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その名は●マギー① [the name]

G・ルイス.jpg
I wandered today to the hill, Maggie
To watch the scene below
The creek and the rusty old mill, Maggie
Where we sat in the long, long ago.
The green grove is gone from the hill, Maggie
Where first the daisies sprung
The old rusty mill is still, Maggie
Since you and I were young.
([WHEN YOU AND I WERE YOUNG, MAGGIE]lyrics by GEORGE JOHNSON, music by JAMES BUTTERFIELD, 1866)

音楽を聴いてノスタルジーを覚えることはよくある。どんなジャンルであれ。
必ずしも音楽はノスタルジーを感じるためだけの“遊興”とは限らないが、そうした大きな“魔力”を持つことも否定できない。

歳を重ねれば重ねるほどそうした魔力に囚われてしまいがちになるのは仕方のないこと。とはいえノスタルジーというやつは経験者の特権ではない。若い人だって大いに感じているはず。
たとえば進学や就職で地元を離れ都会へ出てきた青年。ある日異郷の街で中学時代の同窓生とバッタリご対面。「よお、しばらく」でしばしの立ち話。そんなときお互いの思考の中には中学時代の日々が巡り、「懐かしいなぁ」が連発されたりして。ほんの数年前のことなんだけどね。それでも気分はノスタルジー。

この場合ノスタルジーへ誘う“媒体”は旧友ということになる。そうした媒体はいくつもある、よくあるのは既知感を伴う「風景」や「状況」など。そして「音楽」またとてもインパクトのある媒体のひとつになる。

わたしが記憶している中でいちばん古いノスタルジー感覚というのは小学校の高学年の頃。
学校への通学路の周囲はほとんど田畑で、下校時よくひとりで田んぼの畦を通ることがあった。天気の良い日など脳内プレイヤーの伴奏でよく口ずさんでいたのが「故郷の空」。♪夕空はれて 秋風吹き というスコットランド民謡。
なぜかその歌と周囲の景色や風がマッチして心地よい不思議な空間に身を置いているような感覚に浸ることができた。
それがノスタルジー感覚だと理解できたのはもう少し大きくなってのことなのだが。

10やそこらの子供が何にノスタルジーを感じたのか。はたまたどこの町あるいは村に郷愁を覚えたのか。
輪廻転生を信じるわけではないが、DNAに付着している「未生の記憶」というのには根拠のない肯定をしてしまう。それを詮索探求していく気持ちもないが、あの時、「故郷の空」が媒体となって未生の世界を垣間見せられたような気がするのだ。

ほかにもたとえば「赤とんぼ」とか「ふるさと」あるいは「冬景色」などの唱歌にノスタルジーを感じる人は少なくない。それは多分に歌詞に触発されるということもあるが、そればかりとはいえない。メロディーもまたそうした“力”をもっている。

純粋にインストつまりヴォーカルなしの演奏だけでノスタルジーを感じたというのは、二十歳をすぎた頃。何もわからないままジャズを貪っていたとき聞こえてきたのが「マギー若き日の歌を」WHEN YOU AND I WERE YOUNG, MAGGIE 。キッド・トーマスKID TOHMAS やジョージ・ルイスGEORGE LEWIS らのデキシーランドでだった。
賑やかなブラスに乗って流れてくる旋律がなんとも懐かしい響きだった。はじめて(多分)なのにどこかで聞いたことのあるようなメロディー。

そのときはこの歌に歌詞があることや、その作られた背景はもちろん知らなかった。

この歌「マギー」(と省略することもある)は、アメリカの民謡とクレジットされていることもあるが実際には作者ははっきりしている。
まずカナダの教師であり詩人だったジョージ・ジョンソンGEORGE WASHINGTON JOHNSON が詩を書いた。

ジョージにはマギーというフィアンセがいて、二人は1864年に結婚した。しかし、その翌年病弱だったマギーは死んでしまう。ジョージはマギーのことが忘れられず二人の思い出を詩に綴った。そしてマギーが亡くなった翌年、友人のアメリカ人作曲家、ジェームズ・バターフィールドJAMES AUSTIN BATTERFIELD によって曲がつけられ、出版されることになったのである。

その後ジャズやカントリー、あるいはポップスに編曲され、アメリカではよく知られた歌なのである。その懐かしい旋律は作曲したジェームズがイングランド出身ということと無関係ではない。
1950年代にはビング・クロスビー親子BING & GARY CROSBYでヒットしている。

実際のマギーの本名はマーガレット・クラークMARGARET CLARK 。
マーガレットといえばジャズというかポップスというかとにかくヴォーカリスト、マーガレット・ホワイティングMARGARET WHITHING がいる。
「煙が目にしみる」SMOKE GET IN YOUR EYES、「ザ・ソング・イズ・ユー」THE SONG IS YOU 、「今宵の君は」THE WAY YOU LOOK TONIGHT などジェローム・カーンJEROM KERN の作品をうたったアルバムやメル・トーメMEL TORMEとのデュエット盤がある。「ヴァーモントの月」MOONLIGHT IN VERMONT もいい。

歌手ではないが1940年代、アメリカ映画の名子役にマーガレット・オブライエンがいた。「若草物語」や「秘密の花園」に出ていた。昭和27年に来日し、「二人の瞳」という映画で美空ひばりと共演して話題になった。
そういえばイギリスの元首相で“鉄の女”といわれたサッチャーも名前はマーガレットだった。

歌ではボブ・ディランBOB DYLAN。
よく知られているのが「マギーズ・ファーム」MAGGIE'S FARM 。恋人マギーの農場ではたらくことになった男の歌。彼女の兄弟や両親に徹底的にこき使われて、「もういやだ!」と脱走直前の心境をうたっている。

また、自分から離れていった酒飲み女のことをうたった「リトル・マギー」LITTLE MAGGIE もある。ブルー・グラスにも同名異曲があった。
さらには「おれの心を奪ったお前と一夜をともにしたい」とうたう「ペギー・デイ」PEGGY DAY もある。
実はのちにふれるように、このPEGGY もMARGARET の変形なのだ。

さらにさらにディランはよほどマギーがお気に入りなのか、かの有名なアルバム[BRINGING IT ALL BACK HOME]の冒頭を飾る「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」SUBTARRENIAN HOMESICK BLUES にも「マギーが足早にやってきた」Maggie comes fleet foot と出てくる。もしかして昔好きだった女の子の名前?

そのほか積極的な女の子にふりまわされながらも離れられないでいる高校生をうたったロッド・スチュアートROD STEWART の「マギー・メイ」MAGGIE MAY も有名。

またジャニス・ジョプリンJANNIS JOPLIN のヒット曲に「ミー・アンド・ボビー・マギー」ME AND BOBBY McGEE があるがこの「マギー」は苗字で、名はボビーというから男性のこと。
クリス・クリストファーソンKRIS KRISTOFFRSON がつくった曲で、元はカントリー・ソング。ジャニスだってもとはもとはカントリーから出発しているのだ。

ところでマーガレットの愛称や変形にはマギーのほかメグMEG、マーゴMARGO、リタRITA、ペギーPEGGY、ペグPEG がある。そういう名の女性シンガーは何人も思いつくはず。

また童話「ヘンゼルとグレーテル」グレーテルGRETELもマーガレットのドイツ語マルグレーテMARGARETA の愛称だとか。さらにさらにあの往年の大女優グレタ・ガルボGRETA GARBO のグレタもマルグレーテの変形だそうで、こうなるともう何が何だかわからない。マギーらわしい。……座布団もってっていいよ。


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