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[チョコレート] [ozolagnia]


♪ パイナップル・プリンセス 
  かわいい パイナップル・プリンセス
  小さな ウクレレ片手に お散歩よ
  パイナップル・プリンセス
  赤い スカーフ 首に巻き
  風になびかせ お散歩よ

  彼氏のポッケにゃ チョコレート
  私のポッケにゃ ココナツ
  お手てつないで お散歩よ
  オン ウキウキウキ ワイキキ
(「パイナップル・プリンセス」訳詞:漣健児、曲:R.M.SHERMAN, R.B.SHERMAN、歌:田代みどり、昭和36年)

わたしの頼りない記憶では、初めて義理チョコをもらったのは昭和50年代に入ってまもなく。とにかく学生時代には“バレンタインデー”なる言葉も聞いたことがなかった。知らなかったのはオマエだけだろう、と言われれば、そうかもしれない。
自分自身、むかし仕事や遊びで係わった人のことをよく覚えている方だと思うのだが(名前は結構忘れている)、とりわけ死んでしまった人のことは覚えているし、折々に思い出す。それが夭折であればなおさら。

私にはじめてチョコレートをくれた娘は同じ会社のアサミといった。それが苗字だったのか、名前だったのか。生まれは川越だといっていた。ベビーフェイスで鼻っ柱が強くて、社長だろうが上司だろうが気に入らないと誰にでも噛みついていた。いま、あの顔を思い出しても怒りを押し殺してる不機嫌な表情がほとんど。正直苦手なタイプだった。
社員10数人の小さな会社で、彼女は経理と雑用を兼務していた。わたしより4才年下なのだが、ことあるごとに「○○さんには、ベージュは似合わない」とか「ネクタイが派手すぎる」とか、不粋なわたしにファッションチェックをしてくれたものだ。

こんな思い出もある。会社帰り数人の同僚と飲み屋へ。そこでなぜかアサミと意気投合。アサミが突然わたしに抱きつき、耳元で「レコードちょうだいよ」と言ったのだ。レコードとは、わたしがその日勤務中にパチンコで稼いだ戦利品。「世良公則とツイスト」のLP。彼女はしっかり見ていたのだ。どうしても欲しくて獲ったレコードでもなく、酔ってもいたので「いいよ」。それよりも彼女のそういうかたちでのいわゆる“おねだり”に正直、気が動転していた。そんなわけだったので、「それじゃ、その服くれよ」と理由の分からない言葉をわたし。そのとき彼女が着ていた米軍払い下げのボロボロブカブカのジージャンと交換しようと言ったのだ。もちろん冗談。ところが、アサミはわたしからからだをはなすと、すぐにジージャンを脱ぎ、わたしに「ハイ」。彼女の素早い反応に「冗談だよ」というタイミングを逸して受け取ってしまった。

そうかと思えばこんなこともあった。わたしが得意先で失敗をやらかし、それを放っておいたら会社に苦情の電話が来たことがあった。たまたまわたしが出張か何かでいなくて、アサミが謝罪に行く羽目に。そこで彼女はわたしの代わりに相当怒られたようで、翌日、わたしの元へやってきて、無言で机の上に書類を叩きつけていった。そして、それから10日あまり口をきいてくれなかった。

そしてバレンタインデー。いま思えば地味な会社のわりにはオシャレな女性が多かった。わたしは他の男性社員以上でもなく以下でもなく、数個の義理チョコをもらった。もちろんアサミからも。銀紙に包んだ梅干し大(もっといい例えが……)のチョコが3個。ほかの女性からのチョコがどんな形だったか覚えていないのだが、なぜか彼女のものは覚えている。

彼女の移り香のついたジージャン、怒りをこめて机に叩きつけられた書類、バレンタインデーの3粒のチョコレート。その順番がどうだったのか……。いずれにしてもわたしはその会社を2年足らずで辞めた。送別会をしてもらったのだが、アサミがいたかどうか覚えていない。
それから数年後、当時の同僚からアサミが病気で死んだことを教えられた。まだ20代だったと思う。彼女からもらったジージャンは、しばらく着たりしていたが、そのうち無くなってしまった。それが、彼女が死ぬ前だったのか、死んだ後なのか、それもいまとなっては記憶の彼方である。

「パイナップル・プリンセス」田代みどりの3枚目のシングル。当時のカヴァーポップスは競作がふつう。「パイナップル・プリンセス」も例外でなく、森山加代子もレコーディングしているが、やはりこの歌の印象は田代みどり。編曲がスマイリー小原で、バックバンドが彼のスカイライナーズというのも懐かしい。オリジナルはディズニー御用達シンガー、ANNETTE
田代みどりは、昭和23年島根県生まれ。大阪で育ち、10才でウエスタン・カーニバルに出場。12才でレコード・デビュー。ほかに「ビキニスタイルのお嬢さん」「ベビー・フェイス」「月影のマジョルカ」などのヒット曲がある。パンチのある歌い方で、当時、和製ブレンダ・リーなどと言われた。日活青春映画にも多数出演し、19才で予定どおり引退。その後元ブルーコメッツ三原綱木と結婚しデュオで再デビュー(「愛の挽歌」)するが、のちに離婚、そして引退。オールディーズが人気の昨今、数年前から歌手活動を再開している。


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コメント 5

masarude_03

いつもながら勉強させてもらってます。
「パイナップル・プリンセス」森山加代子の方しか、
聞いたことがないんですよね〜。
by masarude_03 (2007-02-15 00:29) 

masarude_03

しかしなんかええ話ですね…(泣)
うまく言えないけど、こういうことって、
あとから初めていろんなことが見えてくるっちゅうか、
なんというか…。
by masarude_03 (2007-02-15 00:32) 

MOMO

いつもありがとうございます。
少しは役に立っているのだとしたらうれしいです。
でも、勉強になっているのはわたしの方でして、MatchingMoleさんのブログ、音楽、映画、諸々、笑いながら得心しててます。そして新しいことを覚えています(すぐに忘れるのが悲しい……)。
by MOMO (2007-02-15 20:33) 

Ma-toshi

MOMOさま
コメントありがとうございました。
バレンタインデー・・・そうですね、50年くらいでしたね、私もその名前を聞いたのは。
まあ、私の場合物語になるようなドラマなんて、なんにもありませんでしたが・・・(^^;
>田代ミドリ
ジャズなんか歌ってないでしょうね。
やはりポップスが似合いますよね。
by Ma-toshi (2007-02-15 21:23) 

MOMO

Mashi☆Toshiさん、ありがとうございます。
田代みどりのジャズは聴いたことないですが、コンサートやってるというからもしかして……。だいたい歳をとるとポップシンガー(演歌歌手だって)はジャズを歌いたがりますよね。まあ、アダルト向けということもあるし、シンガーとして歌ってみたい魅力がジャズにはあるのでしょうけど。ジャズアレンジで自分の持ち歌を歌った方がおもしろいと思うのですが。それも、いいアレンジャーと当たってうまく歌えればいいですけど。
by MOMO (2007-02-16 21:45) 

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