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丘①夕陽 [a landscape]

丘②.jpg

♪ 夕陽の丘のふもと行く バスの車掌の襟ぼくろ
  わかれた人に生き写し なごりがつらい旅ごころ

  かえらぬ人の面影を 遠い他国で忘れたさ
  いくつか越えた北の町 目がしらうるむ旅ごころ
(「夕陽の丘」詞:萩原四朗、曲:上原賢録六、歌:石原裕次郎、浅丘ルリ子、昭和38年)

♪空は暮れて 丘の涯に  「マロニエの木陰」松島詩子 昭和12年
♪丘のホテルの 赤い灯も  「悲しき口笛」美空ひばり 昭和24年
♪丘の上 ひなげしの花で  「ひなげしの花」アグネス・チャン 昭和47年

かつて流行歌ではしばしばうたわれてきた「丘」
日本人は(外国人は知らないけど)なぜか丘が好きだった。

そもそも「丘」とはその形からつくられた象形文字で、ご存じのとおり平地より小高いが山ほど高くはないという地形のこと。では何メートルまでなのか、山と丘の境は何なのかといった定義はなく、小山、低い山ともいう。
同じ「おか」の「岡」も同様に低い山という意味だが、現在はほとんど「丘」がつかわれている。

地名の多くはその形状からつけられているので、都会であっても小高い場所には「丘」が残っている。東京でいえば東京大学のある本郷に向丘(むこうがおか)がある。
この地名の由来は、そのはるか東の上野付近の丘陵地帯、忍が岡(しのぶがおか)から眺めた“向こうの丘”ということかららしい。

地名で「丘」が使われ出したのはそう古いことではなく、上記の向丘ももとは向ヶ岡と表記されていたように、「岡」がふつうだった。
東京でいえば「ひばりが丘」「旭が丘」など多くの丘のつく地名は、ほとんどが昭和、それも戦後になって命名されたもの。昭和30~40年代、新興住宅地が“雨後茸”状態になったとき、「丘」のつく新しい町が生まれた。「緑が丘」など全国に100以上あるとか。なかには高台でもなんでもない平地にまで「丘」がつけられたというから勢いというものはオソロ。こうなると「丘」は小高い場所というよりは、快適な場所を訴える拡張子だったりして。
ちなみに現在目黒区にある「自由が丘」も、昭和7年、目黒区ができたときにできた新しい町名。それまでは荏原郡衾村といった。

話を戻して、なぜにかくも流行歌の中でそうした「丘」がつかわれてきたのか。

流行歌といえども、ただ雰囲気的に言葉を羅列しているわけではない。深い浅いはともかく、歌詞の中にその言葉がつかわれるのには、それなりの意味がある。
昔は“3分間のドラマ”といわれた流行歌では、ドラマというぐらいだから“舞台設定”が重要となる。それはその3分間のストーリーを盛り上げるロケーションで、なおかつ聴くものの情感に訴える、つまり抒情性のある場所でなければならなかった。

それは「港」であったり「海辺」であったり「並木道」であったり「喫茶店」であったり「校庭」であったり。「丘」もまたそのひとつで、描かれたストーリーの中、様々な意味を託されてうたわれてきた。

「丘」にはまた、なぜか夕陽が似合う。
上の「夕陽の丘」はデュエットソングの定番。とはいいながら、この詞は男と女のかけ合いにはなっていない。あくまでひとり旅をする男のストーリー。なのになぜ……。まぁ、そんな細かいこと言わずに、デュエットの方が楽しいでしょ? といわれればそうだから。

男は旅をしている。なぜ。理由などない。沓掛時次郎からビリー・ザ・キッドまで、あるいは車寅次郎からキャプテン・アメリカまで、男は涯てのない旅に出るのよ。

そんなバスに揺られながら、忘れられない女のことを思い出している。未練だねぇ。
ここで「丘」は単なる背景。しかし、赤く染まった丘は男の旅情と、後戻りできない哀しさを浮き立たせる。ここはやっぱり夕陽だな。朝陽じゃだめだ。気持ちがたそがれないもの。

夕陽に染まった丘が忘れられない「思い出」の場所という歌もある。
♪連れて行ってくれよ 夕焼けが見える場所へ あの日別れたままの 友だちがきっとまっている 「Sunset Hills」柳ジョージ

これは大人になってしまった男の少年の日への憧憬。
「丘」というフレーズは出てこないが、彼が少年時代を過ごしたのは丘の原っぱだったのだ。毎日、空に赤みがさすまで、転げ回って遊んだ丘。夢を共有し、指切りの誓いをたてた幼なじみ。
今となってはあの夕陽の丘の時間がまるで夢のように思えてくる。ときどき、無理はわかっていても無性にあの頃に還りたくなることがある。そんな歌。

CHAGE&ASKA「RED HILL」もまた「夕陽の丘」。
♪流れない風の赤い丘 登らない僕を眺める 夢なら夢の中だけで……

目の前にそびえる赤く染まった丘は、人生のクロスロードに佇む男の幻想。
男は答えを待っている。しかし当たり前のように丘は沈黙したまま。男は「どうしよう……」と途方に暮れている。この「夕陽の丘」はまるで彼の過去と未来を貫く運命のよう。

夕陽に染まった丘は、それだけでも美しいが、我々にさまざまな想いやイメージを喚起してくれる。
しかし「夕陽の丘」といったとき、上の歌のように夕焼けに染まった丘もあるが、美しい夕焼けが見える丘という場合もある。たぶん、後者のほうが多いのだろう。
「朝日が丘」があるように、そういう丘は「夕陽が丘」と命名されたりする。

♪赤い夕映え 通天閣も 染めて燃えてる 夕陽が丘よ 「大阪ぐらし」フランク永井

と歌われた「夕陽が丘」は実際に大阪の天王寺にある町(夕陽丘)で、今は知らないが、おそらく昔はそこから茜空を見ることができたのだろう。地下鉄の駅名にもなっている。

こんな夕陽が丘、実は全国にいくつかあるという。
東京に近い所では神奈川県の平塚、平塚競輪場のそばに「夕陽ヶ丘」がある。
そのほか、宮城県、岐阜県、京都府、兵庫県、奈良県にもあるそうで、とりわけ京都の福知山には3カ所の「夕陽が丘」があるとか。

また、地名ではないが、長崎市には「道の駅夕陽が丘そとめ(みちのえき ゆうひがおかそとめ)」という“駅”がある。駅といっても鉄道の駅ではなく、「道の駅」つまり車で行く駅で、高速道路で言えばサービスエリアのようなもの。国道202号上にあり、西にひらける角力灘の夕陽は絶景といわれる。

と「夕陽」に先導されて「丘」のイントロダクションを奏でてきましたが、もちろん「丘」は夕陽と限ったわけではなく、様ざまな丘があるわけで。
毎度毎度の暇潰し、「丘」は流行歌によってどのようにうたわれてきたのか、例によってしばし「古え」へとタイムスリップしてみようと思います。


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コメント 2

レモンツリー鈴木

「キャー」という叫び声、娘がゴキブリを見つけて朝から大騒ぎをしているのです。そして女房の「やっつけたぞ」という勝鬨の声が聞こえてまた静寂に・・・・ 失礼しました。
 
「丘と夕陽」は想像するだけでも絵になる風景ですね。あの丘の夕陽は近づこうとと蜃気楼のように逃げていく、そんなロマンチックなイメージかな。



by レモンツリー鈴木 (2008-09-11 07:47) 

MOMO

朝からひと騒動? でしたね。

昔から変わらずに(多分)続く家庭の一コマを想像させていただきました。奥さんのカチドキの声というのがスゴイですね。

夕陽は秋がいいですね。
あの♪ギンギンギラギラ夕日が沈む……
っていうスゴイ歌が聞こえてきそうです。

by MOMO (2008-09-11 20:22) 

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