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【赤帽】 [obsolete]


『海堂は、そばを通りかかった赤帽を呼び止めると、いそいで身分証明書を見せた。
「あ……、いま呼んでいたのは―」
「ぼくのことさ……。すまないが、あの二人に注意してほしいんだが……」
「班長さんは?」
「相手が警戒していて、ぼくは近づくことができないんだ」
「だけど、あたしは、駅の外まで追っかけていくわけにはいきませんよ」
「大急ぎで、私服の公安官を頼んでくる。その間だけでいいんだ」
(「0番線」島田一男、昭和37年)

「赤帽」というと、いまや引っ越しや荷物の運送など物流を受け持つ小型トラックのことを思い浮かべる人が多いかも知れない。しかし、ここで言う赤帽はポーターのこと。かつて国鉄(現在のJR)の大きな駅には必ずいた、客の荷物を車内から待合室へやタクシー乗り場へ(その逆もあるが)運ぶ仕事、あるいは運搬する人のこと。目印のため赤い帽子をかぶっていたことから「赤帽」と呼ばれるようになった。
その嚆矢は、明治29年(1896年)というから相当古い。山陽線の主要駅に置かれたようで、当初は“荷運夫”といったそうだ。
近年、エレベーターの普及やキャスター付きの旅行カバンの定着で利用者が減少していった。平成12年には上野駅で、13年には東京駅でそれぞれ「赤帽」が廃止され。現在残っているのは岡山駅だけだそうだ。気になる料金だが、昭和30年代はいくらだったか不明だが(チップ制だった記憶もあるが)、現在は荷物1個につき500円だとか。

島田一男といえば、昭和33年から8年間NHKテレビで放映され、人気を博した「事件記者」のオリジナル・シナリオライターとして知られているが、小説家としてのデビューは昭和22年(雑誌『宝石』への投稿「殺人演出」が入選)と古い。
自らの新聞記者としての経験から「事件記者」のようないわゆる“ブン屋”ものを得意としたが、この「0番線」は鉄道公安官を主人公にしたもの。
「0番線」は、東京駅で“助けて、殺される”とメモされた寝台特急券が拾われるところからはじまる。その落とし主を探す鉄道公安官の海堂は、その先々で2つの殺人事件に遭遇する。そのいずれもが中国服を着た女性だった……。事件の背後には、白金やダイヤモンドなど軍隊の隠匿物資をめぐる欲望が渦巻いていた。
事件の舞台は金沢、富山、黒部、魚津といった北陸路で、鉄道ものだけあって、急行の“能登”“北陸”“立山”“黒部”といった列車がその経路とともに頻繁に出てくる。鉄道マニアにはそれだけでも懐かしい。


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