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橋④両国橋 [a landscape]

♪ 他人(ひと)から聞いた話だけれど
  小雨にぬれてる両国橋で
  あなたに偶然出会ったら
    長い髪した女の人と 腕組み歩いていたそうね

  何も言いたくないけれど
  新しい恋はじめるならば
  両国橋はいけないわ
    あそこは二人の思い出を 川に流した場所だから
  あそこは二人の思い出を 川に流した場所だから
(「両国橋」詞:喜多條忠 曲:吉田拓郎 歌:由紀さおり 昭和56年)

東京の川、なかでも江戸の昔から“大川”として親しまれた川といえば隅田川。
その隅田川にもたくさんの橋が架かっている。

東京を分けるように流れる隅田川も古くは渡し船のみで川越をしていた。
はじめて架かった橋は日光街道へと続く千住大橋。1594年というから江戸に幕府が置かれる前。
当初、徳川家康は他国からの侵略を防ぐために橋を架けない方策だったとか。しかし、江戸市民が不便をかこち、大火が起きたとき、橋がないため多数の死者がでるということもあって、徐々に橋を架けることになっていった。

以後、平成5年に中央大橋が完成するまで、千住大橋から18の橋(支流の相生橋を含む)が架けられている。

その千住大橋に次いで2番目に架けられたのが「両国橋」で、時は1659年(1661年説もある)。当初は大橋といったが、30年あまり後に「両国橋」となった。
“両国”とは当時の武蔵国と下総国のこと。つまり東京と千葉を結ぶ橋ということ。

この架橋により今は下町の代名詞である深川が発展し、さらに新大橋、永代橋、吾妻橋が架けられ、そのおかげで江戸市中はおおいに繁栄したといわれる。

藤沢周平『橋ものがたり』という10の短編を収めた小説がある。いずれも隅田川やその運河に架かる橋を舞台にした藤沢周平ワールドの人情話で、そのうちの3編に両国橋が出てくる。
なかでも印象的なのが「思い違い」。

 指物師の男が毎朝晩、両国橋ですれ違う娘に心を奪われる。男はその娘が川向こうから 神田辺りへ通い奉公しているのだろうと思いこむ。あるとき、ひょんなきっかけで娘と 口を利くようになるが、それからしばらくして娘は姿を消す。
 親方の娘との縁談も断った男はあるとき、酔った勢いで仲間の誘いに乗り“岡場所”へ 上がる。そこに現れたのが橋ですれ違った娘だった。娘は娼妓で、男に知られるのが怖 くて姿をくらましたのだった。

 男の勘違い。両国橋で合う娘は朝、仕事を終えて川向こうにある岡場所から家へ帰ると ころだったのだ。
 朝、横に眠る女の寝顔を見ながら男は、女の借金が20両、自分が今までに貯めた金が 12両、残りは昼の仕事以外に夜も内職をすれば……と、女を身請けする算段をするの だった。

本題に戻って。
両国橋はその後、何度かの架け替えが行われ、現在の橋は昭和5年に架け直されたもの。長さ164.5メートル、幅24メートルで、東京都が管理している。

いま両国といえば、JR両国駅付近にある大相撲国技館で知られている。
年に3度はここから軽快な櫓太鼓が響き渡る。付近には相撲部屋(いま事件の渦中にある名門部屋も)やちゃんこ料理店などがあり、雪駄をチャラチャラさせた関取や、自転車に乗った若い衆に出くわすこともめずらしくない。
また、夏の風物詩、花火大会も有名。

由紀さおりの歌う「両国橋」「ルーム・ライト」に続く拓郎メロディー。
作詞は「神田川」喜多條忠で、かつて両国橋で別れた男の噂を聞いた女性が、「同じ過ちを繰り返さないでね」と老婆心だか、母性愛だかを発揮するという内容。
裏読みすれば、想い出の場所を他の女と……とか、もしかしてまた失敗するんじゃないかしら……、などと嫉妬や邪な願望が伝わってくる。つまり、女はまだ男に未練があるのではと。そのへんが作詞家の腕なのかも。

それ以外の隅田川に架かる橋で、歌にうたわれているものは「勝閧橋」(柴田博)、「言問橋」(清水由貴子)、「言問橋」(クラフト)、「相生橋」(瀬川瑛子)、「千住大橋」(石橋正治)などが。
こまどり姉妹「浅草姉妹」には♪何も言うまい 言問橋の と出てくるし、やはり浅草界隈の想い出を歌った「ほうずきの町」(ちあきなおみ)では♪心細さを かばってくれた 吾妻橋 という歌詞がある。

今年の6月に隅田川にかかる勝鬨橋、永代橋、清洲橋が三橋そろい踏みの“国の重要文化財”に指定された。いずれも、アーチ型や吊り橋型の美しいフォルムの橋。
古さから言えば「両国橋」のほうが……と思うのだが。形はゲルバー型というのだが、橋の上面が低い柵だけで、アーチ型、吊り橋型に比べるとたしかにインパクトに欠けるフォルム。

しかし、江戸の昔から現在に至るまで、江戸あるいは東京庶民の足音を聞きながら、その生活ぶりを見続けてきた貴重な橋であることには変わりない。

 


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deacon_blue

☆ 「両国橋」を最初にシングルで出したのは松平純子だったかな。おそらくお由紀様も同じアレンジだと思われますが,古いことゆえ忘れてしまった。
by deacon_blue (2007-09-30 22:57) 

MOMO

へえ、そうだったんですか、由紀さおりのオリジナルだとばかり思っていました。
松平純子はアイドルでしょうか。もしそうだとしたら、ずいぶん大人っぽい歌をうたわせたものですね。そういうウリだったのかな。
by MOMO (2007-10-02 21:55) 

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