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【松葉ボタン】 [obsolete]

『あれは何月ごろだったか、この前、ここをのぞいた時は、石畳の両側に、色さまざまな松葉ボタンが、厚いじゅうたんを敷いたように、花やかに咲き乱れていたっけ……。松葉ボタンはいつ咲く? 六月?……七月?……。』
(「光る海」石坂洋次郎、昭和37、38年)

たけの低い(20センチほど)南アメリカ原産の一年草。夏から秋にかけてに赤、黄、白の五弁の花をつける。花は昼間開き夜閉じる。葉が線状なので「まつば」の名がついたのだが、松葉ほど細くはない。ちなみに同じように葉が線状の花に「松葉ぎく」がある。また「松葉ボタン」は〔すべりひゆ科〕で、牡丹は〔きんぽうげ科〕であり、同種ではないが、花びらのかたちが似ていることからその名になった。
昭和30年代ぐらいまではごく一般的な庭の草花だったが、最近は他の花に押され気味。「松葉ボタン」はまだ、花屋によっては置いてあるところもあるがあまり見ない。鳳仙花などはほとんど消滅してしまった。花にも流行り廃りはあるようだ。最近は、外国から多種多様、新種珍種の花が入ってきて園芸好きの人気をさらっている。花屋の店先、あるいは各家庭の前に並べられたプランターには冬でも色鮮やかな花が咲いている。
花は気分転換や目の保養になるし、季節を感じさせてくれる。しかし、なんでもそうだが、花もまた種類(情報)が増えすぎると辟易することがある。

石坂洋次郎の小説の特徴のひとつは、登場人物のファッション(衣服)の描写が細かいことがあげられる。それと同時に、庭木や草花の具体的な名前が頻繁に出てくることも目につく。〈庭には色とりどりの花が咲いていた〉ではすまされない。たとえば、初夏なら「グラジオラス、ほうせんか、松葉ボタン」、秋なら「さざんか、きく、きんせんか、サフラン」というように。
「光る海」は大学を卒業した学友とその家族たちの青春群像。1年年間にわたって朝日新聞に連載されたものだが、「セックスの感覚」だとか「セックスの処理」など性に関するかなり際どいセリフが出てくる。当時の新聞はいまよりもはるかにラジカルだったのだなと感心してしまう。というより、現在の新聞が自己規制をしすぎているのかも。
38年には監督・中平康、主演・吉永小百合、浜田光夫で映画化されヒットした。


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