SSブログ

●歌謡曲が聴こえる①リンゴの唄 [books]

並木路子.jpg 

久々に音楽関連の本を読みました。

昨年11月に出た「歌謡曲が聴こえる」という片岡義男の新書本で、2012年から月刊誌に連載したものの加筆訂正版だとか。

片岡義男は、愛読者ではないけれど、過去に何冊か読んだことはある。
片岡流解釈でビリー・ザ・キッドの半生を描いた「友よ、また逢おう」、長距離トラックの運転手など、いまだアメリカを彷徨っている男たちの短篇集「ロンサム・カウボーイ」、それに自伝的音楽論という印象のエッセー「音楽を聴く」など。

その「音楽を聴く」にも歌謡曲は章をもうけて書かれていましたが、今回の「歌謡曲が聴こえる」は、その歌謡曲限定版だなと思って購入したわけです。

実際に読んでみると、思ったとおり、片岡義男の自伝的歌謡曲論でした。

意外だったのは、彼が予想をうわまわるほど、タイトルどおり歌謡曲を聴いていたということ。それもわたしも好きな昭和20年代から30年代の豊潤な歌の数かずを。
年齢でいえばわたしよりひと回り上なのですが、テリトリーはほぼ重なります。

ただ、「歌謡曲が聴こえる」で書かれているように、彼の歌謡曲への傾注は20歳過ぎ、大学生の頃だというからいささか奥手。
それは、前著「音楽を聴く」を読めばわかるが、彼の守備範囲はジャズでありスタンダードなのだから当然といえば当然。

そのきっかけが、夏休みのフェリーの上でみたこまどり姉妹の「ソーラン渡り鳥」だったというのも興味深い。
若き片岡義男の凄いところは、それから歌謡曲の最新ヒット集のような簡易楽譜のついた歌本とEPレコードを買い始めること。それもバックナンバーを求めて過去へと遡っていくこと。
今風にいえば「ハマってしまった」ということなのでしょう。


最近とみに〝歌謡曲〟を聴きたい気分になっておりますので、片岡義男がこの本でとりあげた歌謡曲のいくつかを、その時代を反映したほかの歌謡曲、あるいは独断のマイフェヴァリット歌謡曲をまじえつつ紹介してみたいと思います。

まずは敗戦直後、昭和21年に発表され大ヒットし、いまだに終戦の解放感を象徴する歌だといわれている。並木路子の「リンゴの唄」

片岡義男はこの歌がたんに明るいだけではなく、どこかもの悲しい旋律に注目し、「リンゴ」が戦争で死んでいった子供たちを象徴している、つまり子供たちを亡くした親たちが解放感のなかにも悲しみをたたえてうたったものというふうに書いています。

サトウハチローの歌詞は70年後の今からみれば特筆すべき言葉がちりばめられているわけではないけれど、当時のひとたちにとっては声を出して歌いたくなるような歌詞であり、また曲であったのでしょう。
見方をかえれば、そんな他愛のない歌すら口ずさめない暗黒の時代が何年も続いていたということ。

この曲の大ヒットの要因のひとつとして考えられるのは、モチーフが「りんご」だったこと。
当時、りんごといえばみかんと並んでの国民的果物。
国民のほとんどが目にし、口にすることのできた果物。それが歌によって擬人化されたことによって、敗戦ニッポンのアイドルと化したのではないでしょうか。
まあ、当時の食糧事情を考えると、誰もがそう簡単に口にできたとは思えませんが、食べられないのならば、せめて歌ででも……、とかね。

それだけ国民的フルーツですので、戦後「りんご」をうたった歌はいくつも作られました。
昭和27年には「リンゴ追分」(美空ひばり)や「リンゴの花は咲いたけど」(コロムビア・ローズ)もありました。

さらに昭和30年代に入ると「リンゴ=故郷」というイメージで、「望郷」という当時の時代的雰囲気を反映して、「りんご」の歌がいくつもつくられ、ヒットしました。
そんな中から2曲を。

まずは20年代後半から30年代にかけて一世を風靡した三橋美智也の歌。
代表曲は31年に大ヒットした♪都へつみだす 真赤なリンゴ という「リンゴ村から」ですが、ここでも何回かとりあげていますので、今回はその翌年に発売された「リンゴ花咲く故郷へ」を。

もう1曲はこれも昭和30年代前半の人気歌手・藤島恒夫が歌った「お月さん今晩は」
こちらは望郷歌とは反対に、都(いまどき言わないよね)へ出て行った恋人に思いを寄せるという歌。当時はこういう歌もたくさんありました(「僕は泣いちっち」とかね)。

演歌でも、流行歌でもなく歌謡曲。まさしく歌謡曲でした。

最後にオマケで、わたしの好きな「りんご」の歌を。
昭和35年の作で、作曲は狛林正一、作詞は西沢爽。
好きな人はわかるかもしれませんが、小林旭のかの名曲「さすらい」のコンビによってつくられた純正歌謡曲です。

なんですかこのグルーヴは。歌謡曲っていいなぁ。


nice!(1)  コメント(3) 
共通テーマ:音楽

nice! 1

コメント 3

MOMO

いつも見ていただいてありがとうございます。

雪村いづみのコンサートへ行かれたのですね。
それにしてもたいしたものですね、天性のシンガーなのでしょうが、
普段の節制、鍛錬も怠らないのだと思います。

その10%でも見習わなくてはなどと思っております。
by MOMO (2015-03-16 18:33) 

toty

この本、面白そうなので購入申し込みしました。
明日にでも着くようなので、楽しみです。読んだらまた、感想などお知らせしたいと思います。
by toty (2015-03-18 00:45) 

MOMO

totyさん、いつもながらのご挨拶ですが、ごぶさたしております。

もはや件の本を読み始めていらっしゃるのでしょうか。

マイブログですが、すぐにでも続編を書き込むつもりでしたが、生来の怠け癖に加えて気力体力の劣化に悩める昨今、PCより遠ざかっておりました。

せめて今月内にと思っておりますので、期待なかばで見守っていただければと思います。
by MOMO (2015-03-25 01:06) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。