秋歌●宵闇 [noisy life]
♪宵闇 迫れば 悩みも 果てなし
乱るる 心に 映るは 誰(た)が影
君 恋し 口びる あせねど
心は 乱れて 今宵も 更けゆく
(「君恋し」詞:時雨音羽、曲:佐々紅華、歌:フランク永井、昭和36年)
ようやっと寝苦しい夜から解放されそうです。
今年は馬鹿馬鹿しいほど暑かった。
そのわりに蝉の声があまり耳に届いてこなかったように思うのですが、気のせいでしょうか。それともあまりの暑さに参ってしまい「鳴く」のをやめたのかも。セミリタイアなんてね。
バカなことをいってないで、気候もよろしいようなのでさっそく秋の歌を。
午後7時になっても薄暮の状態が続いていた夏の盛りに比べるとだいぶ
日が落ちるのが早くなりました。
月の出が日の入りに間に合わない。
そんな夜の入口を「宵闇」といいます。いや、いいました。
いまや夕闇が迫るとそこここの街路灯がかがやきだす仕組みになっているようです(昔は町内会の人たちがヒモを引っぱって歩いたそうです。みたことないけど)。
だからグラデーションのようにだんだん闇が濃くなっていくということはなくなったのでは。
となると「宵闇」なんて言葉も聞かなくなってあたりまえなのかも。
宵闇の 牛の温みと すれちがう 細川加賀
「宵闇」は秋の季語です。
日の入り月の出のタイムラグが生じるのは秋だから、ということのようです。
「宵闇」の歌といえばやはり(私だけかも)、「君恋し」(フランク永井)に尽きます。
なにしろ“うたいだし”から出てくるのですから。
昭和36年の「レコード大賞」ですね。
作詞は時雨音羽、作曲は佐々紅華。
いずれも流行歌黎明期の達人です。
とりわけ佐々紅華は、昭和初年の浅草オペラの誕生と発展に一役かったひと。
東京は根岸生まれで横浜育ち。今でいうデザイン学校を出てイラストレーターになるはずだったのが、なぜか音楽の道、それも作曲家へ。
初めのヒット曲が昭和3年の暮れに出た「笑い薬」。
作詞も紅華がてがけ、いかにも軽演劇とかオペレッタのワンシーンといった内容。
その直後に発売されたのが「君恋し」。
どちらもうたったのはカジノフォーリー、プペ・ダンサントという当時の浅草エンターテインメントでエノケンこと榎本健一と人気を二分した怪人・二村定一。
その「君恋し」が戦争を挟んで約30年後に再ブレイク。
二村定一盤とフランク永井盤を聞き比べると、時代の違いが浮き彫りされてくるから面白い。
二村定一盤は当時流行りのジャズアレンジ。アレンジャーは日本のジャズの草分け井田一郎。井田のバンドを浅草に呼んだのは佐々紅華だといわれています。
一方のフランク永井盤はこれまた名アレンジャーの寺岡真三で、日本仕様のブルースに。
実は昭和30年代の中盤から後半にかけて、つまり敗戦から20年近く経過した頃、“ゆり戻し”現象ともとれる「リバイバルブーム」が起こります。
その代表的な歌がフランク永井の「君恋し」でした。
その兆候があらわれはじめたのは前年の昭和35年。
佐川ミツオがうたった「無情の夢」。これもジャパニーズブルース。
オリジナルは昭和10年に児玉好雄がうたったもの。作詞作曲は「燦めく星座」のコンビ、佐伯孝夫と佐々木俊一。
そして翌36年にはドドドーン(というほどでもないけど)登場。
まずは日活のトップスターだった赤木圭一郎の「流転」。
オリジナルは「妻恋道中」に続く同名松竹股旅映画の主題歌。上原敏、藤田まさと、阿部武雄のトリオは前作と同じ。
そんな日本調歌謡曲をこれまた日本流ブルースにアレンジして銀幕スターがうたっていました。
わずか1年で主演映画10数本という激走ぶりで燃え尽きてしまった赤木圭一郎。歌はおせじにも上手とはいいがたいですが、いい味をだしていました。(贔屓なもので……)
続いてカヴァーポップス全盛の中、「加代ちゃん」もやってくれました。
「パイのパイのパイ」。
これは元々大正時代に救世軍が演奏していたものを、演歌師たちがそのメロディーを借りて「東京節」などに作り替えたもの。
しかし、さらに遡れば、アメリカは、南北戦争でうたわれた「ジョージア・ソング」Marching Through Georgia が大元に。ということはやっぱりカヴァー曲だった。
そして真打ち・井上ひろし。
彼こそリバイバルソング歌手の名にふさわしい。
まずは昭和35年、彼の最大のヒット曲となった「雨に咲く花」。
これはやはり映画の主題歌として昭和10年に発売された関種子のカヴァー。その後多くの歌手にカヴァーされた名曲中の名曲。これまた……。リバイバルソングは和製ブルースが定番だね。
続いて「並木の雨」。
これは昭和9年にミス・コロムビアがヒットさせている。
そのほか戦前ではないが、以下の昭和20年代の歌3曲もカヴァー。カッコ内はオリジナルシンガー。
東京ワルツ(千代田照子)
別れの磯千鳥(近江俊郎)
山のロザリア(織井茂子「牧場のロザリア」)
そのほか37年38年の“青春歌謡”全盛時には、
その名前からもわかる高石かつ枝が「旅の夜風」(霧島昇、ミス・コロムビア)をはじめ、戦前の大ヒット映画「愛染かつら」の一連の曲や、二葉あき子の「純情の丘」などをカヴァー。
本間千代子は「三百六十五夜」(霧島昇、松原操)を。
神戸一郎と青山和子のデュオで「青い山脈」(藤山一郎、奈良光枝)を。
さらに三沢あけみは「明日はお立ちか」(小唄勝太郎)を
これは昭和17年に小唄勝太郎でヒット。作詞作曲は「無情の夢」と同じ佐伯孝夫と佐々木俊一。
年代からも推測できるとおり、元々は軍歌で出征兵士を送る妻あるいは恋人というストーリー(歌詞が一部違う)。あまり勇ましく感じられないのは、軍歌苦手、艶ばなし大好きの作詞家のせい。
とまぁ、長々とリバイバルソングを並べてまいりましたが、元はといえば秋の歌、「宵闇」だったはず。それが脱線したままあらぬ方向へ(いつもだろって話もありますが)。
でもこれじゃあまりにもシマラナイので、最後に「宵闇」の歌をふたつばかり。ともになぜか昭和51年の歌。
「翳りゆく部屋」松任谷由実
「大阪ラプソディー」海原千里・万里
でも「君恋し」、なんで♪口びるあせねど なんだろう。
残暑お見舞い申し上げます。
何となく暑さも少し落ち着いた感じですね。
フランク永井は聞きなおしてみると丁寧に歌っていたんですね。
当時の音楽のアレンジもジャズと演歌とごちゃ混ぜにした日本の姿がそのままみたいな 力強くて人間くさくていいです。
by レモン (2010-09-17 22:10)
galapagosさん、niceをありがとうございます。
by MOMO (2010-09-21 22:21)
レモンさん、ごていねいにありがとうございます。
ほんとに残暑ですね。
天気予報では明日で最後だといっていますので信じましょう。
来月はカントリーのコンサートですね。
休日はなかなか時間がとれないのですが、もし雨中の晴れ間のように自由な時間がぽっかりできたら、見に行きたいと思っています。
いずれにしても、レモンさんにとって充実したコンサートになることを期待しております。
by MOMO (2010-09-21 22:25)