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再会③ [story]


次ぎに玲子と会ったのは、それから3年後の夏。巷には「軽薄短小」という言葉がもてはやされていた。休日で、わたしは駅前のロータリーでバスを待っていた。その時も声をかけてきたのは彼女からだった。こざっぱりしたスポーツシャツにスラックス姿の彼女だったが、化粧っ気のない顔は年齢よりはるかに老けて見えた。まだ強い光をたたえている瞳や、高い鼻がかつての美しさを物語っていて、よけいに無惨に思えた。
玲子は振り返って「○○さん」と男の名を呼んだ。浅黒く精悍な顔の男が戦闘態勢に入った様子でわたしに近づいてきた。彼女がわたしに絡まれ助けを求めたと勘違いしたのだろう。彼女が「私の憧れの君、○○くん」とおどけてわたしを男に紹介した。わたしは軽く会釈した。男は怒った形相のまま一言も発せず、背中を向けてすっ飛んで行ってしまった。「私の亭主」と玲子は笑顔で言った。「去年結婚して、××に住んでるの」と隣町の名前を告げた。その口調からいまの彼女の幸せな生活ぶりが伝わってきた。
ただ、彼女の夫はわたしのことを知らないが、私は知っていた。中学の3年先輩で、当時から不良で、いまだにいい噂を聞かない男だった。わたしは玲子がクラブ歌手を辞めたような気がして「もう歌ってないの?」と訊ねた。「うん」と彼女は微笑んだ。「もったいないよね」と言うと「もったいないよね」と他人事のように同じセリフを返して笑った。

結局、玲子と会ったのは、それが最後となった。
あれから四半世紀あまりが過ぎ、わたしはようやく「再会」という歌の良さを理解するようになった。しかし、わたしにとっての「再会」は松尾和子でも八代亜紀でもなく、まだ17歳だった玲子が口ずさんでみせた ♪ 逢えなくなって 初めて知った…… というあの歌声が原点、つまりオリジナルなのである。私と玲子の「再会ストーリー」は、これで完結したのだろうか。それともいつかまた続編がはじまるのだろうか。


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