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TOKYO●東京ワルツ② [a landscape]

井上ひろし.jpg

♪燃える夜空の ネオンは移り気
 捨てられた 花束が 泣き濡れて
 七色の雨に 歌う ああ 東京ワルツよ
 メトロで帰った君よ 君よさようなら
 ………………
(「東京ワルツ」詞:西沢爽、曲:服部レイモンド、歌:井上ひろし、昭和36年)

前回でふれたように、西沢・服部コンビの「東京ワルツ」のオリジナルは昭和29年、コロムビアの新人千代田照子によってうたわれたもの。

昭和29年という時代。
敗戦から9年目。
東京にはいまだその残滓がみられた。焼跡こそほとんど消えていたが、そのあとの原っぱには防空壕の残骸があったし、駅前で靴みがきの子供や傷痍軍人の姿をみかけることは、ごくあたりまえのことでした。

それでもプレ経済成長期であり、東京の街は空襲以前にも増してモダンな様相に再構築されていきました。
ひと昔前の敵国アメリカから金髪の美女マリリン・モンローが来日し、街頭テレビではアメリカのシャープ兄弟と力道山が喧嘩まがいの試合(実はなれ合いなのだが)を行い、観客は神業・空手チョップに留飲を下げていたり。

10年前ほんとうに日本はアメリカと戦争をしていたのだろうか。
鬼畜米英を叫び、一億総玉砕も辞さずという大和魂で臨んだあの“大喧嘩”の遺恨がわずか10年で霧散してしまうものだろうか。
そんな疑問が浮かぶほど、日米の関係は修復されてしまっていました。
そのおかげで、日本の驚異的な経済発展がはじまることになるのですが。

西沢爽が書いた「東京ワルツ」には、そうしたプレ経済成長期の東京の断片がちりばめられています。

日本一の歓楽街のナイトライフは完全に復活し、おびただしいネオンのまたたきが男女の本能を刺激する。

東京の地下鉄は、昭和2年の銀座線にはじまるのですが、この29年、戦後初の路線として丸ノ内線が開通。サラリーマンにとっては通勤ばかりでなく、ナイトライフにも欠かせない“足”がふえたことになったのです。
そしてこのあと、東京の地下はモグラが爆走するように掘り進められ、いくつもの路線が誕生していくことになります。

♪メトロで帰った君よ
とうたわれた、「君」はオリジナルでは男のこと。昭和30年代あたりまでは、女性も愛しい男性のことを「君」と呼ぶことがめずらしくなかった。

楽しいデイトが終り、地下鉄で家路につく彼氏を彼女がホームで見送るというストーリー。ふつう逆のような気もしますが、そういう男女関係があったって不思議じゃない。

でも見送った彼女はどこへどうやって帰ったのか。
もともと都心に住んでいたのか。はたまたデイトではなくホステスさんで、店を抜け出して思い入れのある客を見送りに来たのか。まぁ、余計なことですね。

街角に捨てられた花束。これも時代を反映しています。
当時歓楽街には“花売り娘”と呼ばれた女の子が生活のため、酔客相手に花を売っていたのです。♪花を召しませランララン なんてね、違ったかな。

そして、鼻の下をのばしたオヤジどもが気前よくそのブーケを買い求め、気に入ったバーやキャバレーのホステスにプレゼントするのです。もちろん無償の行為なんかじゃないんだけど。

女は誰でも花をもらえば喜ぶと思ったら大間違い。
なかには、男を捨てるようにポイと路上に投げ捨てるお嬢さんだって。

また、東京の街のあちこちでビルが建ちはじめ、それがまさに復興の象徴でした。
それでも現在のような高層ビルなどなく、日本一の高さをほこるビルヂングは丸ビルの9階。建築基準法でそれ以上はご法度だった。

いまでは何のことはない話ですが、当時は大きなガラス窓があるビルではたらくことがモダンであり、昭和29年という時代の最先端をゆく東京人のステイタスだったのでしょう。

そして、再びそんな歓楽街にうごめく男と女。
それは客とホステスという関係かもしれないが、つきつめれば男も女も愛情を求め、愛情に飢えている可愛い存在であることは今も昔もなのです。

“疑似恋愛”の終った夜ふけ、疲労感に足をひきずりながら帰る男にも女にも、夜空の星たちが(当時の夜空は今よりはるかに星が瞬いていた。多分)、「きっと明日はいいことがあるぜ」と囁きかけてくれているよう。

そんな歌が「東京ワルツ」。


昭和29年、もちろんわたしは生まれていたが、ヨチヨチ歩きでほとんど記憶もない頃。

それでも、この歌を聴くと、昭和29年、20代のサラリーマンであるわたしが夜な夜な東京を彷徨っている光景が浮かんでくる。それが不思議と心地よい。
だから好きな歌でもあるのですが。

実は、西沢爽はとても好きな作詞家で、今日7月19日は彼の命日。
彼が近世歌謡に関する大書を著し、博士号を得たことや、作詞家以外でも数々の類まれなる才能を発揮したことに興味のある方は、ウィキペディアでも見ていただくことにして、今回の主題である、西沢爽の「東京ワルツ」以外のフェヴァリットソング5曲を、短い?能書きとともに紹介してみたいと思います。

さすらい(小林旭)昭和35年
日活映画「さすらい」の主題歌。
映画は観てませんが、歌は憂愁たっぷりでいいです。
アキラの“流れ者三部作”のひとつ(と勝手に呼んでます)。

西沢爽の歌詞はとにかく暗い・昏い・クライ。
29歳と決して早くない作詞家デビューの41歳のときの歌。
どれほど暗い青春(たしかに戦争真っ只中だった)を送ってきたのかと思ってしまう。

日本人の憧憬である「流れ者」、「漂泊者」の歌ということもありヒット。個人的には小林旭の代表曲。ほかでは「ギターを抱いた渡り鳥」をはじめ「アキラのダンチョネ節」、「アキラのズンドコ節」など「アキラの」と冠がつく歌のほとんどが西沢の作詞。

曲はパブリック・ドメイン、つまり伝承歌というより日本のクレジットでは「作者不詳」。
編曲(これが素晴らしい)の狛林正一が補作しています。

ひばりの渡り鳥だよ(美空ひばり)昭和36年
思わずバカ踊りをしたくなるようなノリのいい歌。それでいて哀愁がこもっている。
こういう歌はすきだな。三波春夫「チャンチキおけさ」と双璧。

もちろん美空ひばりのなかではナンバーワン。
西沢爽の「股旅もの」はめずらしい。
戦前から戦後も昭和30年代前半あたりまでは歌謡曲のなかでも「股旅もの」「時代もの」は盛んでした。

高度経済成長とともに映画のなかでもまず時代劇が斜陽となり、それとともに流行歌の時代もの、とりわけ股旅ものも廃れていきました。
大ヒットということでいえば昭和35年の「潮来笠」(橋幸夫)が最後でしたか。
平成になって演歌の星・氷川きよし「箱根八里の半次郎」で奇跡の一発をかましましたが。

「ひばりの渡り鳥だよ」は「潮来笠」の翌年のリリース。
曲は、前述の狛林正一。ドドンパのリズムが時代を感じさせる。そのノリのよいアレンジは若き日の市川昭介

ひばりの歌も数多く作詞している西沢爽ですが、ヒット曲では「波止場だよお父っあん」「ひばりの佐渡情話」がある。

恋しているんだもん(島倉千代子)昭和36年
ひばりよりも詞を書いた数が多いのが島倉千代子。
初のヒット曲が昭和33年の「からたち日記」。その後名コンビとなる遠藤実(当時は米田信一)の作曲。

翌年には船村徹と組んだ「哀愁のからまつ林」がヒット、そして36年には「思い出日記」(遠藤実)さらに市川昭介との「恋しているんだもん」と続く。

この幼児言葉をつかったハッピーカマトトソングがヒット。
♪小指と小指からませて
♪地球もちいちゃな星だけど 
と当時としては歌詞がユニーク。

その後もお千代さんとのコンビで、「星空に両手を」(with守屋浩)、「ふたりだけの太陽」、「涙の谷間に太陽を」などのヒットを。

仲間たち(舟木一夫)昭和38年
昭和30年代後半になると青春歌謡全盛に。当時のコロムビアの看板といえば舟木一夫。
その舟木一夫では3つの西沢爽のヒット曲がある。
38年の「仲間たち」、40年の「ああ青春の胸の血は」、おなじく「あありんどうの花咲けど」の3曲。作曲はいずれも遠藤実。

どれも抒情作詞家・西沢爽の本領が発揮された名作ですが、今回はいちばん古い「仲間たち」を。
「下駄を鳴らして」とか「帽子まるめて」とバンカラ学生が描かれているが、この歌がつくられた昭和38年にはほぼ絶滅していたはず。
当時40代半ばの西沢にしてみれば、戦前の自身の学生生活をノスタルジックに書いたものなのでしょう。おそらく。(それから10数年後でも、♪下駄を鳴らして奴がくる なんて歌がつくられてるんだから、いいよね)

おさらば故郷さん(加賀城みゆき)昭和41年
さいごは昭和40年代のこの歌を。

加賀城みゆきはその名のとおり、金沢の出身。
金沢生まれの先輩と飲んで、ナツメロの話になると必ず彼女の名前が出てきます。なんでも高校の同級生だったとか。それはともかく。

千代田照子や島倉千代子と同じく、コロムビアの歌謡コンクールで優勝。
翌年19才のデビュー曲としてうたったのがこの「おさらば故郷さん」。
曲は「新宿ブルース」(扇ひろ子)和田香苗

東京生まれの西沢爽が、忘れがたき故郷をしのびつつ都会で生きていく女性の複雑な気持ちを書いています。
なによりも44歳という若さで亡くなった加賀城みゆきの声と歌唱がすばらしい。生きていれば60代なかば。きっと演歌の頂上にいたはず。

いつものごとく長くなりすぎましたが、まだまだヒット曲の多い西沢爽。
とりあげることができなかった好きな曲をせめてタイトルだけでも。(聴きたい方はYOU-TUBEで探してみてください)

リンゴちゃん(神戸一郎)、ひとりぼっちのガキ大将(北原謙二)、哀愁海峡(扇ひろ子)、明日は咲こう花咲こう(吉永小百合、三田明)、女の爪あと(水原弘)、青春の城下町(梶光夫)、「春を待つ少女」(安達明)…………。


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