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It's A Sin To Tell A Lie [story]

♪ 憎い悔しい許せない
  消すに消えない忘れられない
  尽きぬ 尽きぬ 尽きぬ女の 怨み節

  真っ赤なバラにゃトゲがある
  刺したかないが刺さずにゃおかぬ
  燃える 燃える 燃える女の 怨み節
(「怨み節」詞・佐藤純弥、曲・菊池俊輔、歌・梶芽衣子、昭和47年)

梶芽衣子のデビューは昭和40年。まだ本名の太田雅子で、日活の映画、TVで吉永小百合や松原智恵子の流れをくむ青春スターとしてスタートした。しかし、見ていてなにか違和感があった。まず暗く若さがない。そのくせ向こうっ気が強そうで屈折している。しかし、風は梶芽衣子に吹いた。日活の青春路線が行き詰まり、ニューアクションと呼ばれる路線に転換。そこで「野良猫ロック」シリーズでアブナイお姐さんが当たり役となる。さらに、日活がポルノ路線に転換すると、東映へ移籍。もう梶芽衣子のイメージは固まっていた。「怨み節」は移籍第二作「女囚さそり 701号」の主題歌。結局「さそり」シリーズは4作まで作られることになる。作詞の佐藤純也は同シリーズ3作までの監督。
梶芽衣子の歌はあまりにも「怨み節」の印象が強すぎて、他が聞こえてこないが、シングル12枚、アルバム10枚を出している。その中で八代亜紀の「舟唄」をカバーしてるようで、ぜひ聴いてみたい。

まったく、あのクソ親父ときたら。カレシと遊び行って帰ってきたら大事件勃発。
親父が警察に捕まった。なんでも朝の駅で女子高生の頭を殴ったらしい。相手は17歳。わたしと同い年。それを訊かされたときのわたしの第一声はいつもの親父に対する口癖、
「ばかじゃないの?」

殴られた女子高生が騒ぎ、駅員が警察に通報して即逮捕。その女子高生がかなりゴネたらしいのだが、結局慰謝料を払って示談が成立。留置されることもなく、親父は母に連れられて帰ってきた。母は家へつくなり泣きっぱなし。「もう外も歩けない。情けない……」だって。いつも冷静な兄貴は「まあ、痴漢で捕まったんじゃないだけましなんじゃないの。仕事や家庭のことでストレスが溜まっていたんだろう。おまえも迷惑ばかりかけてんじゃないぞ」って、わたしにとばっちり。

で、親父の弁解。
「魔がさしたんだよなぁ」
〈オイオイ、痴漢じゃないだろ?〉
「電車に乗ろうとしてたんだ。ドアが開いたとたん、その娘が勢いよく降りてきてお父さんにぶつかったのさ。それでお父さんすっとんじゃって……。昔はあんなじゃなかったのになぁ。あれぐらいで倒れるようなヤワなからだじゃなかったのに……」
〈いいから、先、続けろ〉
「それで、彼女がそのまま行こうとしたから。『キミ、ちょっと待ちなさい』って呼び止めたんだ。そしたら彼女が振り返って『うっせえんだよ! クソジジイ!』って怒鳴り返してきてね」
〈ありがちだね。それで?〉
「なんだかなあ。あのひと言で訳分からなくなって……。気づいたら彼女が、『殴られた!』って喚いてんだ。そして、傍にいた40歳ぐらいの男がお父さんの腕を掴んで、『おい、自分の娘ほどの子を殴ってどうするんだ』って言ってるんだ。でも、殴ったことまるで覚えてないんだよ。だってさ、おまえのことだって殴ったことないだろ?」
〈そりゃそうだわなぁ……〉
「お父さん、生まれてこの方、殴られたことはあるけど人を殴ったことなんか一度もないんだ。だから……、殴ってないと思うんだけどなあ……」
〈なら、なんで認めちゃうわけ?〉
「警察連れて行かれてさ、優しい刑事さんが言うわけ。『だいじょうぶ大したケガもしてないし、ここは相手に誠意をもって謝罪すれば大事にはならない』って。でも、殴ったつもりはないんです、って言ったら『困ったなあ。そうなると、2週間ほどここに泊まってもらわなくちゃならなくなるよなぁ』って。そりゃないもの」
〈根性ねえぇ……〉

そんなわけで、先日、親父と母はその女子高生の家へ改めて謝罪に行き、額を畳にこすりつけるばかりに謝って、そのうえ示談金を払ってきたらしい。会社には親父から申告したらしいんだけど、起訴されたわけでもないし、即日釈放されてるってことで、どうやら不問になったようだ。はじめは落ち込んでいた親父も、最近ようやく冗談もでるようになった。あたしも、門限破りで11時頃帰ると親父に軽く怒られるんだけど、そんなときは「やべ、殴られるかと思った」なんて言ってやるんだ。親父笑ってるけど顔こわばってる。あれやこれやで、一件落着、また元通りの生活に……って、そううまくはいかないんだな。納得いかない人間がここにひとり。

どうしても彼女の口から本当のことが聞きたい。で、もし親父の言ってることが正解ならば、一発かましてやりたい。だって、パンチの料金はすでに前払いしてあるんだからね。
わたし、高校では陸上部で短距離やってるんだけど、腕力にはやたら自信あり。なにしろ、ベンチプレスで40キロ上げるのは、女子でわたしだけなんだから。

彼女の住所は母親のメモを見てゲット。N学園っていう女子校に通ってることが判明。N学園には中学時代の友だちがいるので、さっそく情報収集。で、分かったのは相当なワルってこと。噂では男とつるんで恐喝まがいのエンコーやってるって。それでも、学校内では面倒見がいいらしく、リーダー格で人気者らしい。まあ、そんな細かいことはどうでもいいんだ。早い話、彼女がワルだってわかればそれで十分。こっちの闘志が湧いてくるから。

その日、わたしは学校を休んで、友だちから借りた派手な洋服を着て、メイクもバッチリ決めて、彼女の自宅のあるT駅で待っていた。
「あの、桜庭さんですよね?」
彼女は、見ず知らずの女から話しかけられて怪訝な顔をしていた。わたしは、ぜひ相談したいことがあるからと言って、近くの公園へ誘った。彼女は「用事があるから、できるだけ短めにね」と多少迷惑そうだったが、公園へ着いてきた。

ベンチに座ると、わたしは電車の中で痴漢にあって困っていること、それを友だちに話したら、「N高の桜庭さんに相談してみたら」と言われたことを話した。彼女が「その友だちって誰よ」って訊いてきたので、それをはぐらかすのに苦労した。
わたしは、相手の住所をつきとめたので、警察に訴えようと思っているのだけどどうだろうと相談した。すると彼女は、
「警察へ行く前に、あたしの友だちに話つけてもらってやるよ」
だって。わたしは内心「よしよし」と思いながら、
「話っていいますと?」
「慰謝料もらうんだよ。あんただって、さんざんやられたんだから、そのぐらいもらわなくちゃ合わないだろ?」
「えっ!? そんなことできるんですか?」
わたしが無知を装うと、ついに彼女は体験談を話し始めた。
「駅でムカツクオヤジがいてさ、……」
やっぱり、親父は殴るどころか、彼女のからだに指一本触れてはいなかったのだ。
「やっぱりわたしにはそんなことできません」
「なんだよ、あんたから相談してきたんじゃない」
「だって、それって犯罪じゃないですか」
「うっせえんだよ。なら、はじめから言ってくんじゃねえよ」
その悪態に反応するかのように、わたしの右パンチが彼女の顔面を直撃した。ベンチから転げ落ちた彼女は、相当痛かったらしく、しばらくは顔を押さえたまま身動きもしなかった。ちょっと心配したけど、そのうち「なにすんのよぉ」小さい声でつぶやいた。

するべきことをし終えたわたしは、彼女を置き去りにしていった。公園を出るとき振り返ると、ベンチで顔にハンカチをあてて悄然としている彼女が見えた。わたしはなんだか、今晩、親父と顔を合わせたら、理由もなく「ばかじゃないの?」と言ってやりたい気持になっていた。


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gutsugutsu-blog

待ってました!梶芽衣子!「怨み節」同様、さそりのイメージが強過ぎて、後々大変だったみたいですが、アコーハットにマキシという出立ちがなんとなくまむしの兄弟っぽくて好きでした。(どこがぁ)だんだんシリーズを追うごとにしゃべらなくなっていくのも結構笑って見てましたが、梶芽衣子はやはりその目に魅力があり、セリフがなくてもその目の演技だけで十分にこのシリーズは成立していましたね。それにこの頃って篠原とおる原作ものって結構ありましたね。しかし今回のstoryのおねえちゃん、なかなかええヤツです。僕好きです。
by gutsugutsu-blog (2006-08-09 01:01) 

MOMO

たしかにさそりの梶芽衣子は笑わず喋らずというイメージでした。詳しいことはしりませんが、東映の極妻(見たことがありません)などに出てもおかしくない(もしかして出てましたか?)と思いますが……。損な女優さんですね。
by MOMO (2006-08-09 23:18) 

MOMO

lionさん、はじめまして。読んでいただきありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
by MOMO (2006-08-09 23:20) 

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