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再会① [story]

♪ 仲良くふたり 泳いだ海へ     
  今日はひとりで 来たわたし
  再び逢える日 指折り数える
  ああゝ ああゝ 指先に 夕陽が沈む

「再会」(曲・吉田正、詞・佐伯孝夫、歌・松尾和子、昭和35年)
まさに60年安保の渦中に世に出た歌。松尾和子以外でも八代亜紀、天童よしみ、島倉千代子、大月みやこ、石原裕次郎など多くの歌手がカヴァーしている。

この歌を教えてくれたのは幼なじみの玲子だった。小学校時代はクラス一の俊足をわたしと競った韋駄天娘だった。だから私にとって玲子はライバルでしかなかった。彼女の美しさに気づくのはそれから数年後のことだ。
中学へ上がって離ればなれになったわたしと玲子が、歌のタイトルのように再会したのは、別々の高校に通っている時のクラス会でだった。長い髪は幼いころのままだったが、俊敏でスレンダーだった体型はいくらか丸みを帯びて、その眼差しも優しく羞恥を帯びていた。それはいま思えば、身体も心も少女から大人の女に脱皮しつつあったということなのだが、17歳のわたしにはそれを正しく理解することができなかった。わたしは、彼女の変化に少し驚き、少し戸惑った。それでもすぐに玲子とわたしが昔のようにうち解け、言葉を交わすようになれたのは、お互いに、小学生時代の意味のない鬼ゴッコや、口げんかという、あの無邪気な交流を否定したくないという思いがあったからかもしれない。
それからは頻繁に逢うようになった。お互いの家へ行ったり、映画を見に行ったり。当時グループサウンズが全盛で、カラオケなどない時代、わたしの下手なギターを伴奏にふたりでよく歌ったものだった。
「エメラルドの伝説」「長い髪の少女」「モナリザの微笑み」「青空のある限り」……
ある時、歌い疲れてしばしの沈黙の後、「ねえ、こんな歌知ってる?」と彼女が言った。
そして口ずさんだのが「再会」だった。わたしは、ギターのコードを探しながら、その時は〈暗い歌だなあ……〉と思っただけだった。
やがて、そんな彼女となぜか逢わなくなってしまった。その理由は覚えていない。何か諍いがあったのか。いやそんなことはなかったはずだ。なぜなら彼女はわたしに対して一度も怒った顔や、不愉快な顔を見せたことはなかったのだから。多分、それぞれのキャンパスライフが忙しくなったからなのだろう。


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