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春の歌⑥死春記 [noisy life]

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♪めぐる季節の  人の世に  夏もあります  秋もある
 冬さえあるに  春だけを  おんなは春を  売りまする

 春を手渡す  みかえりに  ひとり寝る夜の  せつなさを
 追い消し去れる  ものならば  春も涙も  売りまする

 めぐる季節の 人の世に  忘れ残りの  風が吹き
 子守唄さえ  ない夜に  死にゆく春も  ありまする
(「死春記」詞:真崎守、曲・歌:淺川マキ、昭和48年)

春が来たからといって誰もがハッピーになるとは限りません。
春だろうが夏だろうが、人間やっていると辛いことはあるもので。
ただ春辛いってことは、外界の明るさとのコントラストでなおさら辛く、ことさら暗い気持ちになってしまうかもしれません。
出だしの春から暗いんじゃ、今年もこの先いいことないな……なんて。
また来る春がないじゃなし、なんて言われても1年待てないなぁ。それに、来年の春だってバラ色の季節という保証なんてないし、いっそのこと……なんて。

そんな暗い春の歌を。

「死春記」「共同幻想」で知られる漫画家・真崎守が短編集のタイトルに自ら詞を書き、それに浅川マキが曲をつけて歌ったもの。
尺八まがいのフルート(?)の前奏にのせて歌唱がはじまる。そして萩原信義のギターが入ってくる。これは完全に昭和歌謡。というか、古賀メロディー。どこかの子守唄、あるいはかの「船頭小唄(枯れすすき)」という感じ。こぶしがはいっていたりして。

とにかく古色蒼然たるメロディーにのせて、♪おんなは 春を売りまする と浅川マキが声をしぼります。

暗いなぁ。もちろん女は売春婦。舞台は売春宿。もちろん昭和。それも戦前。吉原なんてきのきいた所じゃない。東京なら千住宿の、いや名も知らぬ地方の裏町の……。そんなモノクロ画像が浮かんできたり。

こんな明日のない絶望的な歌、浅川マキをおいて誰が歌えましょうか。
デビュー当時の藤圭子、じゃ若すぎるし。山崎ハコ、でもあの暗さは違うな。日吉ミミ、あとは演歌の門倉有希とか……。とにかく見かけの暗さではだめ。根っから暗くなくちゃ。そうネクラー。
Jポッパー(そんな言葉ないだろう)に、そういうシンガーがいるかな。まるで知らないけれど、いつの世だっていないわけはない。売れる売れない別にして。

死に行く春に“読経”を三つ四つ。

「裏窓」浅川マキ
♪裏窓からは あたしが見える
世の中から取り残された女。窓に持たれて外を見るしかすることのない女。そこから見えるのは夕陽や川、しあわせそうな2人、そしてまだ若かった頃の自分。
これまた暗い。「死春記」がないので、この歌でも。それも試聴だけ。

「春無情」内藤やす子
♪追いかけようか やめようか
と同棲していた彼氏(彼女かも)が出て行ったあと、布団の中で思いをめぐらしている。テレビのニュースが春の訪れを告げている。彼女にはめずらしいバラード。作詞は喜多条忠。「神田川」のその後? だったりして。

「春爛漫」 森田童子
♪春よ 春に 春は 春の 春は遠く……
尺八とヴァイオリンのアンサンブルが哀しく暗い。「君と肩くんで 熱くこみあげ」たのになぜ哀しいのかって質問が野暮。森田童子の歌は別れたから哀しいんじゃなくて、哀しいから別れてしまい、死んだから悲しいんじゃなくて、悲しいから死ぬんですね。ではもうひとつ存在ゆえの哀しみを。

「蒼き夜は」 森田童子
♪春はまぼろし……君といっそこのまま だめになってしまおうか……君と死んでしまおうか……君と落ちてしまおうか……
解説無用。

「十九の春」 田端義夫
♪ いまさら離縁というならば もとの十九にしておくれ
沖縄に古くからある俗謡で、木村裕助さんが補作したもの。歌詞はかけ合いのような部分もあってややわかりにくいが、要は男に捨てられたお妾さんの怨み節。現役最古参ではと思われる田端義夫の昭和50年と、比較的後期の歌。沖縄ブーム以後、いろいろなカヴァーが出ている。憂歌団でもきいたことがあります。

なお、「十九の春」という歌はほかに、昭和8年にミス・コロムビアのうたったもの(作詞:西條八十)、昭和30年代に神楽坂浮子がうたったもの(作詞:吉川静夫)があり、これらもなかなかいいな。ナインティーンっていうのはアメリカンポップスでもあまり聞かない。だいいち、微妙な年齢。永遠の十九歳。

もうひとつ、これは聴いたことがないのですがビジュアル系バンドの人格ラヂオ「暗い春」、NOi'Xというバンドに「死春期」がそれぞれあるとか。

その「暗い春」には ♪暗い春、透き通った空ほど この目を潰してしまう
という歌詞が。
「大嫌いだ! 青い空なんて……」って叫んだは美樹克彦でしたっけ。何時の時代でも、春に背く若者はいるということ。

でも考え見れば春っていうのは可哀相な季節ですよね。
「売春」「買春」「春歌」「春画」「春機」「春心」……って。
「いい加減にしろ」って言ってます。「じゃあ、あのデパートの伊勢円や高鳥屋でやってるスプリング・セールってのは、そういうことだったのか!」って言ってますよ。きっと。


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