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秋歌③枯葉 [noisy life]

枯葉.jpg
…………
Et le vent du nord les emporte
Dans la nuit froide de l'oubli
Tu vois, je n'ai pas oublié
La chanson que tu me chantais
C'est une chanson qui nous ressemble
Toi tu m'aimais et je t'aimais
Nous vivions tous les deux ensemble
Toi qui m'aimais, moi qui t'aimais
Mais la vie sépare ceux qui s'aimant
Tout doucement sans faire de bruit
Et la mer efface sur le sable
Les pas des amants désunis
[……そして北風がそれらを運び去ってしまう 忘れられた世界の寒い夜へ ああ、おれは忘れてなんかいない おまえが歌ってくれたあのシャンソン おれたちのようなシャンソンだ おまえはおれを愛し、おれはおまえを愛していた おれたちは2人一体になって生きていた おまえはおれを愛し、おれはおまえを愛していた でも愛し合う者同志の人生は離れていく 知らないうちに、音もたてず そして海は砂の上に 別れた恋人たちの足跡を消していく……]  「枯葉/イブ・モンタン・ベスト」より。訳者不記載
([LES FEUILLES MORTES] paroles de JACQUES PRÉVERT, musique de JOSEPH KOSMA, chant de YVES MONTAND, 1946)

秋だからシャンソン。秋だから「枯葉」
イージーというかベタというか、企画力不足といいますか……。

しかしシャンソンに関心がなくても音楽好きには知られた曲。本家のシャンソニエはもちろん、日本のシャンソン歌手あるいはアメリカのポップシンガーはもちろん、ジャズの演奏家にもしばしばとりあげられる曲。それはまさしく名曲だから。

で、「枯葉」をとりあげることに。で、まずは音源を聴こうと思い、手持ちを調べてみて絶句……。
邦、洋、ヴォーカル、インストとりまぜて30曲以上。あらためてこの歌のポピュラリティの高さに驚きました。

もちろんとても全部は……。ジャズならピアノ。ビル・エヴァンスBILL EVANSの感情豊かな名演もあるし、ラテン風味のアレンジのレイ・ブライアントRAY BRYANTや短編小説のようなウィントン・ケリーWYNTON KELLYもいい。ヴォーカルならビング・クロスビーBING CROSBYはもちろん、ナット・キングコールNAT KING COLEフランク・シナトラFRANK SINATRA。ポップなところでパット・ブーンPAT BOONEウィリー・ネルソンWILLIE NELSON、トム・ジョーンズTOM JONSE。さらにはヘレン・メリルHELEN MERRILLパティ・ペイジPATTI PAGEのディーバたちまで。

すべてとりあげていたら、秋が終わってしまいます。ここは生誕地を尊重してシャンソン中心に。そのシャンソンとなれば、当然この歌をはじめて公にしたイヴ・モンタンYVES MONTAND

30秒あまりのヴァースのあと、あの厚みのあるヴォーカルがはじまる。当然後年録音されたもので、バックの控えめなピアノもギターもジャズ風。
モンタンはイタリア生まれ、父親は反ファシズムの闘士で、そのためファシスト党に家を焼かれ追われるようにしてフランスのマルセイユへ逃げた。

少年時代は貧しく、11才で学校をやめ労働者に。その後美容師や造船所の工員などをしながら、モンタンが憧れたのはフレッド・アステア。つまりアメリカの映画と音楽。
17才頃から歌いはじめた彼がパリへ向かったのは1944年2月。つまり花の都はドイツの占領下。

その数か月後、エディット・ピアフと出逢い、サポートを受けながらスター歌手になっていくのはよく知られた話。二人は当然のごとく愛し合います。6才年上のピアフにとってモンタンは「18才の彼」ではないけれど男としても魅力的な存在だったのでしょう。
その後、恋多き男と情熱的な女はそれぞれ別の恋人を。

モンタンが「枯葉」をうたったのは1946年の映画「夜の門」の中で。実は映画を観ていなくて、一説にはうたったのではなく、メロディーを口笛で吹いただけという話も。
もともとはバレエ音楽で、作曲したのはハンガリー生まれのジョゼフ・コスマJOSEPH KOSMA。それに「夜の門」の脚本家でもあったジャック・プレヴェールACQUES PRÉVERTが詞を。

当初モンタンの「枯葉」は注目されませんでした。
注目されるようになったのはそれから3年後の1949年、ジュリエット・グレコJULIETTE GRECOがうたうよいになってから。
1950年、この歌はアメリカへ渡り、「酒とバラの日々」THE DAYS OF WINE AND ROSES や「シャレード」あるいは「ムーン・リヴァー」MOON RIVER などの作詞家であり、レコード会社の創設者でもあるジョニー・マーサーJOHNNY MERCERによって英詞がつけられ[AUTUMN LEAVES]として多くのシンガーに歌われるようになります。

はたして、アメリカの作詞家がグレコの歌に触発されたのか、クロスビーらの歌がフランスへ逆輸入されて多くのシャンソニエのうたうところとなったのかはわかりませんが、いずれにしてもモンタンが歌ってから数年後には、世界的な名曲になってしまったのです。

グレコ盤は2分に迫ろうという超超ロングヴァース。
力強く囁く? そのヴァースだけでメロメロ。サルトルコクトーでなくとも参ってしまう。オーバーなくらいの感情移入。これも後年の録音で、若い頃のものも聴いてみたいな。

続いてはモンタン以上に「枯葉」の普及に貢献したといわれるコラ・ヴォーケールCORA VAUCAIRE
ピアノとヴァイオリンのイントロではじまる実況盤のオープニング。ヴァースのみで軽く、かつノスタルジックでいかにもシャンソン。ヴァースだけなら個人的にはいちばんGOOD。声の好悪もありますが。

イヴェット・ジローYVETTE GIRAUDは日本のシャンソン・ブームに火を点けたシャンソニエ。初めて来日してから半世紀以上が。
とにかく歌がうまく、磨き上げたきれいで温かな声。日本のシャンソンシンガーが手本にしたのではないかと思うほどクセのない教科書的なうたい方。十八番の「詩人の魂」L'AME DES POETES「ミラボー橋」LE PONT MIRABEAUにも劣らない名唱。

最後はモンタンの元カノ、エディット・ピアフEDITH PIAF
イントロにバックコーラスが入ってドラマチック。ヴァ、ヴァースがない。いきなり本編。しかも英語。しかしあの“ちりめん”ヴォイスはまごうことなきピアフ。
……そういえば、[AUTUMN LEAVES]にはヴァースがない。そうだった。ジョニー・マーサーがはじめからカットしてしまったのです。なんて大雑把。やっぱりアメリカン。
いつの録音でしょうか。

もうかなり予定?オーバーなので、おまけの日本のシャンソン歌手をダッシュで。
原語で無伴奏のヴァースから始まる石井好子は現役シンガーで、たしかシャンソン協会の会長ではなかったかな。
昭和30年代のシャンソンブームを担った男性シンガーが高英男。決して上手いとは思えない歌唱ですが、過大とも思える“語り”の感情表現はシャンソンそのもの。

今は亡き岸洋子。聴きたいなぁ「希望」。それはともかく。
「枯葉」はなんとボサノヴァアレンジ(you-tubeはオーソドックスですが)。短いヴァースから入って途中スキャットも。うまいなぁ。アップテンポの「枯葉」も岸洋子の歌のうまさと艶のあるセクシーな声なら充分聴けます。好みでいえばナンバーワン。

そしてやはり亡くなった越路吹雪
♪あれはとおい思い出 ではじまるヴァース。そして
♪暮れゆく秋の日よ 金色の枯葉散る…… と続く名訳はもちろん岩谷時子。映画音楽のようなストリングスをバックにドラマチックにうたいあげています。

ほかに、淡谷のり子(落葉)、芦野宏、ペギー葉山、笈田敏夫、クミコなどが。

「枯葉、枯葉、枯葉、枯葉……」ああ、もういいよ、もうヴォーカルはたくさんです。脳内を降る枯葉が引きも切らず。枯葉に埋もれて息もできないくらい。当分「枯葉」は聴きたくない。
でも、最後に向かい酒ならぬヴォーカルなしの“向かい音”を。ビル・エヴァンスに導かれて秋のまっただ中へ。


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コメント 4

レモン鈴木

MOMOさんおはようございます。
イヴ・モンタンは僕も大好きですよ。この枯葉も素敵な曲ですよね。
先日車の中でラジオからマイウエイで有名なあの人・・・えーと、ほら・・・、イヤだな思い出せない
そうだフランクシナトラです。彼の英語の枯葉が流れてましたが、やはり「枯葉」はフランス語ですよね、それもイブ・モンタンの。

僕もアズナヴールが好きでフランス語を習おうとした時期があったんです。NHKのテキストを買って、すぐ挫折しました。
フランス人の素敵な女性の知り合いでもいれば今頃ペラペラになっていたはずなんですが。
by レモン鈴木 (2008-10-12 07:55) 

toty

懐かしい名前が並びましたね。

イヴェット・ジロー、葦原英了さんが案内して
北軽井沢にみえたことがあって、
地元の人が、ジローっていうから男だと思ってたといったので、皆で笑った覚えがあります。

岸洋子、声の質が好きでした。

越地吹雪、三十数年前、結婚が決まった時、一緒にいったらと、友人が買っていたコンサートのチケットを譲ってくれて聴きにいきました。会場に着く前に、駐車場で車がエンコして、車をおすはめに。
そのため遅刻したなんて思い出があります。

石井好子、習っていたピアノの先生が昔教えたそうで、「あなたはピアノより歌が向いている」とアドバイスして、歌の世界に進んだと、聞いた事があります。
by toty (2008-10-13 10:43) 

MOMO

レモンさん、いつもありがとうございます。

アズナブールもいいですね、秋向きですよね。
「ラ・ボーエム」とか「イザベル」とか「アヴェマリア」とかね。

いつか機会をみつけて紹介してみたいです。
by MOMO (2008-10-13 21:07) 

MOMO

totyさん、こんにちは。

葦原英了氏とか、イヴェット・ジローとか、石井好子さんとかずいぶんシャンソンに縁のあるところで生活されていたんですね。

イヴェット・ジローに会ったというのがスゴイ。こんどそちらのブログでそんな話もお願いします。
by MOMO (2008-10-13 21:11) 

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