『夏の歌③』 [noisy life]
♪ 利根の 利根の川風よしきりの
声が冷たく 身をせめる
これが浮世か 見てはいけない
西空見れば
江戸へ 江戸へと
ひと刷毛 あかね雲
「大利根無情」(詞:猪又良、曲:長津義司、歌:三波春夫、昭和34年)
二十歳の夏のことです。その年もことさら暑い夏でした。わたしはなぜか東銀座の歌舞伎座で大道具のアルバイトをしていました。どういう経緯でそこで働くようになったのか、不思議なことにまるで記憶がありません。面接の覚えもなく、いきなり尻にトンカチぶら下げて舞台裏を走り回っていた記憶から始まります。はっきり覚えているのは大道具の頭(かしら)がくりからもんもんで、山茶花究みたいな顔をしたコワイおじさんだったこと、それにわたしとおなじようなバイトで、アングラ劇団員や演劇をやってる学生などがいたということ。そうそう、もうひとつ名の知れない歌舞伎役者も。彼らはそっち系の人々が多く、わたしは狙われないよういつも尻に手を当てていましたっけ。
その頃、毎年八月の歌舞伎座は三波春夫ショーと決まっていました。当時流行りの音楽と言えば吉田拓郎、井上陽水、かぐや姫……、洋楽ならジョン・デンバーとかカーペンターズあるいはスティービー・ワンダー。ジャニス・ジョプリンなんかも聞こえていましたっけ。そんな時代でした。
それで三波春夫。♪こんにちは こんにちは は知ってましたし、「お客様は神様です」という“名言”も耳に入っていました。しかし、歌謡曲、演歌の世界は聞き流すどころか耳を塞ぐという年頃。ショーは一部が芝居で二部がヒットパレード。ヒットパレードでは「チャンチキおけさ」「おーい船方さん」などのヒット曲からはじまって得意の歌謡浪曲までびっちり1時間以上。わたしはバックで背景の木や叢を支えながらそれを聴かされているのです。なんと時間の経過が長かったことか。
ところが半月あまり経った頃から、私の中にわけのわからない変化が。歌謡浪曲の「関の五本松」のクライマックスでは背筋がゾクゾク、そして「大利根無情」のサビのところでは胸がジーン。
これは今でもテレビドラマの主題歌や、CMでくどく流れた曲がヒットする「リピート」「刷り込み」と同じ効果です。しかし「大利根無情」を刷り込まれてしまったわたしは、公演が終わる頃にはすっかり三波春夫のファンになっておりました。
「天竜しぶき笠」「一本刀土俵入り」「俵星玄蕃」「雪の渡り鳥」いいなあ。あのキリッとした高音。
♪ おまんたあ~
MOMOさん、コメントありがとうございました。いきなり見てます(笑)
「俵星玄蕃」馬を蹴立ててぇ〜。山茶花究みたいなコワイおじさん(笑)
noisy lifeすごいおもしろい!このおもしろさをわからないのは絶対、損!
by そっくりモグラ (2006-09-01 23:36)
いつもありがとうございます。
つまらない経験を読んでいただき恐縮です。
時間があるときはまた顔をだしてください。
ブログと関係ない話でも大丈夫、歓迎しますよ。
by MOMO (2006-09-03 22:27)