その名は●ジェームズ [the name]
Jesse James was a boy who killed many a man.
He robbed the Danville train.
But the dirty little coward who shot Mister Howard has laid Jesse in his grave.
Poor Jesse had a wife to mourn for his life,
Three children they were brave.
But the dirty little coward who shot Mister Howard has laid Jesse in his grave.
([JESSE JAMES] AMERICAN FOLK SONG)
欧米の名は名前が先にきて姓が後にくる、これ常識だが、なかには名前になることもあれば姓になることも、というものがある。
たとえばヘンリーHENRY。作曲・指揮のヘンリー・マンシーニHENRY MANCINI、俳優のヘンリー・フォンダHENRY FONDAなど名前が一般的だが、歌にもなった伝説の怪力男はジョン・ヘンリーJOHN HENRY。
チャールズCHARLES もそう。
チャールズ・チャップリンCHARLES CHAPLIN、チャールズ・ミンガスCHARLES MINGUSもいれば、レイ・チャールズRAY CHARLESもいる。
ほかにも、ダグラスDOUGLAS、アーノルドARNOLD、ケリーKELLY、レイノルドREYNOLD、エリスELLIS、スチュアートSTEWARTなど姓名“両刀づかい”はけっこう多い。
ジェームズJAMES もそんな名前。
ジェームズの由来は旧約聖書に書かれているユダヤ民族の族長ヤコブJACOB が転訛したものだそうで、スペルはそのままにジェイコブという呼び方も残っている。
スコットランドやイギリスでは国王も何人か出ているという、由緒ある名前だとか。
まず名前でいうと、最もポピュラーなのは夭折したスクリーンスター、ジェームズ・ディーンJAMES DEANだろう。残した作品は数少ないが、「エデンの東」「理由なき反抗」のナイーブな青年はいまだに目に浮かぶ。
音楽では、ジェームズ・テイラーJAMES TAYLOR(思い出のキャロライナ CAROLINA IN MY MINDなど)と、つい最近亡くなったR&Bのジェームズ・ブラウンJAMES BROWN(アイ・ゴット・ユーI GOT YOU(I FEEL GOOD)など)が双璧。
またジェームズ・ディーンがジミーと呼ばれたように、ジェームズの愛称はジミーJIMMY、あるいはジムJIM、ジャミーJAMMYで、アメリカの元大統領ジミー・カーターJIMMY CARTER がいる。カントリーではミュール・スキナー・ブルースMULE SKINNER BLUESのジミー・ロジャーズJIMMY RODGERS のほか、ジム・リーヴスJIM REEVES、ブルーグラスのジム&ジェシーJIM & JESSE なども。
また、ジャズではギターのジム・ホールJIM HALL、ドラムスのジミー・コブJIMMY COB 、ピアノにジミー・ジョーンズJIMMY JONES など。
そういえば日本にも、昭和30年代頃のジャズシンガー、ジェームス繁田がいたし、シンガーから脚本家に転向したジェームス三木もいた。
つい5、6年前には「負けるな、もんじゃ」という歌を出した小野ジェームスとナンジャ・モンジャというバンド? があったがその後は。
姓のほうだって大物がいる。
懐かしきビッグ・バンドのバンマス兼トランペッターのハリー・ジェームズHARRY JAMESが。ほかにはキーボードのボブ・ジェームズBOB JAMES。
またブルースマンではボトルネックのエルモア・ジェームズELMORE JAMES(ダスト・マイ・ブルームDUST MY BROOMなど)。カントリーにはソニー・ジェームズSONNY JAMES(ヤング・ラヴYOUNG LOVEなど)がいる。
また70年代ポップスの「ハンキー・パンキーHANKY PANKY 」はトミー・ジェームズとションデルズTOMMY JAMES & THE SHONDELLS。
最後に“ジェームズの歌”。
アメリカで最も知られているのが、上に載せた「ジェシー・ジェームズ」JESSE JAMESだろう。
ジェシーは実在の人物で、19世紀後半の銀行&列車強盗犯。
つい最近、日本でも映画が公開されて、その存在を知る人も増えたのでは。
ジェシーはいわゆるヒーロー、つまり英雄伝説として歌に残されている。その伝説によれば義賊ということになっている。日本でいえばねずみ小僧みたいなものか。
持てる者より奪って貧しい者に分け与えるというわけだ。ただ、ねずみ小僧は人殺しはしていないが、ジェシーは歌の歌詞にもあるように多くの人を殺したことになっている。それでも民間英雄たりうるのは日本とアメリカの国民性というより「銃社会」か否かの違いかも。
映画でどう描かれているかは見てないのでわからないが、伝説によると、南北戦争時代、ゲリラ(民間軍事組織?)として北軍と戦っていたが、南軍が破れたあとアウトローに変身したとか。
たしかに、銀行から差し押さえをくった農家を助けた話も残っている。このへんは民衆の弱き者への同情心と、強き者への反抗心をくすぐるエピソードで、映画「俺たちに明日はない」のボニー&クライドにもダブる。
結局、ジェシーは仲間のボブ・フォードに撃ち殺されるのだが、歌でボブは卑劣な臆病者とあからさまな仇役になっている。
「ジェシー・ジェームズ」は伝承歌だけに、様々なシンガーに歌われている。
カントリー・ジェントルメンCOUNTRY GENTLEMEN 、オズボーン・ブラザーズOSBORNE BROTHERS、ジャック・エリオットJACK ELLIOTT、ピート・シーガーPETE SEAGERなど、ロッカーではブルース・スプリングスティーンBRUCE SPRINGSTEENも。
日本でもレパートリーにしているカントリー・シンガーがいると思うのだが、まだ聴いたことはない。ただ、よく似ているのが、あのドンキー・カルテットが歌った「宮本武蔵」。前半が以前とりあげた「彼女が山からやって来る」SHE'LL BE COMIN' ROUND THE MAOUNTAIN WHEN SHE COME で後半がこの「ジェシー・ジェームズ」。
作詞・作曲はジャイアント吉田。
この「宮本武蔵」レコード20万枚を売り上げたというのだが、それほどヒットした印象はない。なんでも御本家の吉川英治の遺族からクレームがついたとかで、あまり大ぴらにしなかったのかも。
ほかではブルース、あるいはジャズで演奏される「セント・ジェームズ病院」SAINT JAMES INFIRMARY。憂いに満ちたテディ・ウィルソンTEDDY WILSON のピアノが最高。YOU TUBE にはエリック・クラプトンERIC CLAPTONがあった。
日本では北村英二や薗田憲一とデキシー・キングスで聞けるし、ヴォーカルでは浅川マキが歌っている。
フォークソングにもピート・シーガーPEET SEEGERらが歌う「セント・ジェームズ病院」ST. JAMES HOSPITAL があるが、タイトルを見ればわかるとおり別の曲。
そのフォークではトピカルソングでウディ・ガスリーWOODY GUTHRIEやウィヴァーズTHE WEVERS、ヒスコ・ヒューストンCISCO HOUSTONが歌う「ルーベン・ジェイムズ号の沈没」THE SINKING OF THE REUBEN JAMESもある。
映画音楽には007シリーズの「殺しの番号」で使われた「ジェームズ・ボンドのテーマ」JAMES BOND THEMEが。
そのほか、「ジミー」JIMMY の歌もそこそこある。
それにしても、終わりに来ての疑問。ジェームズがはたまたジェームスか。
ジェームズ・ブラウンはジェームス・ブラウンではないのか。ジェームズ・ディーンはジェームス・ディーンではないのか。浅川マキが歌うのは「セント・ジェームス病院」ではないのか。
まあ、日本ではブルーズもブルースだし、日本用呼び名ということでいいのかな。
コメント 0