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[忘れ名草] [ozolagnia]


♪ 好きといえばいいのに いつもいえぬままに
  月が上る小道を 泣いて帰った
  白く咲いてる野の花を つんで願いをかける
  どうぞ 愛があなたに とどくように
  ……
  小雨ふる日はせつなくて ひとり涙を流し
  つらいだけの初恋 乙女のワルツ
(「乙女のワルツ」詞:阿久悠、曲:三木たかし、歌:伊藤咲子、昭和50年)

先日の新聞に芸人・陣内智則の記事があった。人気女優と結婚して男どもの嫉妬をかっているのは周知。それさえネタにしなくてはならないのが芸人の宿命。それはともかく、記事はその後のトークショーか何かの発言で、目に止まったのは次のような部分。「僕は初恋の人の匂いを覚えています。……でも(新妻は)もっといい匂い……」。わたしは“嫉妬組”ではないのでオノロケ発言はどうでもいいのだが、「初恋の人の匂いを覚えている」という部分で、何年か前に同じようなことを言った友人を思い出したのだ。

当然そんな話が出るのは酒の席だ。きっかけは初恋の話だったのか、女性の香水の話だったのか。彼曰く、
「オレはいまだに初恋の女性のつけていた香水の匂いを覚えている。いまでもたまに街でその香水をつけている他人とすれ違うことがあるけど、そのとき彼女のことを思い出すんだ」
「へえー」とわたしを含め身に覚えのない一同感心。すると誰かが
「その香水って、なんて名前なんだ?」
「“フォゲットミーノット”。いい名前だろ。訳せば“忘れ名草”ってことさ」
いい名前だ、と感心するとともに同席した誰もが知らない香水の名前を知っている彼に内心拍手。
翌日、彼の話が気になって調べてみたのだが、“フォゲットミーノット”あるいは“忘れ名草”なる香水はみつからなかった。
あれは彼のつくり話……。そうではない。たしかに彼は初恋の人の“匂い”を覚えているのだ。しかし、その匂いつまり香水の名前は彼の創作なのだろう。そういうことを平気でして、ことわりも何もつけ足さない男なのだ。もちろん悪気はない。

忘れ名草は正式な学名は「ミオソティス」Myosotis alpestris 、別名で“フォゲットミーノット”というそうだ。春から夏にかけてうす青の可憐な花をつける。
『ドイツのある騎士が、ドナウ河のほとりに咲くその花を、恋人のために摘もうとして過って川に落ち、命を落とした。その恋人は騎士を偲び、一生涯その花を髪飾りにした』
そんなストーリーが忘れ名草の由来としてついている。

「忘れ名草」の歌といえば、その名前をタイトルにした「忘れな草をあなたに」が最も知られている。はじめに歌ったのは昭和39年の梓みちよ。46年には菅原洋一、倍賞千恵子の競作でふたたびヒットしている。そのほかグラシェラ・スサーナなど多くの歌手(どちらかというと清潔系の)がカヴァーしている。
しかし、歌詞からわかるように、これは女性発の歌。花の名の由来の“騎士伝説”に従えば、「忘れな草をもう一度」(中島みゆき)の方がふさわしい。
♪忘れな草もう一度ふるえてよ あの人の夢に届け
と、未練な男の気持を“みゆき節”に乗せて歌っている。

わたしにだって初恋ぐらいある。しかし、残念なことに匂いの記憶はない。それでも、その“花の顔(かんばせ)”を思い浮かべるとき、いっしょに聞こえてくる歌はある。


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