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【ゴー・ストップ】 [obsolete]

『……若くて美男で、キャディラックを持ち、アメリカの大学を出、流行の白っぽいカシミアの上着を着、どこといって非の打ちどころのない青年と、たびたびのべてきた非の打ちどころのない優雅な美女とのドライヴは、もちろんゴー・ストップで止まる毎に、電車の停留所に立っている女たちの注目をいっせいに浴びたが、……』
(「女神」三島由紀夫著・昭和30年)

信号機のことで、英語ならSignalだろうが、「ゴー・ストップ」は和製英語。直訳すれば「行く、止まる」で意味はそのとおりだ。
そもそも信号機はクルマの発達には欠かせないもので、その嚆矢は大正8年、上野広小路に設置したものといわれる。もっともその信号機は「トマレ」「ススメ」と書かれた木製の板を回転させて使用したものとか。電気式の赤、黄、青(緑)になったのは昭和5年、日比谷交差点に設置されたものだそうだ。

そんなわけで、「ゴー・ストップ」という言葉は戦前にはよく使われたようで、貴司山治というプロレタリア作家が同名タイトルの小説を書いている。戦後も昭和30年代くらいまでは使う人がいたようだが、なぜか自然消滅してしまった。こういう場合は大概は代替の言葉が出てきたことによるものなのだが、現在使われているのは「信号機」あるいは「信号」である。シグナルとも言わない。それならば、ゴー・ストップが継続されてきてもよさそうなものだが。不思議だ。
他では、源氏鶏太の小説の中にもときどきこの「ゴー・ストップ」が出てくる。

「女神」は、自分の妻に、それが叶わなくなると娘に対して、文字通り彫刻のヴィーナスのような完璧な美を要求する男の話である。最後に娘の恋を引き裂き「やっと二人きりになれたね」という父親の幼児性には、危険な愛情すら感じる。三島由紀夫にとっては、そういう人間の関係、肉親の関係こそ芸術なのだろう。
上記の引用に出てくる「電車の停留所に……」の電車とは、もちろん路面電車、都電のことである。


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