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春の歌⑨朧月 [noisy life]

朧月.jpg
♪菜の花畠に 入り日薄れ 
 見わたす山の端 霞ふかし
 春風そよ吹く 空をみれば
 夕月かかりて におい淡し
(「朧月夜」詞:高野辰之、曲:岡野貞一、大正3年)

春の風情といえば「朧月」もそのひとつ。
かすんだような、にじんだような、ぼんやりしたような月。日本人ってあいまいなものが好きなんですね。それと太陽よりはるかに月を愛している。恩恵を受けているのは、はるかに太陽なのに。

またまた俳句ですが、「朧月」は春の季語。その代表的な歌といえば、上に詞をのせた「朧月夜」

入り日、霞、夕月、におい(あいまいな色合い)と、全体がソフトフォーカスというのでしょうか、今風にいえばユルイ風景。いいですねぇ日本の“原風景”。これもフェヴァリットソングのひとつ。

この詞も曲も美しい「朧月夜」は大正3年につくられたいわゆる「文部省唱歌」で、作詞作曲は「ふるさと」(♪うさぎ追いし かの山)でおなじみの高野辰之岡野貞一のふたり。
元来「文部省唱歌」というのは作者を公にしないという不思議な歌で、戦後もしばらくは「文部省唱歌」のクレジットのままでしたが、その後の調査でそのうちのいくつかは作者が判明。しかし、いまだ不明のままの歌も少なくないようです。

高野・岡野コンビの作とされる歌にはほかに、
♪春の小川はさらさら流る 「春の小川」
♪春が来た春が来た どこに来た 「春が来た」
♪秋の夕日に 照る山紅葉 「紅葉」
♪白地に赤く 日の丸染めて 「日の丸の旗」
など。
ちなみに「朧月夜」と「故郷」は当時小学6年の教科書に載せられました。

「朧月夜」は唱歌のなかでもいまだ多くの人が好んで口ずさむ歌のひとつで、芹洋子鮫島有美子、ボニー・ジャックス、あるいは倍賞千恵子、森繁久弥といった抒情歌を自分の得意なテリトリーとしている歌手はもちろん、それ以外でも、石川さゆり、おおたか静流、吉永小百合、石川ひとみ、さだまさし、アグネス・チャン、美輪明宏らで聴くことができます。また最近の歌手でも槇原敬之中島美嘉が自分のアルバムの1曲としてとりあげています。

もちろん、流行歌でも「おぼろ月」は3分間のストーリーを盛り上げる絶妙の背景であり、しばしば登場します。

古いところでは昭和5年の「祇園小唄」(葭町二三吉)
♪月はおぼろに 東山
作家の長田幹彦が祇園の風情を春夏秋冬にまとめています。作曲は「君恋し」「神田小唄」「笑ひ薬」などをつくった佐々紅華

戦前ではもう2曲。

♪おぼろ月夜の 窓辺に寄れば 流れくるよ ゆかしき調べ 「おぼろ月夜」ミス・コロムビア
昭和13年のモダン日本を思わせる歌。恋する乙女の胸躍る春宵がうたわれていますタンゴ調の曲は「支那の夜」竹岡信幸。作詞は「雨に咲く花」高橋掬太郎

もう1曲が霧島昇渡辺はま子がうたった「蘇州夜曲」
♪涙ぐむよな おぼろの月に 鐘がなります 寒山寺
蘇州は中国の上海に隣接する街。現在は江蘇省蘇州市。戦争の渦中(昭和16年)につくられた名曲。チャイニーズ風メロディーは服部良一。詞は西條八十

戦後になって浅草の元不良、サトウハチローが書いたのが「浅草の唄」
♪強いばかりが 男じゃないと …… あゝ浅草の おぼろ月
昭和22年封切りの映画「シミキンの浅草の坊ちゃん」でうたわれました。戦後の浅草芸人のテーマソングのように好まれた歌で、いまは亡きコメディアン関敬六も持ち歌にしていました。こういう歌を聴くとなんかホッとするんですね。

その浅草を舞台にした「朧月」の歌がもうひとつ。
♪おぼろ月でも 隅田の水に 昔ながらの 変わらぬ光 「唐獅子牡丹」高倉健
「昭和残侠伝」シリーズの主題歌。健さんがまだ30代の頃。

昭和40年に第一作「昭和残侠伝」で始まったシリーズは47年の「昭和残侠伝/破れ傘」まで8本を制作。シリーズ化が固まったのは3作目の「昭和残侠伝/唐獅子牡丹」からで、健さん扮する主人公の名前も花田秀次郎に固定されます。
ここでしばらく寄り道したい気持もありますが、先を急がねば。

ほかでは、
♪おぼろほろほろ十三夜 これが別れじゃあるまいし 「おぼろ月十三夜」榎本美佐江
芸者出身の榎本美佐江の昭和27年の作品。彼女には「恋の十三夜」、「十三夜」(戦前のリバイバル)がある。一時国鉄スワローズのエース・金田正一と結婚したが、その後離婚。平成10年74歳で永眠。

同じ27年には歌う映画スター第一号の高田浩吉「伊豆の佐太郎」が。
♪故郷見たさに 戻ってくれば 春の伊豆路は 月おぼろ
戦前から昭和30年代まで人気だった股旅物。平成の世では氷川きよしがカヴァー。

30年代になると、
♪今夜もこっそり裏山に 出てみりゃ淋しい えーおぼろ月 「逢いたいなァあの人に」島倉千代子
島のたばこ畑で娘が思うのは、東京へ出て行った幼なじみのことばかり。そんな歌。出て行くのは男、待つのは女。その反対もありました。故郷歌謡全盛の昭和32年。

もうひとつ。
♪いややいややと 泣くような おぼろ月夜の 東山 「加茂川ブルース」フランク永井
祇園町、先斗町、木屋町、花見小路と京都の町をうたいこんだ、いわゆるご当地ソング。「祇園小唄」から朧月は東山というのが定説のようです。
これは昭和43年の作品。

そして平成の世になって演歌が2曲。
♪抱いて抱かれた 二十歳の夢のあと おぼろ月夜の 夜桜お七 「夜桜お七」坂本冬美
「夜桜」に「朧月」と贅沢な春の歌。
「お七」といえば「八百屋お七」。しかし平成のお七は恋に狂って火を放つなんてことはしません。燃やしたのは己の恋心だけ。それも“類焼”しないとわかれば「さよならあんた」ときれいサッパリ。江戸娘よりはるかにクールなようで。

♪朧月夜に死にましょう 菜の花しとねに 目を閉じて 「朧月夜に死にましょう」

坂本冬美にはこんな歌もある

♪朧月夜は男に似合う 陰で泣いても顔まで見えない 「朧月夜」八代亜紀
朧月夜が似合う粋な男と女。そんな人間が昔はいたよなぁと阿久悠が嘆いています。「カサブランカ・ダンディ」(沢田研二)の演歌版?

これで今年の春の歌も無事? 終了。それを記念?してナゾナゾをひとつ。
「朧月」とかけて、
「剣道の危機一髪」と解く。
そのこころは「突きが掠(かす)める」……なんて。
オモシロくない? やっぱりね。
それなら自分で、「オボロー!」

 


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toty

春のうららの隅田川♪

「花」の3番にも朧月がでてきました。

3.錦おりなす長堤に
  くるればのぼるおぼろ月♪

昨日歌っていて、あ、これも朧月と思い、
こちらの文を思い出していました。
by toty (2009-04-12 07:59) 

≪カチューシャ≫

「朧月夜」がMOMOさんのフェイヴァリットソングとは・・意外でした!
で・・何か?といわれれば・・・・・

「ふるさと」“toty”さんの「花」「おきなわの花」「早春賦」~もちろん
「朧月夜」・・・≪カチューシャ≫で唄っています~♪

♪お言葉に甘えて≪カチューシャ≫の告知をさせていただきます♪

         ♪♪♪どうぞよろしくお願い致します♪♪♪




by ≪カチューシャ≫ (2009-04-12 22:17) 

≪カチューシャ≫

私ども東京・新宿≪カチューシャ≫では相変わらず皆で元気に唄っております。
世界の民謡、抒情歌、唱歌・・などなど皆様お馴染みの曲を食べながら
飲みながら語りながら~グラノドピアノの生演奏~をバックに
合唱しております☆

老舗≪カチューシャ≫の灯を消すなということで~
名司会者であった故木村俊明が遺していった仲間たちと一緒に
『毎月第一金曜日,月1回だけ』ですが17:00~20:30迄
広いお部屋でソファに座りゆったりと唄っております~♪
是非、大人の空間をお楽しみ下さいませ☆

≪カチューシャ・歌声喫茶≫をお心に留めていただければ
幸いでございます~

カチューシャのHPは閉鎖してしまいましたが『お客様がご自分の掲示板』に
地図など掲載してくださいました、
2009/02/02付けでかなり遡のぼりますがどうぞご覧下さいませ~☆

http://hp.jpdo.com/cgi24/19/joyful.cgi?page=50

♪♪♪どうぞよろしくお願い致します♪♪♪

(詳細はメールでお問い合わせいただければ幸いでございます)

katiucha0206☆yahoo.co.jp
音ステージ「き」歌声≪カチューシャ≫
新宿3-2-2紺野ビル2F
03-3341-1492
(毎月第一金曜日16:30~20:30通話可)
★新宿通り世界堂本店前「どうらくうどん」2F★


by ≪カチューシャ≫ (2009-04-12 22:30) 

MOMO

totyさん、いつもありがとうございます。

ありましたね、「花」。
これまたいい歌ですね。たしかにコーラスにはもってこいですよね。あのハモリはいまでも覚えています。
それに「げに一刻も千金の」なんて難しい歌詞をうたっていたんですね、小学生のわれわれは。いまのガキんちょよりよっぽどかしこかったんですかねえ……?
by MOMO (2009-04-14 22:24) 

MOMO

カチューシャさん、こんにちは。

いいですね、歌声喫茶。
丸山明日香さんの本は読みましたし、何かそれを原作とした芝居をどこかでやっているとか、やるとか。
それでも、昔のように(行ったことないのですが)毎日というようにはいかないのですね。時代ですかね。

でも逆に月一のほうが希少価値があっていいかも。毎日では飽きるかもしれないけれど、月一なら長く続けられそうな気もしますし。

機会があったらぜひ一度おじゃまして、歌声喫茶初体験してみたいものです。

これからもよろしくお願いします。


by MOMO (2009-04-14 22:30) 

カチューシャ

ご返信ありがとうございます~☆

歌声喫茶というと(良くも悪くも)なんだか・・ちょっと・・・
みたいな気分と思いますが(実はカリーナもそうでした)
≪カチューシャ≫はノーテンキというのでしょうか?
春のうららの隅田川という感じです・・・・?

「あの本」お読みになったのですか?
カリーナも読みましたけど~傑作~というか
面白く読みました。

今、外は土砂降りです、こういう時の歌を
思い出そうとしているのですが、思考回路が停止して
タイトルが出てきません(悲)

「嵐」「風」「雪は降る」「ペ(イ)チカ」・・・等思い浮かんだのですが
雨、土砂降り、豪雨、はちょっと・・・?
「雨降りお月さん」というのがありましたけれど・・・

それにしても「風」・・♪人はだれもただ一人旅に出て・・
好きな方が多いですネ。
by カチューシャ (2009-04-14 23:41) 

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