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森林①涙の森の物語 [a landscape]

 

♪ その朝は 野アザミが
  そよ風に 揺れていた
  その人は 森かげで
  やさしげに 手を振った

  恋なんて 知らないの
  どうしたら いいの
  友だちの リスの子に
  白鳥は つぶやいた
(「涙の森の物語」詞:横井弘、曲:小川寛興、歌:中村晃子、昭和44年)

“森林浴”が言われだしてから、もう20年以上経つが、そのころから“即物的”なわれわれは「森林」に対して、今まで以上に注意をはらうようになった。

しかし、森林浴などなくても森林は人間が生存していく上で欠かせない“生きもの”なのである。
なによりも大量の雨水を受け止め川に送る。その水はわれわれに飲用されるだけではなく、田畑の灌漑に欠かせないものとなる。農業だけではない。森林を通して川に注がれる水は昆虫や動物の死骸から得る多くの滋養を含んでいる。それが海へ流れ込み、エサとともに飲み込んだ魚は成長していくのである。つまり森林は漁業にとっても不可欠なものなのだ。

また光合成による空気の清浄化もよく知られている。工場やクルマから排出される二酸化炭素を酸素にかえてくれるのだ。

さらに建築用材、木製品、紙製品などの需要が増え、森林伐採が地球温暖化や生態系の破壊の問題を引き起こしている。いくら植林による再生産が可能とはいえ、米や野菜のように今年植えて来年収穫とはいかない。やはり森林資源の限界を考えれば、ムダを排除していくことは当然だろう。

それだけ世話になっておきながら、そのうえ森林浴? まぁ、それでも森林は文句を言わないのだからエライ。ありがたく甘えさせていただかなくては。
都会に住んでいてなかなか森に入る機会がない人は、たまには森林浴がてら出かけて行き、何本かの木の幹を叩いて「頑張ってるね」と声をかけてあげてもいいぐらい。

森林を背景にした流行歌は最近でも、たとえばやがて一緒になる彼女に森の中で自然に囲まれて暮らそうと語る、さだまさしお得意の“未来設計図”「大きな森の小さな伝説」があるが、その頻度はこの30年あまりで激減したように感じる。

かつて「森」や「林」がしばしば歌われた時期が2度あった。ひとつは流行歌の中で故郷が重要な意味をもっていた時代、つまり昭和20年代から30年代の前半まで。

♪ 森の梢に 照る月も 「誰か夢なき」(竹山逸郎、藤原亮子)
♪ たゆとう森よ あの道よ 「山のけむり」(伊藤久男)
♪ 静かな森の 彼方から 「森の水車」(並木路子)
♪ 明るい青空 白樺林 「高原列車はゆく」(岡本敦郎)
♪ あの人は行ってしまった からまつ林 「哀愁のからまつ林」(島倉千代子)

もうひとつは、その故郷が“失われて”からまもなく。
今度は、流行歌にメルヘンが許されていた頃。具体的に言うと、昭和40年代はじめから昭和50年代前半あたりまで。

昭和40年代はじめといえば、グループサウンズが隆盛を誇ったころ。
「涙の森の物語」(中村晃子)は、まさにそうした時代に乗って出てきた歌。
白鳥の悲恋物語。“あの人”とはきっと王子さまだろう。チャイコフスキーの「白鳥の湖」そのまま。臆面もなくイントロにチラッとかの古典を使っている。ここまでやれば文句なし。
その前年、「虹色の湖」(これもメルヘンチックな歌)でデビューした中村晃子は、この歌でフレーズの後尾をすべてあげるという意味不明な(聞きようによってはズベ公節に聞こえる)歌い方をしている。当時は? だったが、今聞いてみるとおもしろい。カラオケで歌えばウケるのではないか。

こうしたメルヘン・ガールポップスは、あきらかにグループサウンズの影響を受けている。
その先鞭をつけたGSには“メルヘンもの”が数多くあるが(あのビジュアルがまずメルヘン)、そのなかで「森」が出てくる曲をあげてみると、

♪ 森と泉に かこまれて 「ブルーシャトー」(ジャッキー吉川とブルーコメッツ)
♪ 日暮れの森の 湖に 浮かぶ白鳥に 「花の首飾り」(タイガース)
♪ 日の暮れた 森を あてもなく歩いた 「君に会いたい」(ジャガーズ)

ついでにこの頃のガールポップスも。
♪ 走り去る 村も町も森も 「そよ風に乗って」(伊東ゆかり)
♪ 夜になったら ふたりで 森の泉に 行こうよ 「白馬のルンナ」(内藤洋子)
♪ ドミニカ ニカニカ あの子の目には 森も川も 「ドミニク」(ザ・ピーナッツ)

流行歌というのはそもそもファンタジーの要素を持つものなのだが、“メルヘン”は少しゆき過ぎだったようで、ほぼ同じ頃に出てきた和製フォークやその後のニューミュージックによって駆逐されることになる。

それでも「森を駈ける恋人たち」(麻丘めぐみ)「秘密の森」(石川さゆり)のように昭和50前後のアイドル歌謡時代まではそうしたメルヘンの残滓は残ったのだが。

ところで「森」と「林」の区別とは?
「森は林より木が1本多い」
などというナゾナゾではなくて。
農林水産省では植林など“人工的に”つくられたものが「林」。自然にかたちづくられているものが「森」。ということらしい。
首を5度ぐらい傾げたくなるが、林はその中の道などが整備されていてかんたんに抜けられそうなのに対し、森は奥深く一度迷ったら出てこられなくなりそうなイメージがあるので、あながち間違いではないかも。
そういえば、かの青木ヶ原の樹海も、“日本の森林浴100選”に選ばれているそうだが、「ちょいと森林浴へ」って行ったまま、何年も帰ってこなかったりして。

ヴォーカルは和泉元彌でも羽賀けんじでもありません。


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