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【周旋屋】 [obsolete]

『釜ヶ崎周辺には、怪し気な周旋屋が沢山ある。香代はアパート探しを口実に、そのうちの一軒と親しくなり、主人の岡本に若干の金を与え、登記所を調べさせた。驚いたことに、抵当は綺麗に取れている。家の名義人は香代美沙緒であった。香代はこの家で千五百万円ほど借りていたのである。美沙緒は千五百万円もの大金をどうしてつくったのだろうか。』
「背信の炎」(黒岩重吾、昭和39年)

「周旋屋」Syusenyaとは取引つまり“買いたい人”“売りたい人”の仲介に入って話をまとめ、手数料を取る商売のこと。現代風にいえば、エージェントとかブローカーというところ。“周旋”は「とりもつ、世話をする」という意味で、“斡旋”と同義。
“引用”にあるように、不動産の仲介は当時から最もポピュラーな周旋業だった。そのほか結婚紹介所とか、旅行代理店、広告代理店と周旋業花盛りの現代。楽天やライブドアあるいはアマゾンなどは時代の最先端を行く「周旋屋」だろう。
“引用”では「周旋屋」に“怪し気な”という修飾語がついているが、今も昔もそうしたイメージがつきまとう。

自らの会社を破産させた香代達男は失踪し、断崖絶壁に立ち尽くす。しかし身を投げるのを思いとどまり、偽装自殺をして街へ舞い戻る。それは10歳も離れた妻に不貞の匂いをかぎ、会社の倒産に見えざる力を感じたからだった。香代は“引用”にあるような調査をしたのち、確信をもって自らの家の天井裏へ身を忍ばせる。そこで、妻と部下との愛欲シーンを目撃し、さらにふたりの会話から会社の倒産が仕組まれたものであることを知る。香代は部下を殺し、妻を縛り目隠しをして犯す。“強盗”に犯されている妻は、かつて自分との行為では見せなかったほど身もだえる。そのことの虚しさに香代は妻を殺すことをあきらめ、あの断崖へと戻っていくのだった。
天井裏から情事を目撃したり、妻を目隠しして犯したりと、猟奇的要素を多分に含んだ復讐劇。
昭和35年「背徳のメス」で直木賞を受賞した黒岩重吾は、30年代後半から40年代にかけて風俗小説で多くの読者を獲得した。黒岩重吾の小説にはどこか翳りがあるが、それは過酷な戦争体験、そして戦後の浮沈の激しい生活(「背徳のメス」の舞台となった釜ヶ崎での生活)に根ざしているといわれる。50年代になると、突き抜けたように「落日の王子・蘇我入鹿」など古代に材をとった小説を多作するようになる。
平成15年肝不全で死亡。享年79歳。


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MOMO

そっくりモグラさん、ありがとう。

猶予期間中めいっぱい書き込み期待してます。

カムバックもね。
by MOMO (2006-08-08 22:17) 

gutsugutsu-blog

そんなん言われたら、泣きそうです(笑)
猶予期間中はせめて、めいっぱいnice押させてください。
by gutsugutsu-blog (2006-08-09 00:42) 

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