SSブログ

【パン助】 [obsolete]

『「……しかし、あんたは、そういうけれど、ほんとうは何してる? まさか、パン助じゃアないだろうな……?」
「失礼しちゃうわ。あたし、これでもダンサアよ。ただし、どこのホールにいるのかは、訊かないでね」。
 先手を打たれたゴロちゃんは、それでも何度かそのホールを質したけれど、彼女は絶対に教えなかった。』
「日本ロォレライ」(井上友一郎、昭和22年)

「パン助」、「パンパン」あるいは「パンパンガール」のこと。つまり売春婦。なぜ売春婦がパンパンなのか。その語源には諸説ある。てっきり戦後の言葉だと思っていたら南方では戦中から使われていたとか。南方の戦地で日本兵が慰安所をノックした音からきているとか、日本兵が「パンパン」と手をふたつ叩いたら現地の娼婦がやってきたとか。しかし、戦後その言葉を普及させたのはGIたちである。昭和21、2年当時、パンパンのメッカと言えば有楽町、銀座界隈で、その辺りに1000人あまりのパンパン・ガールがいたとか。そのうえ、そこには“ラク町お時”という元締めともいうべき勇ましいお姐さんまでいたとか。さらに、NHKラジオがその“お時”さんにインタビューをし、その赤い気炎が全国に流れたと言うから、なんともすさまじく、また楽しい時代だったようだ。

「日本ロォレライ」は井上友一郎お得意のダンサアもの。水の精ローレライの歌声に聞き惚れた船乗りたちが座礁するという伝説を歌ったドイツ民謡「ローレライ」をヒントに書かれた、“憎めない人々”のストーリー。
戦後、華北から帰還したゴロちゃんは家族との折り合いが悪く、家を飛び出しヤミ屋をはじめた。夜陰にまぎれて米を積んだ船で隅田川を上り下りする。ある晩、川沿いの焼けビルの4階から女性の妙なる美しい歌声が聞こえてくる。もともとバンドマンを夢見るゴロちゃんは、その歌声に聞き惚れる。何度かそんなことがあったあと、ゴロちゃんは舟をその焼けビルの下につけ、4階の女に話しかける。暗くて顔は見えないが、女は自分はダンサーだと言う。でもどこのダンスホールにいるのかは教えない。しかしゴロちゃんは、女が歌った「コロラドの月」を以前あるダンスホールで聞いたことを思い出した。ダンサーが彼の耳元で歌ったのだ。それからゴロちゃんは仕事の合間に幻のダンサーを探し回った。そしてようやくあるホールで小菊というダンサーがそうだと確信する。彼女は否定するがゴロちゃんは信じない。そこで小菊を舟に乗せてあの焼けビルの下へ行ってみることにした。小菊があのダンサーならば、焼けビルには誰もいないはずだ。ところが言ってみると4階の窓に人影が映っていた。小菊はその女はダンサーではなくパンパンだと言い、あの部屋へ行って冷やかしてやろうと言う。ゴロちゃんはしばし考えるが「止そう。つまらねえ……」と言って舟をこぎ出す。そして投げやりな調子で「コロラドの月」を口ずさむのだった。


nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。