三つの歌●瞳③うるむ [day by day]
♪涙こらえて歩いたね 風も冷たい別れ道
幼い夢よ初恋よ WOOM WOOM さようなら
白樺林をさまよい行けば 悲しく思い出す
うるむ瞳に ゆれてた花の影
(「初恋の丘」詞:淡村悠紀夫、曲:大野克夫、歌:ビーバーズ、昭和42年)
前回に引き続き今回も「瞳」。もう少し泣いてもらいます。
泣くときに出るのは涙だけじゃなくて、声もでることが多い。
でもあまり大声で泣かれると興ざめで、反対に声を押し殺し黙って涙がひとすじ、というほうがジンときて、もらい泣きしたり。
涙が頬を伝わなくても、目にいっぱいたまるだけでも、対峙した人間にとってはグッと胸にせまるものがあります。泣く寸前の様子です。
そんな状態を流行歌では「瞳うるませて」とか「うるむ瞳に」なんてうたいます。
「うるむ」、若い人は「ウルウルする」なんていいますね。
漢字で書くと「潤む」。水分たっぷりの状態ですから、やがて瞼の外へポトリとこぼれ落ちて、泣くことになるんですね。
グッとこらえて落ちずに眼の中にとどまる場合は、どちらかといえば「うるむ」というよりは「にじむ」ではないでしょうか。
泣く寸前の表現、「うるむ」とか「にじむ」なんていうのは、英語にはない表現ではないでしょうか。英語だったらみんな“WET”でしょうから。
簡単便利といえばそうでしょうけど。めんどくさくなくていいですね、英語って。
まぁ、そんなことはどうでもいいのですが、今回はそうした「うるむ瞳」を。
戦前の歌をみてみると、さすが流行歌泣きまくっています。
その頻度たるや戦後より多いかも。
涙、涙にまた涙で、泣かなきゃ流行歌じゃないのか、と思うほど。
「涙する、涙にむせぶ、涙あふれて、涙かくして、涙うかべて、涙ぐむ、むせび泣く、すすり泣く、泣きぬれて」
とまぁ、よくもここまで。
たとえば昭和9年の同名映画主題歌「女の友情の唄」では、
♪仰ぐひとみに 湧く涙
ときわめてストレート。ちなみに作詞は当時の女学生のカリスマ、吉屋信子。
というように、涙はウンザリするほどあっても「うるむ瞳」は見当たらない。
いつの時代でも流行歌には流行り言葉というのか、流行り口調というのか、そんなものがあるようで、戦前は「うるむ」という言葉があまりイケてなかったのかも。
とりわけ「うるむ瞳」あるいは「瞳がうるむ」という発想が、西條八十をはじめ、作詞家の諸先生にはなかったようです。
しかし日本語として「うるむ」という言葉は当然あったわけで、たとえば「涙でうるむ」という歌詞は以下のように時々でてきます。
「天国に結ぶ恋」四家文子 昭和8年
「曠野の彼方」松平晃 昭和11年
「泪で立てし日の丸よ」(筑波高)昭和13年
ということは「瞳がうるむ」のは戦後から。
涙にうるむ 「君待てども」平野愛子 23年
灯うるむ 「三百六十五夜」霧島昇、松原操 23年
うるむのは街の灯だったり、看板だったり、テールランプだったりと、なかなか瞳はうるまない。
その第一号かどうかは、そこまで詳細に調べたわけではないのでわからないですが、昭和37年、北原謙二がうたった「忘れないさ」に、
♪可愛いい瞳が うるんでた
と。作詞は「癪な雨だぜ」(守屋浩)や「愛の山河」(奈良光枝)などがある三浦康照。
そのあと、やはり青春歌謡の「潮風を待つ少女」(安達明)、「哀愁の夜」(舟木一夫)ででてくる。
ほぼ同時期の、石原裕次郎と浅丘ルリ子の「夕陽の丘」では、「瞳」ではないですが、
♪目頭うるむ 旅ごころ
とうたわれている。ニアピン。
こうしてみると流行歌において「瞳」はさほどうるまないのかな、なんて気もしてきたり。
そんななかでもようやくみつけた「うるんだ瞳」の三連発を。
①初恋の丘 ビーバーズ 昭和42年
スパイダーズの弟分的存在だったのがビーバーズ。
元々はスリー・ファンキーズのバックバンドなどをやっていて、リードヴォーカルの早瀬雅男は、後期ファンキーズのメンバー。ほかではのちにフラワー・トラベリング・バンドに参加するギタリストの石間秀樹がいた。
ブルースハープなども駆使してヤードバーズが目標だったとか。
初恋の丘はデビュー曲で、作曲は兄貴分・スパイダーズのキーボード、大野克夫。作詞の淡村悠紀夫はビーバーズのドラマー。
個人的にはセカンドシングルの「君なき世界」のほうがサイケっぽくて好きだった。その作詞作曲はかまやつひろし。
②白い色は恋人の色 ベッツィ&クリス 昭和44年
♪あの人の うるんでいた 瞳にうつる
ごぞんじ、北山修、加藤和彦の名曲。
これもフォークソングっぽく、イントロのニルソンの「うわさの男」を想起させるアルペジオが印象的。当時ギターを手にした人はこのツーフィンガーを練習したんじゃないでしょうか。
名曲だけにカヴァーされることも多く、本田路津子、アグネス・チャン、宏美・良美の岩崎姉妹、モー娘の市井紗耶香&中澤裕子などなどと。
すきなのは本田ヴァージョンで、編曲は石川鷹彦。ついでにいうとアグネスヴァージョンの編曲は本家の加藤和彦。オリジナルは加藤ではなく若月明人。
③ギャランドゥ 西城秀樹 昭和58年
♪その熟れた肌 うるんだ瞳
デビューが47年の「恋する季節」なので、12年目44枚目のシングル曲。
作詞作曲はもんたよしのり。セルフカヴァーもしているよう。
ギャランドゥといえば必ず“例の毛”が話題になる。
もちろんそういう意味ではないらしく、ではギャランドゥとはというと、空けてびっくりで意味はないんだそう。つまりデタラメ語なのだとか。
よくそんなんでヒットしたな、と思うけど、やっぱり曲がいいというのか、ヒデキのパワフルな歌唱とステージパフォーマンスのなせるワザなのでしょうか。
後進でヒデキの影響を受けたという日本人ロッカーが数多いというのも、わかるような気がする。
昨年また脳梗塞を発症したとか。難しい病気なので無理しないでほしいな。
「ヒデキ カンレキ!」にはまだ間があるけど、70才をクリアした内田裕也や、まじかのミック・ジャガーのように息長くうたってもらいたいシンガーだものね。
もうしばらく「瞳」が続きます。
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