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Silence is Golden① [story]

♪ All down and hurt deep inside
To see someone did something to her
All down in pain to see someone cry
Especially when someone is her

Silence is golden
But my eyes still see
Silence is golden, golden
But my eyes still see
(「サイレンス・イズ・ゴールデン」SILENCE IS GOLDEN 詞、曲・CREWE & GAUDIO、歌・THE TREMELOES、1967)

高校1年の夏。いま思えば、いちばん開放感にあふれていた頃。そりゃそうです。なにしろやっとの思いで入学試験に合格、どうにか高校生活にも慣れはじめ、季節は何かが起こりそうな夏ではありませんか。あたかも鎖から解き放たれた犬みたいな僕たちでした。

夏休みに入って3日目、僕ら3人はさっそく海へ。入学早々なんとなく一緒に遊ぶようになった中澤慎二、上野昇介、そして僕。中澤の家の別荘が九十九里浜にあるというので、そこへ行くことに。佃煮問屋の跡取りである中澤がリーダー格。1学期のあいだ、奥手の僕や上野にエロ本で性教育してくれたのが中澤。しかし、そういう中澤もいまだチェリーボーイ。今回の“海”はその実践というわけだった。

翌日、列車とバスで3時間余り、ようやく到着した別荘にいささかガッカリ。いつか映画で見たような洋風の広い居間のある家を想像していたのだが、ごくふつうの民家。しばらく使っていなかったようで、風呂場やトイレには蜘蛛の巣まで。それでも、3DKの間取りは“目的遂行”には支障なし。
3人は掃除もそこそこに、さっそくオン・ザ・ビーチ。すでに午後の陽高い海水浴場は大にぎわい。特設ステージではローリング・ストーンズのコピーバンドが「ひとりぼっちの世界」を叫んでいる。僕らはそれを横目で見ながら、ビニールシートとパラソルで陣地を設営。中澤が持ってきた缶ビールを配る。僕らはさも手慣れたようにプルトップを引きはがし、ビールをあおる。目の前を、赤、黄、青、白、様々な色のビキニやワンピースが行き交う。僕は太陽の暑さとビールの酔いと女の子たちの眩しさで、頭の中はグルグル、海パンの中はギンギン。そして、いざ出陣。

狙いは3人組み。ファーストコンタクトは、背中にサンオイルを塗りあっている3人。セパレーツの娘が2人、黒のワンピースが1人。切り込み隊長はもちろん中澤。
「ねえ、君たち。泳がないの?」
3人娘はお互いの顔を見合わせて笑っているだけ。
「何処から来たの?」
「何処だっていいじゃない。邪魔しないでよ。あっち行ってよ」
黒のワンピースが自分の腕にオイルを塗りながら言った。ようするにとりつく島がないということ。
「そんなこと言うなよ。ねえ、今晩泊まるとこあるの? 決まってないんなら、僕の別荘に来ない?」
「おことわり。ね、泳ごう!」
そう言って他の2人をうながすと、3人娘は海へ向かって駈けていった。
「なんだ、あのブスども! 声かけてやっただけでもありがたいと思えってんだ」
中澤の負け惜しみに、後ろで見ていた僕と上野は頷くしかなかった。

それでもメゲないのが、我らの隊長のいいところ。“別荘への招待”を最高の武器にナンパしまくったが、下手な鉄砲はいくら撃っても当たらない。しまいには、知らずに母娘3人連れに声をかけ、直後に父親が現れて、ほうほうの体で逃げてくる始末。

その夜、別荘へ戻った僕らは予定していた6人前のカレーを3人前に縮小して“残念会”。
ビックリしたのは上野の酒の強いこと。飲むわ飲むわ、まるで3人分の悔しさをひとりで引き受けたようなヤケ酒。挙げ句の果てが、
「デブの中澤とよォ、ガリガリの達也(僕のこと)とチビの俺じゃ、ナンパなんかできっこねえよォ。さっさと帰っちまうのが正解だよォ……」
とからみだしたかと思うと、「こんなもの、いらねえよォ」と、来るとき列車の中で中澤から配られたコンドームの包みを破り、口につけて膨らましはじめた。一杯の缶ビールでいささか酩酊気味の僕も、面白いので上野を真似てハシャいだ。すると中澤も自棄クソのようにコンドームを膨らましはじめた。結局その夜、気球のようになったコンドームが3つ、3人の爆笑とともに部屋の中を浮遊していたのだった。

しかし中澤の執念には恐れ入る。翌日、朝食を終えるとさっそく砂浜へ。3人娘を物色しては性懲りもなく声をかけ、断られるのだ。僕は早くも脈無しと見切って、彼らとは別行動。せっかくの海、泳がなくてはソンとばかり、沖まで遠泳。泳ぎ疲れて戻ってきたが、彼らの姿は見えない。しかたなく、海の家で焼そばを買い、バンド演奏が行われているステージの前へ行きひと休み。お客さんはまばらだが、ステージのバンドはお構いなしに演奏を続ける。デーヴクラーク・ファイヴの「ドゥ・ユー・ラヴ・ミー」が終わった。ヴォーカルの意外と張りのある声に、焼そばを頬張りつつ、すっかり聴く態勢になっていた。
ネクスト・ナンバー。ママス&パパスの「夢のカリフォルニア」
演奏に聴き入りながら、ふと海の方へ視線を向けると、少し離れた席にコーラを飲みながらバンドに視線を送っている女の娘がひとり。そのセミ・ロングのヘアスタイルに見覚えがあった。僕はたしかめるため、前の座席に移動し、彼女の横顔を見た。やっぱりそうだ。西田恭子だった。


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