春の歌⑤桜吹雪 [noisy life]
♪愛は愛とて 何になる
男一郎 まこととて
幸子の幸は どこにある
男一郎 ままよとて
昭和余年は 春の宵
桜吹雪けば 蝶も舞う
(「赤色エレジー」曲:八洲秀章、詞・歌:あがた森魚、昭和47年)
どうなってるんですか、今年の春。
桜は1週間ほど前2分、3分咲きになったまま足ぶみ。おまけに昨晩からのものすごい風。これが春の嵐っていうんでしょうね。
可哀相に満開前に早くも散らされて……、なんて思っていたら意外と落ちている花びらは少ない。健気にも今週末の人間どもの“祭典”まではって踏ん張っているのでしょうか。予想では明日から暖かくなるとか。
咲き誇った桜もきれいですが、散る桜もまた美しい。はらはらと小さな花びらが枝から離れ、踊り子のように回転しながら地面に落下していくすがたはまさに春たけなわ。そんな折、いきなり突風が吹いて枝にしがみついていた花々が一斉に舞い落ちます。これが桜吹雪。感動的ですね。折しもそれが今日みたいな風の日だったらのべつ花が舞っているわけで、その下を歩いて“吹雪かれたい”と思うのは自然なこころ。
ところで桜吹雪が象徴するものは? 「はじまり」でしょうか、それとも「おわり」でしょうか。
新たなる門出を祝う無音の拍手の嵐なのか、あるいは祭りのあとの淋しさの余韻なのか。もっと単純にいうならば桜吹雪が「喜び」の象徴なのか、「哀しみ」のメタファーなのかということ。いずれにしても感極まる光景ではあります。
上にのせた「赤色エレジー」(あがた森魚)では、夜の桜吹雪のようです。これまた美しい絵柄です。おまけに蝶までが飛んでくる。2番以降には「裸電灯」とか「舞踏会」も出てきて昭和モダニズムが匂ってきそうな歌です。
この歌の場合は「はじまり」でも「おわり」でもない、たんに耽美のイメージとして桜吹雪がつかわれています。
ほかに桜吹雪が出てくる歌でよく知られているのが「サライ」(加山雄三、谷村新司)。
♪サクラ吹雪の サライの空は 哀しいほど 青く澄んで 胸がふるえた
これは旅立ちの歌ですから、「はじまり」つまり祝いの花吹雪ですね。たしかに旅立ちは別れでもあるわけで、哀しみもあるでしょうが、それに勝る新世界への希望がこめられているのでしょう。でなければ24時間テレビのテーマソングにはなりませんよね。
♪櫻吹雪に ハラハラすがり あなたなしでは 生きてゆけぬ 「六本木心中」アン・ルイス
どうもタイトルと歌詞が重ならない歌。なんで心中なのか。あなたなしでは生きていけないから? そりゃアンタだけじゃないの。えっ、年下の彼もそう言ってるって? そういうこと、だから死んじゃおうって。うーん……。
そんな詞は湯川れい子作。この桜吹雪は「赤色エレジー」と同じ“装飾”。流行歌だものこういうケレンはいいよね。無意味な。
作曲は矢沢永吉のバックバンドだった相沢行夫と木原敏雄のユニットバンドNOBODY。
相川七瀬のカヴァーもよかった。
吹雪のように散る花というのは桜のほかにもあるのかもしれませんが、ふつう花吹雪といえば桜のことです(俳句ではそう)。
♪泣きながら きみのあとを 追いかけて 花ふぶき 舞う道を 「サルビアの花」もとまろ
まさかサルビアの花が舞うようには散りませんし、これは桜でしょう。でも、サルビアの花が咲くのは夏から秋。ふつう桜と一緒には咲きません。
ということはサルビアの花と桜吹雪の間にはタイムラグがあるということなのでしょうか。
それとも桜以外の花吹雪なのか。
いずれにしろこの花吹雪は「はじまり」であり「おわり」であるというアンビヴァレンツな意味あいが絶妙。元カノは教会で新しい彼とウェディング。鐘の音と花吹雪が祝福してくれます。反面、「僕」にとっては愛のピリオドが告げられる花吹雪。その光景が美しいだけによけい悲しかったりするんでしょうね。早川義夫の傑作。
最後は涙も超えたある意味絶対的な“哀しい春”をうたった森田童子の「春爛漫」。
♪青く 青き 青の 青い 青さの中へ 哀しい夢 花吹雪 水の流れ……
森田童子と聞いただけで桜吹雪の映像にかぶっていた喚声がサイレントムービーのようになってしまいます。
彼女を失ってから最初の春。去年二人で肩を組んで歩いた桜並木をひとりで歩いてみる。ふりそそぐ桜吹雪に過去と現在、生と死が交錯していき、ひとつの愉悦さえ覚えていく。
そんな森田童子独特の世界を感じさせる歌。バックで細かく刻まれるストリングスがひきもきらず舞う桜吹雪と幻想の世界を演出しています。
桜への思いは様々でしょうが、考えてみれば幸せな花です。
毎年春になると「もう蕾をつけました」「開花宣言です」「今日は何分咲きといったところ」「満開の下花見客でにぎわっています」などとマスコミが連日のように報道してくれるのですから。ということは、なぜか人々が最も開花を待ち望んでいる花ということに。
われわれ中高年になると「ああ、あと何回桜を見ることができるのか……」なんて感慨にふけったり。
たとえばソメイヨシノは五弁の花で、なかには1本の樹で1億近い花をつけるものもあるとか。それほどでなくても1千万ぐらいの花をつける樹はざらなのかも。それが数十本も続く並木ならそれこそ何億という花吹雪が舞うことに。
さらにそれが一斉に降ってきたとしたら……すごいことに。
しかし、あの大量に舞い落ちた桜の花びらはどうなるのでしょう。よく道端に吹き溜まっているのをみかけますが。落ち葉なら焚き火にしたり、袋に詰めてゴミに出したりしてますが、桜は……。
自然消滅してしまうのでしょうか。それとも枯葉のように誰かが掃除しているのか。はたまた食用になるとかいって誰かが持ち帰っていたり。鍋にしたり、餅にしたり……?。
桜、花吹雪といえば、
「夜桜お七」が、まずうかびました。
先日、クラシックばかりと思っていた友人が
カラオケで、これを歌っていて、
やられた!と、思ったもので。
by toty (2009-04-03 10:02)
totyさん、こんにちは。
そうでした、いまやいちばんありがちな演歌を忘れていました。
たしか、恩師・猪俣公章が亡くなったあとの坂本冬美のヒット曲でしたね。「さくら さくら 弥生の空に」って唱歌のフレーズを上手に取り入れたいい曲ですね。
by MOMO (2009-04-04 21:43)