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三つの歌●希望 [day by day]

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♪生きていくことって 泣けてくるよね
 灯の家路に 迷う人には
 夢をけずられても  明日を夢見る
 恋に捨てられても 憎んじゃだめさ
 空を見上げて 涙ためて歩こう
 願いが叶う 星がみつかるように
 
 俺は希望商人 希望商人 幸せのひとかけらを
 喜劇の街へ 悲劇の街へ 売り歩くのさ
(「希望商人」詞:大津あきら、曲&歌:佐藤隆、昭和61年)

今日は寒かった。冷たい風も吹いて。ああいうのをチリ・ウインドっていうんでしょうね。

チリ・ウインドだからって、南米はチリの方から吹いてくる風でも、塵(ちり)を巻き上げて吹いてくる風でもありません。わかってますか。そうですか。

ではさっそく今日の“お題”を。
前回、最後に控えめな予告をした? とおり「希望」

昨年の暮れから、年明けにかけてしばしば見たり聞いたりした言葉です。
去年のことがあっての今年のはじめっていうこともあるけど、震災がなくたってなくちゃならない大切なもの、それが希望でしょうか。

われわれのような、マラソンでいえばとうに折返し点をすぎて、35キロ地点にさしかかろうという“たそがれ族”ならまだしも、若い人にはこの「希望」ってヤツがないと、楽しく生きてはいけない。

希望の形はひとそれぞれでしょうけど、ソイツがあるから、厭なこと苦しいことも耐え忍ぶことができる、そんなものじゃないでしょうか、希望って。たとえそれが幻であっても(そこまでいっちゃうことないか)。

だから流行歌のなかでも、「希望」はふんだんにちりばめられている。
                                       
希望の歌、希望の街、希望の道、希望の丘、希望の轍、希望の鐘、希望の虹、希望の匂い……。

それは、あの暗い戦争の時代から、現代に至るまで、連綿とうたい続けられているのです。まるでアヘン、いや清涼飲料水のように。

今年はなるべく能書きを短くしよう、そのぶん数をふやそう、というのが課題でして。
さっそく「希望ベスト3」ソングを。

「希望商人」佐藤隆
アルバム「日々の泡」のなかの1曲。
「マイ・クラシック」「カルメン」も好きだけど、この曲がいちばん。
はじめてラジオで聴いたときは「希望少年」なんて空耳をやってしまった。

この「希望商人」もそうだけど「マイ・クラシック」も「カルメン」も作詞は大津あきら
佐藤隆の歌は、松本隆、谷村新司、康珍化、竜真知子、岡田冨美子など作詞家陣百花繚乱だけど、なぜか大津あきらの詞に感応してしまいました。

大津はごぞんじの方も多いでしょうが、つかこうへい劇団の音楽を担当して名を挙げた人。
その後作詞家に転じましたが、21世紀をまたず、50歳をまたず、惜しくも病気で亡くなりました。
最大のヒット曲は中村雅俊「心の色」
徳永英明「風のエオリア」もいいな。

「希望商人」はコンセプトがシャンソンの「幸福を売る男」に似ているけど、それよりはもうすこし陰翳が強くて、「喜劇の街へ、悲劇の街へ……」とか「罪と罰を 拾い歩く」とか、作詞家のセンスがにじみ出ている。

「希望」岸洋子
われわれというか、もう少し広げて現在の50代、60代、70代の歌好きに「希望の歌といえば?」って訊ねたら、おそらく半分以上はこの「希望」をあげるんじゃないでしょうか。
昭和45年、西暦なら1970年。まさに激動の年で、この曲や詞にどこか哀調といいますか、翳りが感じられるのは、そうした時代を反映していたからでしょう。

なにしろこの歌のなかで「希望」はなかなか叶うことがない。
「希望」を探し求める旅はかなりハードで、つかみそうになると去っていってしまう。それでも希望探しの旅は続いていく、もしかしたら命が果てるまで続くのかもしれない、というようなニュアンスさえこの歌から感じとれます。

曲は彼女の初ヒット「夜明けのうた」と同じいずみたく。詞はいずみたくとコンビを組んでいた舞台演出家の藤田敏雄

「小さな日記」フォー・セインツと競作でしたが、ごぞんじのように岸盤が大ヒット。
ちなみに編曲は岸盤が川口真。フォー・セインツ盤はいずみたくの弟子? の渋谷毅
とにかく、いろいろなシンガーにカヴァーされている名曲。

ところで、この「希望」には前段、つまりそこへつながるもうひとつの歌があったことをご存じでしょうか。それが、「希望」三つの歌の最後の歌

「若者たち」ブロードサイド・フォー
「希望」の4年前、つまり昭和41年のヒット曲。
同名のテレビドラマの主題歌でした。山本圭、田中邦衛、佐藤オリエ、橋本功、松山省二の5人兄弟の貧しいけど純で熱いドラマでした。

曲を担当したのは黒澤明の「用心棒」など映画音楽を多くてがけた佐藤勝
流行歌では石原裕次郎「狂った果実」、「若者たち」の続編といわれた(ピンとこなかったけど)「昭和ブルース」(ブルーベル・シンガーズ)、「手紙」(由紀さおり)などを。

で、作詞は「希望」と同じ藤田敏雄。
この「若者たち」では、1番で
♪君の行く道は 果てしなく遠い……
と若者が歩んでいく人生が決してイージーではないことをうたっています。
それでも3番では、
♪君の行く道は 希望へと続く……
というように、それでも歯をくいしばって歩き続ければ希望の地へたどりつけると、流行歌の定番で終っています。

「若者たち」が希望を求めて歩き続けて4年、到達できたのか。
すでに述べたようにヒット曲「希望」では、相変わらず「希望探しの旅」を続けています。
これはブラックユーモアでもなければ、若者たちが「希望」をみつけられないのは、4年前よりさらにハードな季節に入ってしまったからということでもない。

これが真理である、カフカの「城」のように決してたどり着けないもの、それが「希望」なのだ。それでも人間はそれを追い求めていくしかないのだ。
とこの2つの歌で作詞者は言っているような気がします。

藤田敏雄はそのほか、「若者たち」が世に出る前の年に雪村いずみ「約束」や、当時世間を驚かせた吉展ちゃん誘拐事件で逃亡する犯人に対するメッセージソング「返しておくれ今すぐに」(市川染五郎、ザ・ピーナッツ)を作詞しています。

とにかく、若い人が希望をもてる日本であり、世界であってほしいというのは“ゴール”目前のわれわれにとって偽らざる気持でしょう。

では、自分を省みて己の希望は何だったのか、現在はどうなのかって考えると、わたしには暗澹たるものがあります。それでも負け惜しみをいわせてもらえれば、希望探しの果てしのない旅は、いまだ続いているのだ、と。ほんとかよ……。


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