その名は●トーマス [the name]
Met her on the mountain,
I swore she'd be my wife,
But the gal refused me,
So I stabbed her with my knife.
Hang down your head Tom Dooley,
Hang down your head an cry,
Hang down your head Tom Dooley,
Poor boy, you're bound to die.
([TOM DOOLEY] Traditional, vocal by KINGSTON TRIO, 1961)
トーマスTHOMAS といえばかつては発明王、トーマス・エジソンTHOMAS ALVA EDISON だったが、いまは機関車トーマスかな。
その機関車トーマスの発祥地イギリスでは古くから人気だったトーマス、もともと聖書に出て来る12使徒のひとり、つまり聖人の名前が由来している。
アメリカの大統領にも3代のトーマス・ジェファーソンTHOMAS JEFFARSON 、11代のトーマス・ジョンソンTHOMAS ANDREW JOHNSON の2人がいる。
「トーマス」がタイトルについた楽曲といえばすぐにソニー・ロリンズSONNY ROLLINSの「セント・トーマス」St. Thomas が思い浮かぶ。ロリンズの代表作「サキソフォン・コロッサス」Saxophone Colossus に入っているカリプソ風の一曲。一度聴いたら覚えてしまうほど印象的で耳になじむメロディー。
しかしロリンズの「セント・トーマス」は聖人を想って作ったわけではなく、カリブ海のヴァージン諸島のひとつセント・トーマス島をイメージしたもの。ノリのいいラテン・ジャズ風はそのため。
ちなみにその「サキソフォン・コロッサス」でピアノを弾いていたのがトミー・フラナガンTOMMY FRANAGAN 。
トミーはトムTOMと同じトーマスの愛称。
トーマスというより愛称のトムと呼ばれるケースが多く、古くから子供向けの物語「トム・ソーヤの冒険」やマンガの「トムとジェリー」があるし、「アンクル・トム」(白人にへつらう黒人)などという言葉も残っている。
映画俳優でもトム・クルーズTOM CRUIS 、トム・ハンクスTOM HANKSと大物がいる。ふたりとも本名はトーマス。
その「トム」を冠した歌といえば、フォークソングの「トム・ドゥーリー」Tom Dooley がある。
1958年キングストン・トリオTHE KINGSTON TRIO がリリースし、全米ポップスナンバーワンに。
古くからのマーダーソング「トム・ドゥラ」Tom Dulaをキングストン・トリオのメンバー、デイヴ・ガードDAVE GUARD がアレンジしたもの。
この歌によって“モダンフォーク”の幕が切って落とされた。そして60年代に入り、“時代の要請”でボブ・ディランBOB DYLANやジョーン・バエズJOAN BAEZがさまざまなプロテストソングをひっさげて登場してくるまで、キングストン・トリオの時代が続く。
トム・ドゥリーは19世紀後半に実在した男で、心変りした恋人を殺して絞り首になったという。実際の殺人事件をとりあげた歌はマーダーソングと呼ばれ、マザーグースを含めイングランドには少なくなかった。たとえばビートルズTHE BEATLES の「マックスウェルズ・シルバー・ハンマー」Maxwel's Silver Hanmmerもそんな一曲。
そうした歌はアメリカへも“移住”され、「オハイオの岸辺で」Banks of the Ohioや「エレン・スミス」Ellen Smith としてうたい継がれている。
もうひとつ、これはそれほどポピュラーではないがウディ・ガスリーWOODY GUTHRIE に「トム・ジョード」TOM JOADがある。
これは1939年代に書かれたスタインベックJOHN ERNEST STEINBECK の「怒りの葡萄」The Grapes of Wrath の主人公の名前。貧困にあえぐ30年代のアメリカを描いた「怒りの葡萄」は翌年映画化され(監督ジョン・フォードJOHN FORD)ヘンリー・フォンダHENRY FONDAがトムを演じた。
その映画を見たウディはいたく感激してこの歌を作った。歌は、「怒りの葡萄」そのままにトム・ジョードが出所し、貧困から脱出するために家族でカリフォルニアを目指し、やがて正義のために保安官を殴り殺し逃亡するまでをうたっている。
また、ガスリーを敬愛するブルース・スプリングスティーンBRUCE SPRINGSTEENには「ゴースト・オブ・トム・ジョード」The Ghost of Tom Joad がある。
「怒りの葡萄」のラストで、逃亡する前にトム・ジョードが母親に言う。
「母さん、俺は差別や憎しみがある場所、誰かが救いを求めて戦っている場所、そんなところに必ずいるからね」
それは遠い昔の話ではない。いまだって同じ事がくり返されている。だからわれわれはトム・ジョードの亡霊を待っているんだ。とブルースはうたっている。
では3人のトムたちの歌を。
まずはトム・ウェイツTOM WAITS 。
高田渡かトム・ウェイツか、というぐらいの酔いどれシンガー。70年代に初めて聴いた「土曜の夜」The Heart of Saturday Night は衝撃的だった。
俳優でもあり、ジム・ジャームッシュJIM JARMUSCHの「ダウン・バイ・ロー」Dawn by Low に出ていた。ほかでも何度か見かけた。
次にかつてのイギリスのセックス・シンボル(女性向け)、トム・ジョーンズTOM JHONES。
「ラヴ・ミー・トゥナイト」Love Me Tonight で日本に上陸したのは1970年だったか。
とにかくその声といい、顔といい、全体の雰囲気といい、つまりパフォーマンスは迫力満点。「思い出のグリーン・グラス」Green Green Grass of Home「デライラ」Delilah「何かいいことないか仔猫ちゃん」What'a New Pussycatなどヒットを連発した。
そしてあの長くて太いモミアゲ。あの極太モミアゲファッションが日本を席巻(オーバー)したのは彼の影響だったのか、それとも……。その後に出てきた尾崎紀世彦はまさに和製トム・ジョーンズ。
そして60年代アメリカのプロテストフォークの旗手で「ラスト・シング・オン・マイ・マインド」THE LAST THING ON MY MINDの代表曲があるトム・パクストンTOM PAXTON。
ディランと同じ“ガスリー・チャイルド”だが、強烈に訴えるというよりは静かに語りかける歌唱。そのためか日本では知名度がいまひとつ。デビューのきっかけとなった「ランブリン・ボーイ」Ramblin' boy や「学校で何を習ったの?」What did you learn in school today? は日本でも高石ともやや岡林信康がカヴァーしている。
日本のトムといえばブラザー・トム。
彼の父親はアメリカ人で本名はTHOMAS AKIONA AKIMA Jr.。
また第15回世界歌謡祭でグランプリを受賞した「ふられ気分でRock'n' Roll」のTOM★CATなんてグループもいた。
トム、トミーといえばだいたいは男、と思うとそうでもない。
「努くん」で幼いころ「トムちゃん」と呼ばれた人は多いのでは。また「富岡さん」や「富雄くん」は、「トミー」の愛称があったのでは。
ということは女性の「富田さん」や「登美子さん」も「トミー」と呼ばれていた人がいるはず。
そういえば日本の女性カントリーシンガーの草分け、トミー藤山(現在はトミ藤山)が。
ならば彼女の本名が「とみこさん」と思ったら実は「智子」。トモコがトミー……、うーん、愛称ってやつは実に深い……。
コメント 0