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春の歌⑤卒業写真 [noisy life]

卒業シーズン.jpg

♪ 話しかけるように ゆれる柳の下を
  通った道さえいまはもう 電車から見るだけ
  あの頃の生き方を あなたは忘れないで
  あなたは私の 青春そのもの
  人ごみに流されて 変わって行く私を
  あなたは 時々 遠くで叱って
  あなたは私の 青春そのもの
(「卒業写真」詞、曲:荒井由実、歌:ハイ・ファイ・セット、昭和50年)

昨日は寒かった。
終電まで知人とグラスのやりとり。給料日あとの金曜日ということでやけに酒場は混んでいました。電車もいつもの最終に輪をかけた混雑ぶり。
で、駅から家までの10分あまり、無人の公園の夜桜はきれいだったけど、酔いが醒めたこともあって寒いこと寒いこと。
こういう時期の春は“辛い”と表現する。
春まだ唐辛子……なんて。
くだらないことをいってないで本題に。

「卒業写真」
どこかのラジオからこの歌が流れてくる季節になりにけり。まぁどの学校でもとうに終わってしまっているでしょうが。。
卒業をうたった歌はほんとに多いですね。それほど人生の中でのビッグイヴェントなのでしょう。でも同じ節目となるはずの入学(式)はあまり流行歌では出てきません。

流行歌につきものの涙がないからかな。「涙の入学式」なんてないものね。
そういえば「親父の一番長い日」(さだまさし)に、
♪七五三 新入学 夫婦は狂喜乱舞
という娘の小学校入学を喜ぶセリフがありましたが。

早々脱線ですが、今日の「春の歌」のテーマは“卒業”ではなく「柳」。
そうですあの川の側などでいつも“ロングヘア”を風になびかせている柳の木です。

柳は俳句では春の季語。
霽(は)れぎわの 風が出て来し 柳かな  富安風生

川辺や並木でおなじみのあの柳、正式にはしだれ柳といって古くから日本にある中国原産の樹木。春になると芽が出て青々とした細長い葉が茂ってくる。
大きな物では高さ10mほどになり、その枝葉も豊富になりすぎるため、よく台風シーズン前に剪定されたり。

いまではプラタナスや銀杏に取って代わられましたが、以前、柳といえば東京の並木を代表する樹木のひとつでした。
♪ 昔恋しい 銀座の柳 「東京行進曲」佐藤千夜子
と歌われたほど。

しかしやっぱり、大きく育ちすぎるのと、あの道路にまで達しそうな枝では並木には不向き。戦争中、空襲対策で撤去されたりその空襲で焼けてしまったりで戦後はその主役をほかの木に譲るはめに。それでも「銀座の柳を復興しよう」などという声があったりして、いまでも並木通り沿いにそのスレンダーな姿を見ることができます。

そんなわけですから、流行歌で「柳」が歌われたのは昭和、それもずっと奥まった時代。

「東京行進曲」は昭和4年ですが、7年にはその作詞作曲コンビ、西條八十・中山晋平で「銀座の柳」(四家文子)がヒット。
♪植えてうれしい 銀座の柳
と何やら似たような出だしですがもちろんメロディーは別物。

そのほかの戦前の歌では「東京ラプソディー」(藤山一郎)に、♪銀座の柳の下で とあります。
また「大江戸出世小唄」(高田浩吉)では♪土手の柳は風まかせ
「東京音頭」でも♪花は上野よ チョイト 柳は銀座 ヨイヨイ と。

戦後になっても、銀座をうたった歌ではしばらくの間、柳は欠かせませんでした。
たとえば「東京の花売り娘」(岡晴夫)では ♪青い芽をふく 柳の辻に
「夢淡き東京」(藤山一郎)でも ♪柳青める日 ツバメが銀座に飛ぶ日

もはや戦後ではなくなった昭和30年代以降でも、
♪春になったら細い柳の葉がでる 「銀座の雀」(森繁久弥)
♪春は芽ぐむ お濠の柳 「若い東京の屋根の下」(橋幸夫、吉永小百合)
♪一丁目の柳がため息ついて 「たそがれの銀座」(黒沢明とロス・プリモス)

「柳」は東京あるいは銀座の専売特許(古いな)とはかぎりません。
♪やせて悲しい 枯れ柳 「熱海の夜」(箱崎晋一郎) とか
♪思い出の 柳並木も 川のかもめも 「こいさんのラブコール」(フランク永井)
なんていうのもありました。

それが昭和40年代も半ば以降になるとパッタリ。
もはや柳が東京や銀座の代名詞ではなくなったということ。

もちろんユーミンが「卒業写真」で♪ゆれる柳の下を と歌った頃は、ほとんど見向きもされない風景に。そういう意味でも松任谷由実の言葉選びは上手。

柳の木といえば、江戸の昔から幽霊の出現場所。
「柳、井戸、火の玉」これが幽霊の三点セット。だから元来ロマンチックな風景ではありませんでした。

アメリカでも柳は歓迎されざる木。失恋の象徴なのだとか。
なんでも失恋した人が、柳の枝で編んだ首輪をつけたことからだそうです。いまひとつピンときませんが。

とにかく“悲しい木”で、ジャズでもヴォーカルならビリー・ホリデイBillie Holidayニーナ・シモンNina Simoneなどで知られる「柳よ泣いておくれ」Willow weep for me があります。今日はハンク・ジョーンズHank Jonesのピアノで。

またイギリスの古いバラッドに「ザ・ウィロー」The Willow とい失恋歌があり、それを元にしたアメリカのトラディショナルソングに「柳の下に埋めておくれ」Bury me beneath the weeping willow という曲も。
これは本命の彼に失恋した女性が、結婚式の前日病気で死んでいくという悲しい話。「もしわたしが死んだら、あの柳の木の下に埋めてください」と。

「そしたら、幽霊になって毎日出て来ますわ」というのは日本的発想で、実際は「彼はきっと毎日その柳の木の下に来て、わたしのために泣いてくれるでしょう」と、死ぬ間際まで乙女チックな女性の気持ちをうたった歌です。

好きな曲なのでオマケを少々。
まずはブルーグラスのスゴメンで。続いてTRIOのお姐さん方に。

「桜の木の下には死体が埋まっている」と書いたのは梶井基次郎
アメリカでは柳の木の下に死体が埋まっているのでしょうか。
もしそうだとしても、それは人間ではなく動物の死体じゃないかな。だって言うじゃないですか、猫柳って。


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コメント 2

Mashi☆Toshi

ユーミンでもう一曲「柳」の出てくる曲がありますね。
「14番目の月」
この曲の入っているアルバムが、個人的にはNO.1ですね。

あとWillow Gardenというのは、あちらではおなじみなんでしょうか、
よく目にしますね。
この言葉が登場する曲もあります。
by Mashi☆Toshi (2008-03-29 22:45) 

MOMO

Mashi☆Toshiさんコメントをありがとうございました。

そうですか、気づきませんでした。今度聴いてみます。

Willow Garden って「失楽園」?
そんなことないですよね。
by MOMO (2008-03-30 21:54) 

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