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[金木犀] [ozolagnia]

 

♪ 鳶色のひとみに 誘惑のかげり
  金木犀の 咲く道を
  銀色の翼の馬で 駆けてくる
  二十世紀の ジャンヌ・ダークよ

  君のひとみは 10,000ボルト
  地上に降りた 最後の天使
  君のひとみは 10,000ボルト
  地上に降りた 最後の天使
  …………
(「君のひとみは10,000ボルト」詞:谷村新司、曲、歌:堀内孝雄、昭和53年)

秋を告げる匂いといえば金木犀
毎年のことだが、あの甘い香りに遭遇すると、ようやく夏の暑さから解放される安堵感と、陽差しの恋しくなる季節に向かっていく寂しさも感じたりして。

金木犀は木犀科の常緑小高木で、今の時期、葉の元に小さなオレンジ色の花をたくさんつける。原産地は中国で、当地では木犀のことを“桂”というそうだ。風光明媚な観光地桂林は、木犀が多く繁っていたことから名付けられたとか。

金木犀があるのだから、銀木犀もある。やはり木犀科だが、こちらは白い小さな花をつける。金木犀同様芳香をだすそうだが、かいだことはない。植物図鑑で見るかぎり、金木犀との顕著な違いは葉の縁がギザギザで、触ると痛いこと。
トゲのような葉が痛いといえば、生け垣に利用される(ひいらぎ)がそう。じつは柊も木犀科。ついでにいうと、オリーブもまた木犀科だとか。
葉の手触りでは、金木犀がとびきり優しい。

二十歳過ぎまで金木犀を知らなかった。
東京の郊外で初めて一人暮らしをし、半年あまりが過ぎてようやく生活に慣れた頃は秋。ディテールは覚えていないが、たぶん朝寝ができる日曜日か休日だったのだろう。その匂いは突然やってきた。

芳香という感じはなかったが、本能的にそれが花の匂いらしいことは漠然と理解。自身のこれまでの人生のなかで、かいだことのない匂い。強いて類似を探すならば果物の“桃”の香りに似ていた。実際、しばらくは桃の花の匂いだと思っていた。

それが金木犀であることを教えてくれたのは、ある女性だった。
二階だった私の部屋の窓を開け、
「ほら、あの木よ。キンモクセイっていうの」
と庭の一隅を指さした。わたしはその指先にある緑の葉の中に無数のオレンジ色の花を抱えた樹をみつめて、小さな感動を覚えた。〈あの香りはキンモクセイの匂いだったんだ〉
とても素晴らしい知識を授かったような気がしたものだ。

彼女は会社の同僚で、サークルの仲間。そのときも数人の仲間でわたしの部屋へ押しかけてきたのだ。サークルでの話し合いがいつしか激論になることがあった。そんなとき彼女は必ず沈黙を守る。笑顔のまま話を聞いている。その笑顔には無知ではなく聡明さが映っていた。
男に媚びない潔さ、笑顔が真顔に戻るときの虚無的な雰囲気。いまなら少しは理解できるのだが、そういう女性に遇ったのは初めてだった。

そんなわけで、残念ながらわたしの恋心は芽生えず。また他の同僚とのラヴ・アフェアーも起こらないまま、それから数カ月後、彼女は突然会社を辞めていった。ひと月も経つとサークルの中でも彼女の残り香すら消えてしまっていた。

彼女とわたしは人生のほんの一瞬、すれ違っただけ。いまとなっては名前も忘れたし、容貌だっておぼろげ。それでも、わたしにとっては「あれがキンモクせいよ」と教えてくれた忘れられない人。
おそらく、いまどこかの空の下で生きているであろう彼女は、わたしのように一瞬“すれ違った”相手のことを覚えてはいないだろう。それはそれでいい。

金木犀の香る頃になると、彼女口元をほころばせた沈黙を思い出す。

「君のひとみは10,000ボルト」堀内孝雄がアリス時代にソロで吹き込み、ヒットした曲。アリス「チャンピオン」はその数カ月後に発売。

「君のひとみ…」は資生堂のキャンペーン・ソングで、この頃からTVコマーシャルと流行歌のコラボがはじまった。この頃の同様なものをあげると、
「時間よとまれ」矢沢永吉(資生堂)
「Mr.サマータイム」ザーカス(カネボウ)
「季節の中で」松山千春(グリコ)
「魅せられて」ジュディ・オング(ワコール)
「セクシャル・バイオレット№1」桑名正博(カネボウ)
「異邦人」久保田早紀(三洋電機)

「木犀」の出てくる歌には、
♪ 散りそびれた木犀みたいに
と、交差点での彼女との別れをうたった「晩鐘」(さだまさし)がある。

そいうえば、最近聞きませんがキンモクセイというバンドもありました。シリア・ポールの「夢で逢えたら」をカヴァーしてましたっけ。

金木犀の匂いが好きだという人は多い。
金木犀の悲劇は、そのあまりの強烈な匂いのため、トイレの芳香剤に使われたこと。つまり悪臭を芳香で消すということ。おかげで金木犀=トイレの消臭のイメージが定着してしまった。

しかし、さすがに飽きられたのか、現在は悪臭を緩和し、匂いは微香という消臭剤に変わってきている。まあ、金木犀の匂い復権の日、遠からず?。

それにしてもあの金木犀の香り。数メートル先からもはっきり匂う。嗅覚が人間の数十倍といわれる犬にしたら堪ったものではないだろう。蜂や蝶だって辟易してるのでは。

しかし、なぜあれほどの強い香りを出さなくてはならないのだろう。
もしかして、あの匂いに反応する虫がいて、他の虫を遠ざけ、その虫のためにだけ香りを発散しているのでは……。
なんて、勝手なことを想像している秋の夜半である。


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vivir

金木犀きれいですね

そういえば金木犀って消臭剤でよく聞きますw
by vivir (2007-10-13 20:03) 

MOMO

deacon_blueさん、いつもnice!ありがとうございます。

きゃりぱ~さん、nice!とコメントありがとうございます。
昔は(今も?)トイレの側に金木犀を植えるっていう家があったようですね。
by MOMO (2007-10-14 20:52) 

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