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森林④森の小径 [a landscape]

 

♪ ほろほろ こぼれる 白い花を
  うけて 泣いていた 愛らしいあなたよ

  覚えているかい 森の小径
  僕もかなしくて 青い空あおいだ

  何にも言わずに いつか寄せた
  小さな肩だった 白い花ゆめかよ
(「森の小径」詞:佐伯孝夫、曲:灰田晴彦、歌:灰田勝彦、昭和17年)

♪ 森へ行きましょう 娘さん 「森へ行きましょう」(ポーランド民謡)

といっても変質者や誘拐犯の歌ではない。
一緒に森へ行って、木を切り草を刈り、昼になったら弁当を食べて、そのあと歌でも歌いましょう、というまことに健全な男女交際をうたった歌。

この歌が日本でうたわれはじめたのは、戦後歌声運動が盛んになった昭和20年代後半あたりから。まさに古い上着を脱ぎ捨てて、民主主義、男女同権を謳歌しようという気運が出始めた頃、それを実感させてくれる歌だった。

わたしは、小学校で習った記憶がある。よく覚えている。この歌が好きな音楽の先生がいて、よくうたわされた。同級生の男子生徒で[teacher's pet]がいて、よくこの歌でアドリブの合いの手を入れさせられていた。そのボーイ・ソプラノがとても心地よかった。それはさておき。

灰田勝彦「森の小径」は昭和15年というから、来るべき日米戦争へ向けて、「ぜいたくは敵だ」というスローガンが掲げられ、大政翼賛会ができた年に生まれた。大政翼賛会といえば、なにやら近頃そんな風が吹いていたっけ。それはともかく(そんなのばかり)。

火薬のにおいがするなかで、こんな叙情的な流行歌が世に出て、支持された。

「森へ行きましょう」よりさらに昔の日本の情景がうたわれている。

彼は心にとめた人とともに花盛りの森の中を歩く。散歩だろうか。いや、気軽にそんな誘いなどいえなかった時代、おそらく彼の家へおつかいできた彼女を駅まで送っていくのだろう。

彼女は花びらの舞う春に、なぜ泣くのだろう。きっともう嫁ぐことが決まっていたのだろう。好きな人を隣に感じながら、やがてすぐ逢えなくなる日が来る。そんな不条理に涙を落としたのだろう。

彼だってそれは同じだった。でも男だから泣くわけにはいかない。空を見上げて悲しみをのみこむしかなかった。

そのとき彼の腕に彼女の肩が触れた。歩いていてよろけたのではないことは彼にもわかった。なんて小さくて弱々しい感触だったことか……。

それから何年……。
彼はこの森を歩くと、あの人のことを思い出す。あの小さな肩の感触を思い出す。あのときのあの人はまるで白い花のようだった。白い花、それが彼の初恋だった。

妄想はこのへんにして。
とにかく男と女が、お互いにその思いを伝えることのできなかった時代の話。
いや、いまの時代にだってあるのではないかな。自分の思いを告げられずに別れてしまうことが。こんなことを繰り返していくんだろうな、男と女は。

「森の小径」を取り上げるのは二度目。いよいよネタが尽きたか。まあ、それもありますが、好きな歌は何度でも。

作詞、作曲、歌唱は、しばらく前にとりあげた「鈴懸の径」のトリオ。

佐伯孝夫は、昭和30年代を代表する作詞家。
代表作は、
「再会」松尾和子
「有楽町で逢いましょう」フランク永井
「いつでも夢を」橋幸夫、吉永小百合
など。
東京で生まれ、逓信省(のちの郵政省、いまはない)の官吏だった父親の赴任で栃木県・宇都宮で中学時代を過ごす。そのころから文芸にめざめる。
大学は早稲田。そこで詩人でもあり作詞家でもあった教授の西條八十に師事。その影響で卒業後、新聞社に勤めながら流行歌の作詞をてがける。

「森の小径」は佐伯孝夫30代半ばの作品で、軍歌が苦手で、“ビューティフル・ドリーマー”だった彼の才能が短い詞にあらわれている。

佐伯孝夫については、その死後、週刊誌に遺産相続のゴシップ記事が載るほどの“艶福家”として、つとに有名だったが、わたしの“妄想話”が長すぎて、書く暇がなくなってしまった。今後、何度も彼の作詞した歌はとりあげるだろうから、そのときに。

ところで「森の小径」の歌詞の♪白い花 ゆめかよ の“かよ”。
「あれは夢なのか……、夢なんだよなぁ……」という感慨が含まれている言葉。
俳優の小沢昭一さんも、ご自身の本の中でその“かよ”が何ともいえない余韻があって好きだと、書いておられました。

しかし、何年か前、自称“関東一のツッコミ芸人”三村マサカズが、ツッコミの伝家の宝刀としてその“かよ”を乱発した。
おかげで美しき日本語(それほどでもないか)はあっという間にボロ雑巾(大げさ)のようになってしまった。
「森の小径」の“かよ”と三村が発する“かよ”では天と地ほどの違いがある。どっちが天かって? それはともかく。

とはいいながら、三村のツッコミに笑ってしまうわたしなのだが。
三村よ、「ちび丸子ちゃん」もいいけど、もう漫才はやらないのかよ。


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