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Dance with Me [story]

♪ 小箱の中にはキャラコと錦(にしき) 
  肩にめりこみそうだ労っておくれ
  夕陽が沈んだら逢いにおいでよ
  麦の穂波たつ畑の中へ

テレビから懐かしい音楽が流れてきました。CMです。音も映像もすぐに消えてしまったので、何のコマーシャルだか覚えていませんが、漏れ流れていた曲はまごうことなく「コロブチカ」(行商人)。このロシア民謡はてっきりインストゥルメンタルだと思っていました。ロシア語の原詩はもちろん、日本語の歌詞があると知ったのはずっとあとのこと。

忘れもしません。「コロブチカ」は高校三年の文化祭の夜、片想いの彼女と踊ったフォークダンスの曲です。中学、高校とスポーツに明け暮れて硬派を気取っていたわたしには、フォークダンスなどというものは軟弱そのもの。100歩譲っても、それは見るものであってもやるものではないはずでした。

文化祭の後夜祭、辺りが暗くなっても帰ろうとしなかった。高校生最後の文化祭。去りがたい何かがあったのでしょう。薄闇の中、照明に映える校庭では大きな輪ができてフォークダンスが始まっていました。私の親友のKが彼女ともどもやってきて「踊ろう」と私を誘います。私は辞退します。私の内心を知っているKはさらに強引に誘います。私はしぶしぶ彼らに着いていきました。Kの彼女の親友が、わたしの片想いのN子だったからです。
「マイム・マイム」、「オクラホマ・ミクサー」、そして「コロブチカ」。慣れない私は完全にあがっていました。相手の顔を見る余裕などなく、リズミカルに動く相手の黒い靴と、踝のところで折られた白いソックスばかりを見ていました。見知らぬ下級生の女の子から「痛い」と非難されました。あまりにあがっていて、彼女の手を強く握りすぎていたようです。
そしてパートナーは巡り巡ってN子に。胸はドキドキです。もちろん視線を合わすことなどできません。手をつなぐとわたしの心臓の鼓動がそのまま伝わりそうで……。柔らかな手でした。彼女とのペアの時間は30秒足らず。やがてN子は前の男子生徒へ移動。と思った瞬間、後ろにいたKとKの彼女が、私とN子の手を取ってダンスの輪から引き離しました。あとは4人だけのフォークダンスです。恥ずかしいやら嬉しいやら……。高鳴る胸を抑えながら周囲を見ると、4人だけのフォークダンスがあちこちで始まっていました。どのくらい踊っていたのか。いつKたちと別れたのか、N子にどんな別れの挨拶をしたのか、そしてどうやって家まで帰ったのかまるで覚えていません。
結局、翌年の春、N子には想いを打ち明けることもなく高校を卒業しました。

しかし、いま思い出しても、あのフォークダンスの夜は我がハイスクール・ライフの最も輝ける日でした。ハイライトでした。それにつけても朋友Kの、あの時の気の利いた「演出」にはどれほど感謝したことか。
いまでも「コロブチカ」の軽快なアコーディオンが聞こえると、あの夜の4人だけのフォークダンスが思い出されるのです。


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