SSブログ

【下山事件】 [obsolete]

『……ナヤミをもっている人間というやつは、電車や汽車がバク進してきたるすると、ついフラフラ飛び込みたくなり、デパートの屋上から下を見おろすと、なんとはなしにふっと飛び降りたくなったりする危険な了簡を起すね。それをひきとめるのがおれたちの役目なんだが、とめるのをふりはらって。アサハカにもパッとやってしまうから――下山事件みたいに、自殺か他殺かなどと、あとで、みんなが余計な苦労をする』
「やくざな神の物語」(柴田錬三郎、昭和32年)

昭和24年7月6日の夜中、常磐線綾瀬駅付近で、当時の国鉄総裁下山定則が轢死体となって発見された。当日は激しい雨が降っていて、総裁の遺体はバラバラに散逸していた。出血が少ないところから死後轢断、つまり他殺説が有力になったが、近所の旅館で休憩していた総裁の目撃者が現れるなど、その後自殺説もでて、真相は迷宮に落ちた。総裁の不可解な死の背景には、当時の人員整理反対を唱える労働組合による国鉄争議があった。自殺説は「総裁が争議に疲弊して」という理由をつけ、他殺説は組合に対して優柔不断な総裁が粛正されたと解釈した。他殺説をとる松本清張はのちに“GHQ陰謀説”を唱えた。半世紀以上を経て真相はいまだ解明されていない。
そのほぼ10日後、国鉄三鷹駅で無人電車が暴走し6人死亡、20余人負傷という、いわゆる“三鷹事件”が起きる。そしてそのひと月後、東北本線松川駅付近で列車が転覆し3人の乗務員が死亡するという“松川事件”が起きた。いずれも国鉄争議が生んだ事件で、国鉄の三大事件といわれた。

柴田錬三郎というと「眠狂四郎」のイメージが強く、時代物を多作したが「図々しい奴」をはじめ現代物も少なくない。「やくざな神の物語」もそのひとつ。
人類の救済を司る天国では、あまりの人間の堕落ぶりに愛想が尽き、その仕事も滞りがちだった。これではいかんと統領である“すにぺ首神”は神々のなかでもとりわけアプレな“またんき”に下界へ降りて人類を救済するように命じる。これが「やくざな神の物語」で、それから4つのいとも奇妙な救済ストーリーがはじまる。
“引用”はその第一話「賭と女」。結核療養所の患者・宗一郎は30歳でいまだ童貞。真面目でカソリック信者。運命で半年後に死ぬことになっていた。“またんき”はせめて死ぬ前にギャンブルと女を味合わせてやろうと考える。療養所には、彼に思いを寄せる子持ち炊事婦がいた。その子の誕生日を一緒に祝ってほしいという炊事婦を振り切って宗一郎は全財産を持って競馬場へと向かう。しかし馬券は紙くずに。ところがそこで来る途中の電車中でひったくりから守ってあげた有閑マダムとバッタリ。マダムは宗一郎のアドバイスで大穴を的中。ふたりは手に手を取ってホテルへ。事が終わったあと、マダムが眠りこけているあいだに、宗一郎は大金を奪ってトンズラ。血を吐きながらタクシーで療養所へ。そして炊事婦の家の前に大金と手紙を置いて何処かへ消えていくのだった。
以上、“またんき”の演出に対し“すにぺ首神”は「お前にしては上出来だ」と。


nice!(1)  コメント(2) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

nice! 1

コメント 2

gutsugutsu-blog

下山事件も松川事件も映画で知りました。
柴田錬三郎って読んだことないのですが、「やくざな神の物語」これすごいおもしろそうですね。またんきにすにぺ首神って(笑)
by gutsugutsu-blog (2006-08-26 09:24) 

MOMO

私も柴錬の現代物ははじめて読んだのですが、意外な感じでしたね。ちょっと毒が強すぎるのもありましたが。「やくざな神―」は似たような外国のシリーズドラマがありましたね。
by MOMO (2006-08-28 20:53) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Silly Thing【帝銀事件】 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。