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『タンゴ』 [noisy life]

♪ それは去年のことだった 星の綺麗な宵だった
  二人で歩いた思い出の小径だよ
  …………
  小さな喫茶店に はいった時も二人は
  お茶とお菓子を前にして ひと言もしゃべらぬ
  そばでラジオはあまい歌を やさしくうたってたが
  二人はただだまって 向きあっていたっけね
(「小さな喫茶店」訳詞:瀬沼喜久雄、曲:F. RAYMOND、歌:中野忠晴、昭和10年)

「タンゴ」というとまずあがる名前は、今なら「リベル・タンゴ」アストール・ピアソラでしょうが、ひと昔前ならアルフレッド・ハウゼ楽団、あるいはマランド楽団。さらに戦前からの大先輩たちが愛したのは、フランシスコ・カナロ楽団、バルナバナス・フォン・ゲッツィ楽団

多くの音楽がそうであるように、「タンゴ」もその発生時期を限定できないそうです。大ざっぱには1860~70年代、アルゼンチンのブエノスアイレスで生まれたと。その原形である民族音楽のミロンガがポルカやアフリカ音楽の影響を受けながら、ダンスのリズムとして形作られていきます。当初は安酒場で、商売女が情夫や客と踊ったとか。それがやがて洗練され、20世紀になるとヨーロッパへ渡って大ブームとなる。これが、アルゼンチン・タンゴに対するコンチネンタル・タンゴ。ただこの呼称は日本独自のもの。タンゴはタンゴ。

とはいえ、ミロンガの源流はキューバのアバネーラ(ハバネラ)にあり、そのアバネーラはスペインのコントラ・ダンサに源をもつというのですから、タンゴのリズムはヨーロッパから南米を包むダイナミックな回流ともいえます。

そのタンゴが日本に入ってきたのは大正の末期、フランスから。当初は歌はなく、ダンス音楽としてでした。そのタンゴがブレイクするのは昭和に入ってから

「タンゴ」を題名に冠した歌では昭和7年の「タンゴを踊ろうよ」(四家文子)がありますが、日本の流行歌ではじめてタンゴのリズムを使ったのは昭和6年、古賀政男が作曲した「日本橋から」(佐藤千夜子)だといわれています。

その後、タンゴは徐々に流行歌として浸透していき、10年頃になると、奥田良三、ディック・ミネ、淡谷のり子らが「ラ・クンパルシータ」「淡き光」「黒い瞳」「イタリーの庭」「ジーラ・ジーラ」などの今でもファンに親しまれているスタンダードをカヴァーするようになります。

上に歌詞を載せた「小さな喫茶店」もそう。戦後では菅原洋一で聴けますし、あがた森魚「モンテカルロの喫茶店」というタイトルで吹き込んでいます。由紀・安田姉妹も。

小さな喫茶店 (試聴)

「小さな喫茶店」が出た昭和10年は、ほかに「雨に咲く花」(関種子)、12年には「マロニエの木陰」(松島詩子)、「泪のタンゴ」(松平晃)と和製タンゴがヒットし、流行歌の中のひとつのジャンルとして定着していきます。

タンゴはコンチネンタルタンゴの発信地・ドイツが同盟国ということもあり、“敵性音楽”禁止の波もどうにかかいくぐり、14年には「鈴蘭物語」(淡谷のり子)、17年には「新雪」(灰田勝彦)などがヒット。

しかし、戦火が激しくなるとともに、“ぜいたくは敵”“欲しがりません勝つまでは”と国民総耐乏生活がはじまり、音楽、それも流行歌などもってのほか、とばかり“暗い土蔵の奥”へ押し込められてしまうことになります。

それから第二のタンゴブームが来るのは、終戦後の昭和20年代から30年代にかけて。

「夜のプラットホーム」(二葉あき子)「別れのタンゴ」(高峰三枝子)「懐かしのタンゴ」(山口淑子)「赤い靴のタンゴ」(奈良光枝)「青い夜のタンゴ」(小畑実)「霧子のタンゴ」(フランク永井)などの和製のヒット曲が。
同時に藤沢蘭子早川真平とオルケスタ・ティピカ東京らが本場のアルゼンチン・タンゴを歌い演奏しはじめたのも昭和20年代。

そして、昭和44年の「黒ねこのタンゴ」(皆川おさむ)、平成10年の「ダンゴ3兄弟」のように、突然大ブレイクするのもまたタンゴ。

最後にそのほかの好きな和製タンゴをあげると、
「最後のダンス・ステップ」あがた森魚 大正ロマンの香り。クミコのカヴァーもよかった。
「終末のタンゴ」野坂昭如 ♪ドンナ人間ニモ必ズ終リガ来ル と野坂節の心地よさ。いまはどうしているのでしょうか。
「耳飾りのタンゴ」淀かおる タイトルが色っぽい。いまどき耳飾りなんて聞けない。作曲は「水色のワルツ」の高木東六。

ああ、あのバンドネオンの調べを聴いていると、からだがウズウズ。奥様お手をどうぞ、といいたくても、その奥さんどこかへ行っちゃって……。


nice!(1)  コメント(6) 
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コメント 6

Goeche

偶然…… タンゴはイイナ~
by Goeche (2008-01-10 21:52) 

MOMO

はじめましてGoecheさん。

タンゴ、いいですよね。
自分の未生の時代に連れていってくれます。
by MOMO (2008-01-10 22:10) 

Ma-toshi

村冶佳織ちゃんの「タンゴ・アン・スカイ」は、TVCMでもおなじみです。
彼女のおかげで、「暗い」イメージだったクラシック・ギターがずいぶん明るくなりました。
by Ma-toshi (2008-01-12 22:02) 

MOMO

Mashi☆Toshiさん、いつもありがとうございます。

そのCMは気づきませんでした。
クラシック・ギターってそんなに暗いですか。スポーツで言えば卓球?
となるとギタリスト・村治佳織は“愛ちゃん”?。
by MOMO (2008-01-13 21:30) 

trefoglinefan

私の場合は、服部良一作曲の「夢去りぬ」が好きです。昨年生誕100周年で数多くの歌が歌われたのですが、この素晴しいタンゴが全く無視されておりました。
by trefoglinefan (2008-02-14 23:15) 

MOMO

trefoglinefanさん、はじめまして。

「夢去りぬ」、戦前の曲ですね。
服部良一は「夜のプラットホーム」、「泪のタンゴ」、「鈴蘭物語」、「チャイナ・タンゴ」などなど(「花よりタンゴ」なんていうのも)、タンゴを作らせたら(そればかりではありませんが)、ピカ一でしたね。
by MOMO (2008-02-15 22:41) 

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