●異論な人②ホリデイ [people]
東京には意外と知らない鉄道があるもので、東武亀戸線もそのひとつ。
浅草から足利、伊勢崎と群馬県の主要都市へのびる東武伊勢崎線と交差する「曳舟駅」から終点の「亀戸」まで途中駅が5つ、10分足らずという短い路線。車両が2輌連結というのも東京の路線ではめずらしい。
終点の亀戸餃子、いや亀戸天神で知られる亀戸駅は総武線もあって、利用客はほぼそっち。
わたしも年に数回ほどしか乗ったことはなく、朝夕のラッシュ時はもちろんないのですが、昼間はいつでもゆったり座れるほど空いている。
最近では車窓から至近のスカイツリーも眺められるので、一度乗ってみませんか、ってすすめるほどでもないか。
まあ、そんな地味な鉄道ですが、つい最近も乗る機会がありました。
座席に腰をおろし、見るでもなく車内に眼をやっておりました。
最近、寝不足なのか、電車内で本を読み始めると、1頁もすすまないうちに瞼が重たくなってきて……。ときにはバシャッと本が床に落ちた音で目が覚めたりして。
そんなわけで、バッグから本を取り出す気にもなれません。
電車はひとつ目の「小村井駅」に着きました。
パラパラと 乗りパラパラと 降りる客
なんて川柳をひねっている場合ではありません。
で、乗ってきたひとりの客に目がクギづけ。
すらっとした体型。
デニムの短パン(昔はホットパンツなんていったよね。いまはなんていうの? とにかく超短めの半ズボン)から伸びた長い素足。その先は踝がかくれるほどの短い黒のブーツ。
上はピッチリした白のブラウス。襟はワイドで、ノースリーブ。もちろん裾は外。
顔にはサングラス。これも最近多い昔でいうところのフレームの大きい「アラレちゃんメガネ」。それも白フチ。
さらに紺の野球帽を反対かぶり、その上にもうひとつフチが黒の「アラレちゃん」メガネをのせている。
手には信玄袋のような小さなひも付きの袋をなぜか2つ手首にひっかけていて、足元には洒落たデパートの紙袋を置いている。
車内はガラガラだというのに、その御仁座らず、ドアの傍に立って単行本を読んでいる。
わたしがファッションやブランドに明るければ、もう少し気の利いたレポートができるのですが、悲しいかなグッチもサッチも知らないもので。
とにかく、その後の駅で乗ってきた客がいちように視線を送るほど目立つというか、キバツというか、キチガ、いやバチガイというか、そんな服装でした。
まぁ、渋谷や青山あたりなら、とりたてていうほどのファッションではないのでしょうが、なにしろ墨田区ですから。東武亀戸線ですから。(関係者の方スイマセン、悪気はないんですよ)
わたしだって、ファッショナブルといわれる街へはイヤイヤながら、仕事でしょっちゅういってますから、亀戸線で見かけた服装などそうびっくりするほどのものではありません。それが女性なら。
そうなんです、そのデニムの短パンの御仁はオトコなのです。
しかし、最近は男だって、ミニスカートこそ履きませんが(ロングだって履かないよ、フツウ)、ノースリーブのブラウスに短パン姿なんて、特筆するほどのファッションでもありませんよね。それが二十歳前後の若い男なら。
そうなんです、その帽子反対かぶり、ダブルサングラスの男は、その顔の表情(とりわけシワ)から、どうみてもわたしより年上、つまり60代後半、ややもすれば70代とお見受けした次第なのです。
サングラスに隠された顔は、やや面長で「ゆうちゃん」に似ていました。
日ハムの斎藤佑樹かって? まさか。
じゃ、石原裕次郎かって? いえいえ、言ったでしょ「面長」って。そう、伊藤雄之助ですよ。え? 知らない? そうか。
でも文庫本に眼を落して、うつむいている感じはなんとなく、ミシェル・ボルナレフを連想させました。
彼が何者なのか、また、何処へ行くのか、興味はありますが深追いは禁物。
かのミシェル氏、終点で降りると、さっそうと総武線の改札方面へ歩いてきました。わたしなんかよりもはるかに若々しい歩調でした。
新しい発見は、彼の帽子のマークが「B」で、これはまごうことなくMLBは「ボルチモア・オリオールズ」のそれ、ということでした。
では最後にいつものように音楽を。
やはり、かの「先輩」にちなんでミシェル・ポルナレフMichel Polnareffを。
とはいっても知っているのは「シェリーに口づけ」Tout, tout pour ma chérieと「愛の休日」Holidaysぐらい。
「愛の休日」の原題はホリデイズ。
ホリデイズ、あるいはホリデイという歌はけっこうあるようで、マドンナやグリーンデイなどもうたっています。
しかし、われわれの世代ではミシェル・ポルナレフもいいけど、やはりビージーズBee Geesじゃないでしょうか。これは名曲ですね。
ところでミシェル氏、あの改札へ消えていったときの歩き方、うしろ姿から受ける印象は、もしかした、こっち系、いやあっち系のひとかもしれないって気がしました。服装見れば想像つくだろって話もありますが。
でもいつだったかテレビで、オカマと女装趣味は違うんだというようなことをやってました。彼がどちらだったのかはわかりませんが、他人がどう思うとわが道を行くという思いは伝わってきました。
世の中男と女のふた通り。“中間”といわれるひとだって、厳密にいえばどちらかにわかれてしまう。
そうであるならば、誰にだって程度の差はあれ“転換願望”があるんじゃないでしょうか。
「じゃあ、おまえは女装できるか?」って?
いやあ、それはちょっと……。
でも、陽水じゃないけど、人生が二度あったとしたら、来世では、女じゃなくてやっぱり男でこの世に現れたいけど、今度は女装趣味のある男がいいな。
世界俳句同盟さま、niceをありがとうございました。
今後ともよろしくお願い申し上げます。
by MOMO (2011-09-26 22:59)