ〝現役″で残っていたような気もしますが、いまでもあるでしょうか。

読んでいただいてありがとうございます。

by MOMO (2009-08-12 21:06) 

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