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【帝銀事件】 [obsolete]

『……三鷹事件とか、帝銀毒殺事件とか、女房子供をナタでぶち殺して、その肉を喰っちゃったとか(なんという国家的屈辱の大嘘を新聞記者はつくものであるか!)強盗は軒並みに襲って来るとか、といった戦慄の大波小波に見舞われている、とね。では、重ねて訊こう。諸兄は、あの帝銀事件の記事を読んだ時本当に肝の底から震えあがったか?』
「デカダン作家行状記」(柴田錬三郎、昭和32年)

昭和23年1月26日、東京豊島区の帝国銀行椎名町支店に白衣を着た中年の男が現れた。男は厚生省の防疫課の者だと名乗り、伝染病対策だとして行員たちに予防薬を飲むようにすすめた。17人の行員たちは男の指示に従って“予防薬”を飲んだ。すると間もなく全員が苦しみ倒れはじめた。男は16万円あまりの現金と小切手を持って行方をくらました。薬は青酸カリであり、結局行員12名が死亡した。これが世に言う「帝銀事件」。
事件から七ヶ月後、犯人として画家の平沢貞通が逮捕された。平沢画伯は一貫して犯行を否認したが昭和30年死刑が確定した。しかし、再審請求、支援運動が盛り上がり、時どきの法務大臣は死刑執行の許可を与えることができず、昭和62年、画伯は95歳で獄死した。なんと39年間という長期にわたる獄舎生活だった。
それを上回るのがいわゆる「袴田事件」。元ボクサーの袴田巌は、昭和41年、静岡の一家4人殺害・放火事件で逮捕され、死刑が確定したが本人および弁護団、支援グループは現在も無罪を訴え続けている。今年で収監40年を数えた。

「デカダン作家行状記」は売れない作家あるいは作家志望の男が遭遇する8つの逸話からなる。それはいずれも人間の欺瞞性をひきはがすような話である。
冒頭の“引用”は第4話で、アパートへ引っ越してきた作家が隣の部屋のラジオの音に悩まされる話。隣人は水商売の若い女性で、朝から晩まで、仕事へ出かけたあともラジオをかけっぱなし。作品が書けない作家はその音にイライラし、何度も抗議する。しかし隣人は夜中、土産の寿司をもって作家の部屋を訪ねるほどで、ラジオのことなど意に介さない。話が急展開して、作家は近所の邸宅に住む婦人に恋い焦がれ、大胆にも直接ラブレターを渡す。ところその告白はがぶざまに失敗する。傷心の作家に隣人の女はミルクの入った2つのコップを持ってきて、そのひとつに毒薬を入れ「どちらか飲みなさい」とすすめる。迷ったあげく男が片方のコップを取り上げ、飲もうとすると、女がそれをたたき落とす。作家は泣きじゃくり、しがみつく女を置き去りにして、女の部屋へ行き、ラジオを壁に叩きつける。そして作家の意識が朦朧としてきたところで話は終わる。ラストがやや舌足らずでした。


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