●小麦色①月影のキューバ 後篇 [color sensation]
♪ パヨパヨ パッパラララ
パヨパヨ パッパラララ
パヨパヨ パッパララララ……
月のキューバの 夜のことよ
甘い恋の 想い出
お月さまも 片目つぶって
ね、プロント プロント 笑ってたの
いまはどこに いるんでしょ
探して 探して あの人を
逢わせてちょうだい 早く早く
ね、プロント プロント ねお願いよ
…………
(「月影のキューバ」訳詞:ホセ柴崎、曲:P.WELCH, M.MERLO、歌:森山加代子、昭和35年)
当時のカヴァーポップスの多くがそうであったように、この「月影のキューバ」も各レコード会社の競作でした。
キングのザ・ピーナッツ以外では、東芝が森山加代子、ポリドールが西田佐知子、テイチクがクリスタル・シスターズ、ビクターが木田ヨシ子。
わたしは当時森山加代子のファンで、その少し前に「月影のナポリ」がヒットしていました。もちろんこのイカしたイタリアンポップスも大好きで、当然この「月影のキューバ」も加代ちゃんヴァージョンがいちばん。
西田佐知子のカヴァーソングというとなんといっても「コーヒー・ルンバ」ですが、ほかにも何曲かレコーディングしています。「月影のキューバ」以外では、「日曜はダメよ」とか「夢のナポリターナ」が知られています。
「月影のキューバ」は聴くとわかるように、お色気度(今どき言わないか)ではナンバーワン。
クリスタル・シスターズはアンドリュース・シスターズやマクガイァ・シスターズのような女性3人のコーラス、「月影のキューバ」は後半を言語(スペイン語)でうたうというなかなかの大人の雰囲気。それもそのはずこの3人はいずれも武蔵野音大出身の本格派。
ただし、シスターズではなくただの友だちですけど。
そして、木田ヨシ子盤。これは聴いたことがないんです。聴いてみたい。
どんなシンガーだったのかも詳しくはしりません。雑誌にのってる写真をみるとポッチャリ型。昭和17年生まれでデビュー曲は「黒いオルフェ」。ほかに「遥かなるアラモ」や「太陽がいっぱい」などのスクリーンミュージックをうたっていたようです。
まぁ、いつの時代もいろいろな人がいるものですから。
で、いよいよ本題というか「月影のキューバ」のオリジナル。
日本ではカテリーナ・バレンテCaterina Valenteのレコードが発売されていましたが、彼女がオリジナルではありません。ザ・ピーナッツのカヴァーの再カヴァーなんです。
「恋のバカンス」もカヴァーしてますしね。多分、日本限定のセールスでしょう。
で、オリジナルはというと、まさに「小麦色」をしたキューバ娘、セリア・クルスCelia Cruz。 原題は「マヒカ・ルナ」Magica Luna。
日本語訳ではだいぶ“創作”されていますが、原詞は「月が輝く夜、そのマジックであなたは私を好きにならずにはいられなくなるだろう」といういかにもラテン系娘の積極的というか超強気ラヴソング。
そして、セリア・クルスといえば、そうです近年亡くなったあのサルサの女王です。
セリアは1925年、キューバはハバナの生まれ。うたいだしたのは1950年といわれています。
そして59年、キューバにカストロによる革命が起こり、アメリカとの国交が断絶します。彼女はその少し前に当時キューバ随一のバンドといわれたラ・ソノーラ・マタンセーラ楽団La Sonola Matanceraとともにキューバを離れていたため、そのまま亡命というかたちでアメリカやヨーロッパで演奏活動を続けることになります。
「月影のキューバ」はまさにそんなときに生まれた曲で、元の歌はユダヤ系の伝承歌だともいわれています。
キューバといえばルンバ、マンボ、チャチャチャ、パチャンガなどリズムの宝庫で、後年サルサの女王となるセリアははじめ、グァラーチャとよばれるダンス音楽を好んでうたい、「グァラーチャの女王」とよばれていました。
「サルサ」に「チャチャチャ」に「グァラーチャ」、「ボンバ」……。若いころから、ダンスミュージックひとすじに生きたセリアの存在感があらためて偲ばれます。
それでは、彼女の歌をもう少し。
「メラオ・デ・カーニャ」Meleo de Canňa
サトウキビは蜜の味、それはまるであなたのくちびるのよう、という情熱的な歌。
「ノーチェ・クリオラ」Noche Criolla
日本ではハワイアンとしておなじみの「南国の夜」の元歌。メキシコのオウグスチン・ララのつくったスタンダード。
最後は晩年のセリア。
YOU-TUBEはトリビュートコンサートかラテンミュージックアワードの授賞式の企画かなにかでしょうか。グロリア・エステファンやホセ・フェリシアーノ(懐かしい)などラテンミュージシャン総動員(多分)で、「恋のサバイバル」Yo Vivileをサルサで。(これだけラテンの星が集まると濃厚というか強烈です)
セリアがいかに後輩たちから尊敬されていたかがわかります。
冒頭、感極まった顔でセリアをみつめていたのがご主人のペドロ・ナイトPedro Knight。元ラ・ソノーラ・マタンセーラのトランペッターで、彼女のマネージメントをしていたそうです。
あの世でもグァラーチャやサルサをうたい、踊ってますね、間違いなく。
それにしても、本歌「マヒカ・ルナ」のどこにも「キューバ」など出てこないのに、カヴァー曲はすべて「月影のキューバ」で統一されています。
誰が決めるのですかね。はじめに録音したレコード会社のプロデューサーでしょうか。それを後続のレコード会社がすべて右ならへしてしまうのも妙。変な世界ですね、レコード業界って。
「キューバ」にしたのはやはり、セリアがキューバ娘だからでしょうね。
その頃「月影の渚」にはじまって、「月影のナポリ」だの「月影のマジョルカ」だの「月影のレナート」だのって、ちょっとした「月影ブーム」。
そんななか「ナポリ」と「キューバ」は都市と国のいわば「ご当地ソング」。
日本にもあったんですよ「月影」のご当地ソングが。
「月影の兵庫」って、……ソングじゃないか。
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