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秋歌①わかって下さい [noisy life]

秋歌①因幡晃.jpg
♪貴方の愛した 人の名前は
 あの夏の日と共に 忘れたでしょう
 いつも言われた 二人の影には 愛が見えると
 …………
 これから淋しい秋です ときおり手紙を書きます
 涙で文字がにじんでいたなら わかって下さい
(「わかって下さい」詞、曲、歌:因幡晃、昭和51年)

出遅れだ。
「うわっ、すごい風。もしかして春一番?」という頃に春の歌を。「そろそろ、扇風機でも出すか……」なんて思ったら夏の歌を。
となれば「あれ、いつの間にかセミの声がしなくなった」、そんなタイミングで秋の歌をここにアップしなくてはいけなかったのですが。
もはや「誰もいない海」ということで、深まり行く秋を追いかけましょう。

昭和51年(1976)という年は、ロッキード事件で田中角栄前首相が逮捕されるとか高齢化社会がいわれはじめるとか、社会的には様々な出来事がありましたが、流行歌の世界ではアイドル最盛期。その頂点にいたのが山口百恵
キャンディーズも全盛で、それを追いかけるように出てきたのがピンク・レディー
あれほど熱かったフォークも夏から秋を通り越して一気に冬へ。そろそろ荒井由実に代表されるニューミュージックが頭をもたげてきたり。そんな時代でした。

その年のヒット曲、因幡晃「わかって下さい」も振り返ればフォークというよりはニューミュージックの範疇に入るのでしょう。まぁポップスでもいいですが。ええ? 歌謡曲だろうって? ……そうか、まぁとにかく流行り歌さ。

当時の因幡晃。ロングヘアにサングラス、うたっているとき両手を前へ突き出す独特のポーズ。それに何より印象的だったのがあの美声。
美声といえば井上陽水。その2年前に「心もよう」の大ヒットがありました。
正直、サングラスといい美声といい陽水のエピゴーネンだと思いましたね。はじめは。

「わかって下さい」は昭和50年のポプコン最優秀曲で、女性が別れた男への未練を手紙に託して送るというストーリー。いわゆる「おんな歌」。
♪さみしさのつれづれに 手紙をしたためています
という井上陽水の「心もよう」も「おんな歌」。別れたわけではないけど、別れを予感させる相手に手紙を書くのも同じ。

どちらも主人公は女性。
以前も「ムード歌謡」(ムーディ勝山は何処へ)のところで話したと思いますが、男が女になりきって歌う(その反対も)というのは日本独特(多分)のかたち。まさに歌謡曲・演歌からポップスまでという感じ。昔だけかと思ったらいまでもあるようで。とりわけしばしば耳にするのはJポップの女性シンガーがうたう「ボク」の歌。

それでは昭和40年代後半から50年代にかけて、フォークやニューミュージックのオカマソング、いや男性シンガーがうたう「おんな歌」を。

まずは何といっても「神田川」かぐや姫
♪若かったあの頃 何もこわくなかった……
同棲時代を象徴する一曲。 秀逸だなと思うのはふたりで風呂屋へ行くというシチュエーション。これでふたりの関係がよくわかるし、銭湯絶滅の危機のいまとなればその時代の匂いまで伝わってます。この時代はファッションとしての「やさしさ」が広まっていました。それを「こわかった」と見抜いていたのは鋭い“女性”でした。

かぐや姫とくれば当然「22才の別れ」
♪今はただ5年の月日が 永すぎた春と言えるだけです
印象的なイントロでした。たしか編曲は石川鷹彦。当時、フォークギターを手にした人はいちおうやってみたんじゃないでしょうか。17才に出逢って22才で別れる。きっと女性はお嫁に行くことが決まったのでしょう。つい数年前の「フリーセックス」「自由恋愛」が叫ばれた時代は何だったのでしょう。ここには近代から変わらず続く男女の別離のストーリーが展開されています。
“わたしは変わってしまったけど、あなただけは変わらないでいてね……”ってたしかユーミンも同じようなこと言ってた気がしますが、そりゃないよ米兵衛。

♪私の瞳が濡れているのは 涙なんかじゃないわ 泣いたりしない 「旅立ち」松山千春
松山千春のデビュー曲。就職が進学か、とにかく彼の新しい出発。それを「私のことは気にしないであなたの道を歩いて」と見送る彼女。「ウソだろ、遠距離恋愛でOKじゃん」というなかれ。この時代、たとえば北海道から東京はまだ果てしなく遠かったのです。でも、たしかに浪花節の世界だね。
♪君を見送る 峠道 っていう戦前の「明日はお立ちか」と同じだもの。
松山千春では「恋」も「おんな歌」。こちらは彼との関係に疲れて愛想づかしをする話。純情だった「旅立ち」のヒロインも3年経てば変わるということ。そんなこたぁない。

そしてこの人もデビュー曲、いや再デビュー曲で。
♪こんなに好きにさせといて 勝手に好きになったはないでしょ 「巡恋歌」長渕剛
別れるにあたっての男への怨み節。このヒロインは新しかったですね。浪花節をひきずっていなかったから。なんであんな男を好きになったのか。それは寂しかったから。煙草や酒をするなって、一見思いやりみたいだけど、それはたんなる“フリ”。
自分をちゃんと分析できてるし、相手のことも見抜いている。立派な女性。だからふられた。軽口謹慎。それでも涙が出るっていうんだから女はわからないもんです。いまだに。

まだまだあります。
♪貴方の声を聞けばなにもいらない いのちを飲みほして目を閉じる 「帰らざる日々」アリス
これはめずらしい自殺の歌。この世と永遠にバイバイする前に彼に電話を……。
藤田敏八監督の同名映画主題歌でした。映画は暗いというかほろ苦いというか、例によって青春の裏側をシャープに描いていました。江藤潤が良かった、浅野真弓が美しかった。2人ともどこへ行ってしまったのでしょう。大きなお世話か。
自殺する女性の心理はわかりませんが(自殺しない女性もわからないけど)、こんなものでしょうか。ただ、作品と考えた場合、♪私は一人で死んでゆく っていうストレートな言葉はちょっと詩的じゃないですね。テーマからも陳腐。

そして、ほんとうに死んでしまったのがこれ。
♪二人でこさえたおそろいの 浴衣も今夜は一人で着ます 「精霊流し」グレープ
もっとも、死んだのは男の方ですが。
順番からいえば男が先に死ぬわけで、彼女が残されるというのは正解。
彼が死んだのは一年前、まだ記憶は鮮明。家族、友人みんなで彼を偲ぶっていうシーンが新しい。ヒロインの彼への想いは最後の「あなたと私の人生をかばうみたいに」というフレーズにあらわれています。
で、気になるのはそのあと彼女はどうなるか。来年も再来年も5年先も10年先も、彼のことを思い続けて精霊流しを続けるのでしょうか。それとも何年か先にいい人が現れて、一区切りをつけるのでしょうか。まぁ余計なことですが。
さだまさしでは「秋桜」「雨やどり」などもありました。

ほかにも、
「別れのサンバ」(長谷川きよし)「小さな日記」(フォー・セインツ)「あんたのバラード」(世良公則とツイスト)「愛はかげろう」(雅夢)「サヨナラ模様」(伊藤敏博)「踊り子」下田逸郎 「シルエット・ロマンス」来生たかお 「そばかすの天使」甲斐バンド …… とあるわあるわ。ポップシンガーの女装願望、いえ女声願望というのか……。

「おんな歌」をうたっていないのは吉田拓郎、泉谷しげる、武田鉄矢ぐらい。拓郎はともかく、あとの二人の「おんな歌」聴きたくねェー。……いや逆に聴いてみたいかも。


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