春の歌⑧鞦韆/成人の部

♪幼馴染の想い出は　青いレモンの味がする
　閉じる瞼のその裏に　幼い姿の君と僕

お手手つないで幼稚園　積木ブランコ紙芝居
　胸に下がったハンカチの　君の名前が読めたっけ
（「幼なじみ」詞：永六輔、曲：中村八大、歌：デューク・エイセス、昭和３８年）

若者にとってブランコ体験はついこないだのこと。
それにひきかえ中高年いや、３０歳を越した人にとってはひと山ふた山向うの遠い存在。
それでも結婚して子供ができれば、子守にかこつけて自分が楽しんでみたり。独身だとそうはいかないけど。

でも、そんな子供も小学校の高学年になれば「○○ちゃん、公園へ行こうよ」なんて誘ってみても「マジ？　そんなガキじゃねえし」だって。ガキのくせに。

とにかく既婚者だろうが独り者だろうが、大人になったらブランコには乗らないっていうのがコモンセンス。でも乗りたいよね。世間の眼さえ気にならなければ会社帰りに通る公園で毎日でも乗りたい。
あるいは、酔って帰りが遅くなったときなど、誰もいない公園で夜陰にまぎれてブーラン、ブーランなんてね。

「幼なじみ」（デューク・エイセス）の思い出は幼稚園で乗ったブランコ。
幼稚園から結婚、そして彼らの子供の幼稚園入学までと、幼なじみの成長していくようすを永六輔が節目節目をピックアップして上手に描いています。
作曲は「上を向いて歩こう」ほか名コンビの中村八大。

その中村八大が昭和４４年に作り西郷輝彦がうたったのが「ブランコの唄」。
♪坊やのブランコ　押してあげようね　……ユラユラ　ユラリ
西郷輝彦にしては一風変わった歌になっているのは、ミュージカルの中の１曲だから。
新宿コマ劇場公演のミュージカル「俺は挑戦する」で、作詞作曲は全編なかにし礼と中村八大。芝居の内容は不明ですが、共演者は高田美和、金子信雄、水戸光子など。

昭和のブランコソングもう１曲は谷山浩子の「夜のブランコ」。
♪誰にも言わないで　逢いに来て　夜のブランコで待っている
谷山浩子というと「お早うございますの帽子屋さん」とか「カントリーガール」のようなＯＲＧＡＮＩＣ系というかＮＯＮＳＥＸ系というか、そんなイメージでしたが、この「夜のブランコ」は少し腥い。

この歌の彼女が夜のブランコで待っているのは奥さんのいる男、つまり不倫。ただ、真面目で自制心もあるはずの女性がブレーキをかけられなくなるほど男をすきになってしまったという一途さは伝わってきます。そのほうがよっぽど怖かったりして。
まぁ、好きになったら真面目も不真面目もないってことなのでしょう。そりゃそうだ。

周囲を欺いて彼と密会する罪悪感は十分感じている彼女。ブランコはそんな彼女の揺れる気持ちなんでしょうか。これぞ大人のブランコ、ですね（どこが？）。

それでは平成生まれの鞦韆。

♪日暮れの町　涙でこぐ　ひとりぼっちの　ブランコ　「ブランコ」堀内孝雄
これも大人のブランコですが、彼は悲しいときも、嬉しいときもブランコをこぐ。悲しいことを忘れるために、嬉しいことをからだいっぱいに感じるためにブランコをこぐのだそうです。
よっぽど好きなんですねブランコが。多分子供のころから好きで、子供のころからそうやって悲しみを乗り越え、喜びを増幅させてきたのでしょう。
悲喜兼用で打ち込めるアイテムがあるというのはある意味うらやましい。自分に照らし合わせたとき何かあるかな……。

♪夕暮れの淋しさは　悲しく揺れるブランコ　「ブランコ」みなみらんぼう
アパートのそばにある壊れかけたブランコ。満たされている人はそんなものには目がいかない。魅かれるようにそばへ行き座ってみる。明日が待ち遠しい人はそんなものに腰かけない。
鎖を握り、こいでみると案の定昔の歌が聞こえてくる。ブランコのキイコキイコという音は自分が生まれる前から続いている音で、自分が死んだあとも絶え間なく泣き続ける声のよう。そんな果てしない淋しさを独特の叙情的な旋律でうたっています。

こうして大人のブランコをみてくると、常に前向きな人や幸福に包まれている人はブランコなんかに乗らないのかもしれません。多分「ブランコ」という概念すら大脳メモリーから削除されているのかも。でもそんな人ばかりじゃないはず。
試しにちょっと出かけて夜の公園をそれとなく覗いてごらんなさい。ブランコの泣く声が聞こえるはずですから。たとえそれが春の公園であっても。

ところで世の中アニバーサリーづくしで、「せんべい」から「自転車」まで記念日があるらしい。ちなみにせんべいは１１月７日、自転車は５月５日。
そんなわけですから「ブランコ」にも記念日があります。
前回書いたとおり日本にはじめてブランコが慶応義塾にやってきた日。それが８月１５日。鞦韆（しゅうせん）記念日……。なんちゃって。

ウソですよ。でも、せんべいと自転車はほんとうですから。