SSブログ

●谷間/邦楽篇 [a landscape]

谷①.jpg

♪みどりの谷間に 山百合ゆれて
 歌声ひびくよ 観光バスよ
 君らの泊まりも いで湯の宿か
 山越え 谷越え はるばると
 ランラララ…… 高原列車は
 ラララララ 行くよ
(「高原列車は行く」詞:丘灯至夫、曲:古関裕而、歌:岡本敦郎、昭和29年)

いきなり連想ゲーム。
「豊、幹一、佳知、桃子、晃」の名前に共通した苗字は?

もう少しかんたんにすると、
「ナオミ、亮子、隼人、啓、トニー」

で、わかりますね。というかタイトルではじめからバレバレ? そりゃそうだな。

今回の“お題”は何の脈絡もなく「谷」
まぁ、強いていうなら「山」も「川」も「丘」もすでにやったから。

「谷」とは説明の必要もないでしょうけど、かんたんにいえば、山と山など高い地形の間にある窪みや低地。
そこには当然のごとく川が流れていて、集落が形成されていることも。

やがてそうした人の住む「谷」には名前がつけられたり。
東京でいえば「四谷」があり、「千駄ヶ谷」があり、「阿佐ヶ谷」があって「渋谷」もある。
ほかにも下谷、雑司ヶ谷、谷中、世田谷、雪谷などと各所に地名として残っています。
東京がどれだけ凸凹だったかということ。

長くなりそうなので「枕」はこのへんにして、さっそく「谷」の歌を。

「山」や「谷」の歌、ということになるとストレートにうたわれるのが自然讃歌。
たとえば、
♪箱根の山は天下の嶮 函谷関(かんこくかん)もものならず 萬丈(ばんじょう)の山千仞(せんじん)の谷………… 「箱根八里」(作詞:鳥居忱、作曲:瀧 廉太郎)

というのがありますが、あくまで人間が主人公の流行歌では、登山の歌か、そうした「谷」に住む人たち、あるいはかつてそこに住んでいた人間が彼の地を懐かしんで、つまり望郷の思いでうたうというケースが多くなります。

ところが、流行歌の発生した昭和初期から終戦までのおよそ20年あまり、「谷」が出てくる歌はおもいのほか多くありません。
それでもいくつか拾ってみると、昭和18年の「木曽の山唄」(田端義夫)の
♪木の間隠れの 谷間から 今日もせせらぎ さらさらと
以外は以下のとおり。

♪谷の朝霧 隈なく晴れて 「明日はあの山」(東海林太郎) 昭和9年
♪夏の谷間の 山ざくら 「北の国境線」(東海林太郎) 昭和11年
♪あの谷川に 昔ながらの 月が出る 「ふるさと恋し」(東海林太郎) 昭和13年
♪峰よ谷間よ 独り往く 「落葉街道」(東海林太郎) 昭和15年

と、なぜか東海林太郎ばかり。
おまけに東海林太郎は、昭和9年にアメリカ民謡の「谷間の灯」もカヴァーしていました。

その「谷間の灯」以外は、聴いたことのない歌ばかりで、YOU-TUBEにだってない。

しかたないので、とりあげるのは戦後の歌、ということに。

敗戦後いちはやくヒットした「谷」が出てくる歌はこれ。
♪遥か谷間より こだまはかえり来る 「山小舎の灯」近江俊郎

敗戦から2年後、山登りの歌。2年前は登山すらできなかったのですから、その解放感が歌詞から伝わってきます。

その2年後の昭和24年には“青春讃歌”の代表曲ともいうべき「青い山脈」が映画とともにヒット。
♪青い山脈 緑の谷へ 「青い山脈」藤山一郎・奈良光枝

昭和20年代はまさに“遅れてきた青春”を取り戻そうとばかり、戦闘機も軍艦もない流行歌の中で自然がうたわれ、そのなかに「谷」も欠かせないローケーションとして登場していきます。
♪あの山もこの谷も 故郷を 想い出させる 「ハバロフスク小唄」近江俊郎 24年

♪谷影にともる灯も レイホー レイホー 「アルプスの牧場」灰田勝彦 26年

♪谷の真清水 汲み合うて 「山のけむり」伊藤久男 27年

♪みどりの谷間に 山百合ゆれて 「高原列車は行く」岡本敦郎 29年

昭和30年代になると「花の都」の反動で故郷の良さを見直そうという「ふるさと歌謡」が盛り上がり、それは40年代になっても、地元に生活の基盤を置く人ばかりでなく、都会に出て生きる人たちの琴線にふれる歌として、支持されていきます。そしてそんななかに「谷」も。

♪ハッパの音が 明けりゃ谿間に せきたてる 「あゝダムの町」三浦洸一 31年

♪谷の瀬音が 心にしむか 「山の吊橋」春日八郎 34年

♪谷間の春は 花が咲いてる 「銀色の道」ダーク・ダックス 41年

♪緑の谷間 なだらかに 「ふるさと」五木ひろし 48年

♪小さな家が 谷間に見えて 「若草の髪かざり」チェリッシュ 48年

そして、昭和50年代。西暦でいえば1970年代後半から80年代、流行歌の主流はいまでいうところの「J-POP」に取って代わられていきますが、そこで「谷」はどのようにうたわれていったのか、いや、はたして生きのびることができたのか、事情に疎いわたしとしては知る由もありませんが。もはや出る幕がないのかもしれません。

ところで「人生山あり谷あり」といいますが、人生にあるという「山」と「谷」、どちらが苦労の時なんでしょうか。
ふつうに考えると、景気を示すグラフやバイオグラフでも「山」が好調時で「谷」が不調時で、人生でいえば当然「谷」が「冬の時代」ということに。

しかし、現実に登山をすると、これはあきらかに「山」に登る方がキツイ、苦しいということに。反対に平坦な谷を歩いた方が鼻歌が出るぐらい楽。

まぁ、「人生山あり谷あり」は登山にたとえていったわけじゃないんでしょうが。
でも、どんなに高みを極めている人でも、谷底を徘徊している人でも、死んでしまえば同じ。
みんな谷よりさらに深い「奈落」へと落ちていくのですから。


nice!(0)  コメント(2) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 2

toty

谷間というと、
谷間の教会が、思い浮かびます。
(森の教会と訳しているところもあるようです)

英語で歌うと、オーカムカムカムカムというあたり、
リズミカルで歌いやすい曲です。

谷間で検索したら、谷間画像というカテゴリーがあるんですね。
女の私がいうのもなんなので、以下省略!
by toty (2011-06-25 09:40) 

MOMO

「森(谷間)の教会」、讃美歌ですね。
カントリーでよくうたいますね。

ほかにも「ロンサム・ヴァレー」だとか、「ピース・イン・ザ・ヴァレー」だとか、「ハーパー・ヴァレー・PTA」だとか、カントリーに「谷」は欠かせません。

「谷間画像」ですか、時間があれば見に行きたいものですが、ブログを書くのに四苦八苦してるので……。
でも、totyさんに挑発されたのですから、「谷間」の番外編をやらねば。
by MOMO (2011-06-26 23:02) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

三つの歌●六月●谷間/洋楽篇 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。