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秋歌①曼珠沙華 [noisy life]

 

GONSHAN. GONSHAN. 何處へゆく。
赤い、御墓の曼珠沙華(ひがんばな)、
曼珠沙華(ひがんばな)、
けふも手折りに來たわいな。

GONSHAN. GONSHAN. 何本か。
地には七本、血のように、
血のように、
ちやうど、あの子の年の数。
……
(「曼珠沙華」詞:北原白秋、曲:山田耕筰、歌:ベルトラメリ能子、昭和8年)

ものすごい勢いで秋がやってきました。

ちょっと盛りは過ぎましたが、秋の印象的な花といえば彼岸花、つまり曼珠沙華
全国各地に(北海道にはないと聞いた記憶があるがほんとうだろうか)その群生地はあるのでしょうが、関東で知られているのが埼玉県は高麗の巾着田。

実は、わたしも生まれて初めて彼岸花を見たのがこの巾着田。大昔、花鳥に無関心だった頃で、たまたま別の用事で彼の地に行き、時候がシンクロしてその群生に出くわしたのでした。
田んぼの畦に群生する赤い花は、壮観というのか、圧倒的というのか、とにかくそのシーンは30年あまり経った今でも、記憶の中で鮮明に再生することができます。

曼珠沙華あるいは彼岸花は、土地土地によってそのほかにもいくつもの俗名が。
たとえば死人花、地獄花、葬式花、蛇花、盆花、毒花、忘れ花などなど……。

曼珠沙華は彼岸花科で学名をLycoris radiata といい、リコリスはギリシャ神話に出てくる海の神で、その姿の美しさから命名されたとか。
また仏教用語でマンジュシャゲは“天上の花”を意味し、開花の季節になると天から降ってくる吉兆の花だそうです。

それがなぜ、死人花だの地獄花だの、“不吉な花”の代名詞になってしまったのか。

やはり“盆”の時季に咲くというのがそのいちばんの理由?。それとあの“いでたち”。真っ直ぐに伸び、葉のかげりすらない茎。その先には、まるで玉座をかたちどったような、いくつもの舌状の花びら。白もあるがほとんどは赤い花。その姿はどこか、ほかの花々とは異なった姿。

根は百合やチューリップと同じウロコ状の鱗茎で、有毒。昔はこの根を食べて中毒をおこし死んだ人もいたとか。そのへんからも“不吉な花”のイメージがつきまとったのかも。ただ、その根も何度も洗えば食用になり、その昔、飢饉のときなどは曼珠沙華の根で凌いだという話も。

北原白秋「曼珠沙華」は明治44年に刊行された2番目の詩集『思ひ出』の一編。
“GONSHAN”(ごんしゃん)は白秋の故郷、福岡県柳川の方言で“良家の令嬢”のこと。

この頃の白秋の特徴のひとつが極彩色の色づかい。この「曼珠沙華」もまさにその印象。毒々しい色は墓地に咲き乱れる曼珠沙華の赤だけではなく、ゴンシャンの身にまとう着物もまた原色の赤、緑、黄という下品な色合いが思い浮かんだり。

毎日のように曼珠沙華を摘みにくるというところにも、ゴンシャンの不幸な過去、そして現在を想像してしまいます。

この「曼珠沙華」に曲をつけたのが「赤とんぼ」で知られる山田耕筰。大正12年のこと。
で、どういうジャンルの歌になるのかというと、その詩からもわかるとおり、けっして童歌ではありません。現在でも錦織健などが歌っているように歌曲、つまりクラシックの範疇に。

戦前は奥田良三など当時の声楽家によって歌われました。上記のベルトラメリ能子(よしこ)もそのひとり。

ベルトラメリ能子は、明治36年茨城県多賀郡(現在の北茨城市)生まれ。東京音楽学校を経て18歳でイタリアへ留学し、声楽や音楽理論を学ぶ。留学中に現地の作家、アントニオ・ベルトラメリと結婚。その後死別し昭和6年に帰国。各地で独唱会をひらくことに。

帰国後すぐにコロムビア・レコードでいくつかの楽曲の吹き込みを。「ブラームスの子守歌」ビゼー「スパニッシュ・セレナーデ」などの洋楽はもちろん、白秋・耕筰コンビの「松島音頭」弘田龍太郎作曲「浜千鳥」などの邦楽も。
そして「曼珠沙華」もそのひとつ。

戦後はイタリアオペラの歌唱法であるベルカント唱法を普及させるため、研究所をひらいたり、国立音楽大学に招かれて声楽家を養成。またオールドファンには懐かしい映画「コタンの口笛」(監督・成瀬巳喜男)で主題歌を歌ったり。昭和48年逝去。どこかのコンクールには“ベルトラメリ能子賞”があり、その功績を称えているとか。

「曼珠沙華」の出てくる流行歌といえば、古くは戦前の、
♪ 赤い花なら曼珠沙華 阿蘭陀屋敷に雨が降る 「長崎物語」(由利あけみ)
戦後まもなくだと、
♪ ああ切なきは 女の恋の曼珠沙華 「恋の曼珠沙華」(二葉あき子)
がありますが、現代では、
♪ 曼珠沙華 恋する女は 曼珠沙華 罪つくり 「曼珠沙華(マンジュシャカ)」(山口百恵)
のほうが知る人が多いでしょうね。これももはやナツメロですが。

また、情事を歌ったムード歌謡、
♪ 女は男の曼珠沙華 燃え立つ思いを花にする 「曼珠沙華」(サザン・クロス)
などというのも。

いっぽう彼岸花では、
♪ 彼岸花咲けば 秋深く 「彼岸花」(森昌子) や
♪ 哀しい恋なら なんの花 真赤な 港の彼岸花 「港の彼岸花」(浅川マキ)
が比較的耳覚えのある歌。
そういえば、浅川マキにはそれらしき“赤い花”が出てくる「赤い橋」もありました。

そのほか、
♪ 地獄がなんだ 滅びるのが 「地獄花」(石原裕次郎、浅丘ルリ子)
なんて恐い歌も。これはたしか映画「剣と花」(主演・渡哲也)の主題歌だったはず。

曼珠沙華。花言葉は「嫉み、妬み、自嘲」。つまり“僻(ひが)む花”って、これはウソ。ほんとうは知りません。

“初対面”の時の印象もあって個人的には好きな花です。花びらのかたちが華麗で、葉のなく細い茎にとってつけたように咲いているのがユニークでいい。
「そんなに好きならば、野辺のを手折って一輪挿しで室内に飾ってみれば?」
ええっ……、……だいたいが花を飾る習慣などないもので……。死泥、喪泥……。


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MOMO

deacon blueさん、"very Thanks"です。
by MOMO (2007-10-18 21:23) 

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