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その名は●さちこ [the name]

 

♪ 愛は愛とて 何になる
  男一郎 まこととて
  幸子の幸は どこにある
  男一郎 ままよとて
  昭和余年は 春も宵
  桜吹雪けば 蝶も舞う
(「赤色エレジー」曲:八洲秀章、詞・歌:あがた森魚、昭和47年)

某生命保険会社のリサーチによると、昨年(2006年)生まれた子供のうち、男の子の名前でいちばん多かったのが『陸』(りく)。これは前の年の14位から大躍進。ちなみに前年1位の『大翔』(ひろと他)はいまだ人気で昨年も2位。

いっぽう女の子は2年連続で『陽菜』(ひな、はるな他)。

なまえにも流行があるらしい。インターネットを利用している人は20代、30代が多いのではないだろうか。われわれ50代はもちろん、そういう彼らもおそらく、『陸』、『陽菜』にはおどろいているのではないだろうか。子供のある方は別だが。

さらに驚くことには、男の子の「男、夫、雄」(お)、女の子の「子」(こ)がベスト10に一人もいないこと。男の「お」はベスト10どころか、ベスト100にもゼロ。
女の子の「こ」はやっと17位に『菜々子』が顔を出す。ベスト100でもその『菜々子』のみ。

そういう風潮とはうすうす感じていたが、まさか、ここまでとは……。

さらにその生命保険会社のデータをみていくと、太平洋戦争以後、つまり昭和20年から31年までの12年間、女の子の名前ベスト10は、すべて「子」だった。
ちなみに20年の1位は『和子』、31年は『恵子』。

昭和32年にはじめて「子」以外の名前が9位に入ってきた。それが『明美』。
そして昭和40年、その『明美』がベスト1になる。戦後、はじめて「子」が王座から転落した年だ。その年、2位も『真由美』で、「子」に凋落の兆しが見え始める。

ところが、46年に『陽子』が人気となり、以後10年あまり、その陽子、『久美子』『智子』などが支持され、「子」の復活かと思われた。

しかし、昭和58年『愛』が1位になってから、現在までの25年あまり、「子」が1位になることは一度もなかった。それどころか、その3年後の61年、「子」はベスト10から姿を消してしまった。

「赤色エレジー」は昭和45年から46年にかけて、月刊漫画誌「ガロ」に連載された林静一の漫画。それをあがた森魚が歌にした。
そのヒロインは歌詞にもあるとおり「幸子(さちこ)」

再度、先ほどの年度別の名前に戻るが、昭和20年、幸子はベスト2だった。さらに遡れば、大正末期には2年連続でベスト1。以後、ずっと上位をキープし続けるという、戦前戦後を通じて人気の高い名前だった。

その幸子がベスト10から消えるのが昭42年。まさに日本の経済発展とは逆行するように少なくなっていったのである。

「赤色エレジー」、漫画の舞台は昭和40年代だが、歌の方は、その“現代”と明治・大正時代がフラッシュバックしているような不思議な世界を醸し出している。それには、『幸子』はうってつけだった。

当初、作曲もあがた森魚ということだったが、“盗作問題”が出て、メロディーは「あざみの歌」と同じだということになり、八洲秀章になったいきさつがある。
たしかにはじめの16小節はソックリなので仕方がないのだが、本人、もちろん意図的ではなく、たまたまそうなってしまったので気の毒な面も。

その頃のあがた森魚は、ステージではジーパンに赤い鼻緒の下駄というパフォーマンス。巷に静かな下駄ブームが起きたことも付け加えておきたい。

「さちこ」というタイトルの歌はいくつかあるが、ヒットした曲は2つある。
ひとつはニック・ニューサー「サチコ」。もうひとつはばんばひろふみ「SACHIKO」。ただ『幸子』かどうかはわからない。小林旭にも「幸子」があるが、こちらは「純子」ほど流行らなかった。

また童謡「さっちゃん」の本名は「さちこ」。幸子の愛称で「サッチン」とも。

ところで幸子といって思い浮かぶ人間は。
歌手なら毎年紅白歌合戦で派手なパフォーマンスを披露する小林幸子。同じ演歌歌手で夭折した村上幸子もいた。幸子と書いて“ゆきこ”ならば和田弘とマヒナ・スターズ「北上夜曲」を紅一点で歌った多摩幸子(ゆきこ)がいる。たしか、「星の流れに」菊池章子の妹だったはず。

役者なら内田吐夢監督の「飢餓海峡」今村昌平監督の「にっぽん昆虫記」で存在感を示した日本のジュリエッタ・マッシーナ(言い過ぎか。だいたい“日本の”などという言い方が古い)、左幸子。あるいは、「男はつらいよ」第一作でマドンナとなった光本幸子黒澤明監督の「八月のラプソディー」にも出ていた名バイプレイヤー村瀬幸子。お亡くなりになったが、たしか彼女の場合は「こうこ」と読んだはず。

「幸子」をはじめ、まったく人気のなくなってしまった「子」だが、今でも女優には結構いる。
唯一ベスト100に入っている松島菜々子をはじめ、米倉涼子、竹内結子、松たか子、山口智子、広末涼子、矢田亜希子、深田恭子、国仲涼子……と。
マイノリティだが煌めく存在。世の若いパパ、ママご一考を。


  


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